昼食会 3
警察を待つ間、メアリーは兄夫婦とともに、別室でお茶を飲むことにした。
邪気払いとはいえ、飲酒をしたので、酔い覚ましも兼ねている。
ネーサンは既に帰宅し、ウォルクも部屋で休んでいるはずだ。
昼食会は終わったので、バーバリン夫妻も帰宅させるべきではあるが、責任感の強いトーマスはロクスタン男爵を警察に引き渡すまでは、屋敷に留まると言ってきかないのだから仕方がない。
「ごめんなさいね。レイ義姉さま。お疲れになられているのに、お引止めしてしまって」
「いいえ。あなたも休まる暇がないでしょう」
バーバリン夫人は、メアリーの体を気遣う。
「それにしても、自分で毒を含んで、あなたの評判を落とそうなんて。聞きしに勝るクズですわね」
ふう、とバーバリン夫人はあきれ顔だ。
夫人や娘に毒を盛らず、とりあえず自分で服毒しようとしただけマトモだったとメアリーは思ったのだが、クズであることには変わりない。
「あの男は、『赤い燕』の経営する賭博場で借金を作り、首が回らなくなって、妹のユキアに泣きついたものの、返金をするかわりに条件を出されたそうだ」
トーマスは大きく息を吐く。
「魔術請願書ですね」
「ああ」
トーマスは頷く。
「エリックはロクスタンを連れてレイハス宮廷魔術師のもとを訪ねた。だが、レイハス宮廷魔術師はその日、魔力が安定しなかったそうで、取りやめになった。その後、レイハス宮廷魔術師から、魔術請願書は思いとどまったほうがいいのではないかと、こっそり耳打ちされたと、ロクスタンは言っている」
「魔術誓願書を書いてしまえば、ラスカルゴ侯爵家との縁切りは決定的になるって、言われて初めて気づくとか、いろいろ迂闊だとは思うわ」
莫大な借金を肩代わりするのだから、縁を切られるくらい仕方のないことだとメアリーは思う。
「でも、そうなると借金は返せなくなってしまうのでしょう?」
バーバリン夫人は首を傾げた。
「そこで、ロクスタンは『赤い燕』に相談した。赤い燕はロクスタンから得た情報を使って、同じく借金を背負っていたダリに馬車を細工させたと思われる」
トーマスはさらさらとメモを書いている。
先程までロクスタン本人から聞いた言葉を書き留めているのだ。
「ところでメアリー、どうしてお前がハウザー通りの店を知っている?」
赤い燕はここ数年勢力を伸ばしている店で、首都に二十年もいなかったメアリーが知っているはずのない店だ。
「いろいろありまして」
メアリーはジェーン兄妹について話した。
「朝顔会というのに参加しているグノラ医師が、どうも赤い燕という店につながりがあるようなのです」
「朝顔会、聞いたことがありますわ」
バーバリン夫人が指を顎に当て、少し考えこむ仕草をした。
「平民に絶大な人気のあるセミナーで、最近は貴族も参加するようになったとか。なんでもミラ製薬が出資しているから安心だと」
「そのようですわね」
メアリーは頷く。
「それで、そのディビットという少年はどうしている?」
「今日はゆっくり休んでもらっていますわ。夕刻には、ウォルクが軍医を連れてきてくれるはずなので、彼が本当に『魔力中毒症』なのかどうかは、その時に判明するはずです。もし、その場合は、ピーター・ムスタヴの妻も同じ病気の可能性も出てきます」
法務省でスパイを強いられていた男の妻がもし『魔力中毒症』だとすれば、グノラ医師は完全に『クロ』だ。
「ミラ製薬が朝顔会を使って、荒稼ぎをしている可能性が高いということか」
「ええ、そうね」
メアリーは頷く。
「レイハス宮廷魔術師がそこにどれだけ関与しているのかはわからないけれど、知らないはずはないと思うの。彼が魔力の研究をしているのは間違いない事実だし、ミラ製薬はレイハス伯爵家が経営しているのだから」
「……メアリー」
トーマスは心配気に妹の顔を見る。
「そのディビットの治療のことはともかくとして、お前はこれ以上足を突っ込むな。ここから先は、警察と軍の仕事になる」
「ええ、私も年を取って、常識を学びましたの。ですから自分ではほとんど動いておりませんわ」
メアリーは苦笑する。
若い頃のメアリーなら、今すぐにでもグノラ医師をひっ捕まえにいっているだろう。軍にいた頃ならそれくらいの職権乱用をしていた。
「そうか。ジェイムズも気の毒に」
トーマスはメアリーにいいように使われているであろう老将軍の姿を思い浮かべたのか、小さくため息をついた。




