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白き黒豹~老害と呼ぶならお好きにどうぞ  作者: 秋月 忍


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ラスカルゴ侯爵家 2

 警察がロクスタン男爵を連れて行くのに合わせ、バーバリン夫妻は帰っていった。雨が強くなってきたため、侯爵家に泊まることも勧めたのだが、トーマスは翌日は仕事があると言って固辞した。仕事人間だとメアリーは呆れたが、メアリー自身がトーマスの仕事を増やしているのも事実だ。本当は、メアリー自身が主体になって動ければ手っ取り早い気もしている。

 ただ、今、メアリーが無謀なことをすれば、ラスカルゴ侯爵家の存続の危機になる危険もあり、迂闊なことは出来ない。

 客人が帰ると、メアリーは自分の部屋にしている客室に書類を運ばせた。爵位の継承や後見人の申請だけでなく、エリックとユキアが亡くなってからの書類が貯まっている。ほとんどの書類はセバスが目を通していて、決済済みではあるが、すべてを任せきりにはしておけない。メアリーは眼鏡をかけた。

「体はともかく、何より目が疲れるわね」

 若いときは、年を取ったら体力的に無理がきかなくなるのは容易に想像ができたが、まさか書類仕事をするのにも無理がきかなくなるとは思っていなかった。体力的なものは、ある程度鍛えることで持ちこたえているが、老眼だけはいかなメアリーでも止められなかった。

「これからの書類は、もう少し大きな字で書いてもらえるようにお願いをしなくてはいけないわね」

 随分と恥ずかしい話ではあるが、ウォルクが仕事をできるようになるまではメアリーが代行することになる以上、細かい字と格闘することは避けたいところだ。

「大奥さま、ジェイムズ・オスティブ将軍がお見えです」

「ありがとう」

 セバスに言われて、メアリーは書類をテーブルの上に置き、眼鏡を外す。外は激しい雨のせいか、もうずいぶんと暗い。

 玄関ホールには既に魔道灯が灯されている。

「やあ、メアリー、酷い雨だね」

「ええ。こんな時に申し訳なかったわ」

 メアリーはずぶぬれ状態の二人に体を拭く布を渡し、温かい飲み物をラウンジに用意させた。

「君の言う通り、軍医を連れてきたよ。ハンス・ザルード大尉だ」

「お初にお目にかかります。ラスカルゴ子爵。英雄であるバーバリン大佐にお会いできて、光栄でございます」

 ザルードが丁寧に頭を下げる。

「まあ、恥ずかしいわ。あなたが生まれる前の話でしょう?」

 メアリーは苦笑する。

「今はただのお節介な老婆だわ。早速だけれど、これがうちの医師ギルク・ヴァルマード氏の診療録よ。診察の前に一度、目を通してみて」

「拝見します」

 ザルードはメアリーの差し出した書類を手に取った。

「……そんな、ばかな」

 ザルードは眉間に皺を寄せ、首を傾げる。

「これが本当だとすると、大変な話です。魔力中毒症は魔獣を食べなくても発症するということになるのですから、学会で発表できるレベルですよ」

「……それならかえって平和だわ」

 メアリーは大きくため息をつく。

「そうだ。例の薬だが、おそらく魔力の中和剤のようなものだ。量が少ないゆえ、特定はできないが。魔力欠乏症の治療のあとに使用するもののようだ」

 オスティブは、分析結果を記入した用紙の写しをメアリーに渡した。

「なんとなくそんな気はしていたわ。まずは、ディビットを診てもらいましょう。話はそれからね」

 メアリーがディビットとジェーンのいる部屋へと二人を案内するために立ち上がろうとしたとき、外でドンという何かがはじけるような音がした。

「なんだ?」

「ネズミみたいね。とりあえず医師(ドクター)には、ディビットをみてもらうとして、ジェイムズ、あなたは、少し手を借してくれない?」

 メアリーは肩をすくめる。

「心当たりはあるのか?」

「おそらくは、ハウザー通りの『赤い燕』の関係者ね」

 セバスを呼び、メアリーは人の手配を始める。ディビットの治療、ウォルクの護衛、その二つは最優先事項だ。

「何故に、そんな奴らがラスカルゴ侯爵家に?」

「ロクスタン男爵が死体にならずに警察に連れていかれたことで、危機感を持ったのでしょうね。一番は、ディビットが魔力中毒症であると診断されることを恐れているのだと思うわ」

 もし、ロクスタン男爵が服毒することに成功していたのであれば、どのように処理しようとも大スキャンダルになる。昼食会で死者が出れば、ホストであるメアリーが参考人として警察に呼ばれるのは間違いないし、もし通報をせずにもみ消そうとすれば、『ゆすり』の良いネタになる。ディビットのことより、当初はそちらが目的だったのだろう。

「さすがに襲撃までするとは思っていなかったわ。考えていた以上にレイハス宮廷魔術師は朝顔会と濃密な関係にあるのかもね」

「いちいち四方八方に喧嘩を売らなくても、俺や警察に任せてくれれば──」

「あら。私としては随分とお任せしているつもりよ。ただ、侯爵家の庭に入り込むネズミについては、徹底して駆除しようと思ってはいるの。手伝ってくれるわよね?」

 メアリーの目の中に強い意志が揺らめく。昔からこの目をしたメアリーと言い合いをして、オスティブは勝てた試しがない。

「……わかったよ」

 オスティブは渋々頷いた。

一日の気温差が激しく体調を崩しやすい季節ですので、皆さまお気をつけて。


最近、更新が滞っております。申し訳ございません。

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