昼食会 2
通常ならば、昼食会は故人の思い出話をしたりすることが多いのだが、さすがにエリック夫妻のような突然死の場合、まだ想い出に浸る余裕はない。
「カーティス、奥さまは相変わらず奉仕活動をなさっているの?」
「ええ、細々とですが、やりがいを感じているようです」
「まあ、素晴らしいわ」
ネーサンをはさみつつ、メアリーとバーバリン夫人で何とか場を持たせるような会話を続けながら食事をする。
ただ、この場にいる幼い子供二人にとっては何の話をしたところで退屈であろう。食べる以外にすることはない、という感じだ。
ロクスタン男爵夫婦は会話に加わる気はないのか、バーバリン夫人が気をきかせて話を振っても乗ってこない。確かに今まで世間話のようなものをしたことがないのだから、何を話したらいいのかわからないのも事実だ。
「こちら、チーズケーキになります」
「わーい! ケーキだ!」
無邪気なアンの喜びとともに、デザートが運ばれてきて、テーブルに皿が並べられる。
「すまないが、果実酒をもう一杯いただけるかね?」
ロクスタン男爵が酒のおかわりを要求し、家政婦長のアンリが瓶を手に酒を注ぐためにテーブルに近づく。その時、ロクスタン男爵は袖の中から何か取り出したように見えた。
「アンリ、待って」
メアリーは立ち上がり、すたすたとロクスタン男爵の傍まで歩き、おもむろに腕をつかんだ。
「な、何を?」
ロクスタン男爵はうろたえる。
「これは、何?」
メアリーはロクスタン男爵の上着を脱がせ、袖の中を探った。小さな薬瓶のようなものがあった。
「先ほど、男爵さまは上着のポケットからその薬瓶を取り出して、袖の中に入れられておりました」
セバスが丁寧に報告をする。
「じ、持病の薬なんだ!」
ロクスタン男爵は薬瓶を取り返そうと手を伸ばすが、メアリーはそれをそのまま兄のトーマス・バーバリンに手渡した。
トーマスは薬瓶のふたをあけるなり、険しい顔になる。あまりよろしくないことがわかった顔だ。
「持病の薬なら、こそこそ飲まれる必要はないでしょう? まして果実酒のグラスに入れて飲むなんて。子供が真似をしたらどうするのですか」
メアリーはふうっと息を吐いた。
「とりあえず、そのグラスは下げておいて。せっかくのデザートをいただいてから、男爵にはお話をお聞きしましょう。よろしいですね?」
メアリーにぎろりと睨まれ、ロクスタン男爵が青ざめる横で、アンは不思議そうにケーキを頬張っていた。
食事が終わると、アンとロクスタン男爵夫人は、先にホテル「プラチナ」に帰し、メアリーとロクスタン男爵、そしてトーマス・バーバリンの三人は別室に移った。
「ロクスタン男爵、君はこれを持病の薬といったが、一体何の薬か聞いてもいいかね?」
「胃腸薬です」
ロクスタンはだらだらと冷や汗をかきながら答える。
「そうか。しかし、君、これを飲むとたぶん死ぬよ。検査をしないとはっきりとしたことはわからないが、この薬の香りには覚えがある。『ドラゴンキラー』だ」
「な、そんな馬鹿な! 軽い下剤だと聞いていたのに!」
ロクスタンは信じられないというように目を見開いた。
「下剤ね……」
メアリーが呟くと、ロクスタンはしまったという顔になる。
「要するに、事実上私が取り仕切る昼食会で毒を盛られたと言い張り、私の評判を落とそうとなさったのでしょうけれど……いったい、どなたからお薬を手に入れられたのです?」
「そ、それは……『赤い燕』の店長から……」
ロクスタンは消え入りそうな声で呟く。
「それはハウザー通りにある、『何でもある』というお店よね?」
メアリーは呆れた。グノラ医師と繋がっていると思われるその店の名をまた聞くとは思っていなかった。
「あなたが下剤を欲しいと?」
「いいえ。その店で借金をしていて。後見人になったら借金が返せそうだとなっていたのだけれど……後見人になるのが厳しくなったといったら、起死回生の方法を教えてやろうと言われて……」
ロクスタンはぶるぶると震え始めた。自分が飲もうとしていたのが猛毒であると聞いたことを理解して、怖くなってきたのだろう。
「君がエリックを殺すように命じたのかね?」
「と、とんでもない!」
トーマスの問いに、ロクスタンは首を振った。
「私は、ただ、侯爵の参加する舞踏会について話しただけだ!」
そもそも王国の上級貴族のすべてが参加するような大きな舞踏会だったのだから、そのことを話したところで何か変わるわけがないとロクスタンは言い張る。
「しかし王城へ向かうルートなども、しっかり話したということだな?」
トーマスはロクスタンを椅子に縛り付けた。
「なんにせよ、君はどうやら命を狙われているようだ。警察で保護することにしよう。メアリー、警察を呼んでくれ」
「ええ。わかったわ」
メアリーは頷いた。




