ラスカルゴ侯爵家3
メアリーはオスティブを伴い、屋敷の地下にある警備室へと案内した。
警備室には、屋敷の絵図面が壁に掛かっている。エリックの父である、リチャードの代からそこに掛けられているもので、屋敷に張り巡らされた魔術の罠が発動するとそこに表示される仕組みだ。現在は、裏側にある厩舎近くの付近と林に黄色の光が灯っている。絵図面の前には、何本もの伝声管がおかれていて、その前には、家政婦長のアンリが座っていた。
「様子は?」
「はい。厩舎に放火を試みたようです。この大雨ですから、出火はしておりません。現在は、騎士たちが対応済みです。それから、林側から侵入した一団があって、現在応戦中です」
アンリの答えはよどみない。
「警報の魔道具に、伝声管か。話には聞いていたが、王宮並みの警備体制だな」
オスティブは目を丸くする。
「うちの人が刺客の多さに閉口して取り付けたの。エリックも少し手を入れたようね。ラスカルゴ家は良くも悪くも目立つから」
「まあ、それはわかる。そうでなければアルコル文書は簡単に奪われていただろうから」
特に現王が玉座についたばかりの頃、この国の政情は不安定だった。
リチャード・ラスカルゴは若くして将軍職に任命され、また侯爵としても王の政治を支えたこともあって、命を狙われることも多かった。エリックもまた、アルコル文書だけではなく、大臣職にあるだけあって機密に係ることが多く、侯爵邸の安全には人一倍気を配っていたはずだ。
「この屋敷には、いくつかウィークポイントに見える箇所があって、そこを的確に攻めてきているのは間違いなさそうね」
「おいおい、敵を侮りすぎるのは危険だろう?」
オスティブは呆れ顔だ。
「まさか。弱点に見える箇所だけなら大したことはないかなと思っているだけ。予想外があることも考えておかないといけないわ。そもそも私は護るのは苦手だから、ジェイムズ、あなたの助けを借りたいのよ」
メアリーは苦笑する。
「それに相手の狙いがはっきりしていないから、誘導もしにくいわ」
「まあ、そうだな。ウォルクの誘拐かアルコル文書、君の話を信じるならそのディビットとその妹といったところか。もしくは、メアリー、君の命かな」
オスティブはちらりとメアリーを見る。
「当然、ウォルクやその兄妹は厳重に護るしかない。まあ、敵さんも侯爵家相手に喧嘩を売るつもりなら、戦争する覚悟だろう。赤い燕とやらが、例の家庭教師と繋がっていたとなれば、屋敷の内部にも詳しいと考えるべきだ」
「そうね……」
オリヴィア・ダランドは二年ほど屋敷に住み込んでいた。屋敷の人間なら知っていることは相手も知っている可能性が高い。
「ダランドは、警備訓練には参加していたの?」
メアリーはアンリに問いかけた。
「そうですね。彼女は主に坊ちゃまの安全を確保するという役割を担っておりました。彼女自身はそれほど強くはありませんでしたから、警備ランクはあくまでCランクです。ですから、どこにどんな魔術陣が仕掛けてあるかなどまで詳細は把握してはいないと思われます。ただ、行動範囲に制限はありませんでしたから、当然、警備室の存在も知っていると考えるべきかと」
「なるほどな。敵さんの目的は、まずここの確保の可能性もあるということか」
オスティブは頷いた。
警備室は侯爵の私室につながる秘密の通路もある。そこまでダランドが知っていたとは思えないが、ここを確保することで、邸内の攻略はぐっと楽になるのは間違いない。もちろん、簡単に確保できるばしょではないが。
「大奥さま」
アンリが声を上げた。
「地下の下水道に侵入者があります。ゲートの施錠が解錠されました」
絵図面の一部に赤い光が明滅する。
下水道の通路の入り口には扉があり、そこは魔術によって施錠されており、簡単に侵入することはできないはずだ。少なくとも侵入者の中に魔術師がいる。
「そう……やるわね」
メアリーはおもむろに床の一部をめくった。すると下に伸びる階段が現れる。
「メアリー?」
「ジェイムズ、ここをお願い。途中で何回か連絡は入れるわ。アンリ、閣下の指示に従って」
メアリーは二人の返事を待たず、階段を下りて行った。




