告別式 2
告別式は、神官長が祭詞を唱える。
ウォルクは椅子に座り、じっと前を見据えていた。
おかれている棺は二つ。
御者のマークについては、家族に引き渡されており、この場にはエリックとユキアだけだ。
「やはり、ウォルクさまに喪主はご負担なのでは?」
ぼそりとロクスタン男爵がメアリーやウォルクに聞こえるように呟く。
メアリーはギロリとロクスタン男爵を睨みつけた。
幼いウォルクに喪主という役割が負担なのは、最初から分かっている。わかっているが、次期侯爵を継承する身である以上、必要なことなのだ。
「大丈夫よ、ウォルク。私がついています。何があっても私が支えます。心配することは何もないわ」
「……はい」
メアリーはウォルクの背をそっと撫でた。
泣き崩れても、取り乱してもかまわない。そんなことで、親を亡くした幼い子供を後ろ指さすような人間がいたら、そちらの方が人間としてどうかしているのだ。ウォルクは目を腫らしながらも頑張っている。メアリーが思っていた以上に、気丈で聡い子供だ。
「それでは、最期のご挨拶を」
神官長に促され、参列者は立ち上がり、花を受け取る。
先頭はウォルクだ。ウォルクはポロポロ涙をこぼしながらも、エリックの棺に花を供えた。そしてしゃくりあげながらも、母親の方の棺にも花を供える。
「お父さま、お母さま……さよなら」
かすれた声を絞り出した時耐えきれなくなったのか、膝が崩れた。
「ウォルク……」
メアリーは自らも膝をついて、孫を抱きしめる。ずっと我慢していたのか、ウォルクは声を上げて泣き始めた。
ロクスタン男爵は渋い顔をしたが、周囲の参列者はむしろ、幼い少年の姿に涙を誘われ、静かに見守る。
祭祀は止まってしまったが、異を唱えるものはいない。礼拝堂全体が悲しみに包まれている。涙は簡単には止まらない。もちろん、メアリー自身も泣いていた。
「偉いわ。ウォルク。ちゃんとお別れが言えたわね」
ハンカチを取り出し、ウォルクの涙を拭き、メアリーはウォルクに手を貸して立たせる。
「さあ、ウォルク、こちらへ。皆さんがご挨拶する番よ」
メアリーはウォルクを促し、棺の傍から離れ、参列者に場所を譲った。
参列の順番は、ロクスタン男爵のあとに続いて、メアリーの兄トーマス・バーバリンとその家族。そのあとは王太子、ジェイムズ・オスティブ将軍と続く。
エリックは大臣職にあったから、公人としての参列者も多い。
メアリーは当初、告別式でエリックの交友関係を垣間見ることでエリックを狙った人間を見極めることができるのではないかと考えていた。
──そんなに甘くはないわね。
メアリー自身の感情も大きく揺れ動く状態だから、冷静に観察できているとは思えないし、故人と対面したところで、感情を揺らすほど犯人は甘くないだろう。
最有力であるロクスタン男爵は、告別式に参列した王太子をはじめとする上位貴族に良い印象を与えようと必死すぎて、空回りしている感はある。そして、レイハス宮廷魔術師は、終始ポーカーフェイスのままだ。対して交流がなく、公人として参列したというのであれば、それもまた自然である。あえていうのであれば、レイハス宮廷魔術師は、ファフニール王太子をかなり毛嫌いしているのは見て取れた。
不敬であるとはいえ、王太子の方は特に気にしていないようなので、問題にはなっていないのかもしれない。
「それでは、棺のふたをいたします」
参列の列が途切れると、神官長は祭詞をとなえる。
「お父さま……お母さま……」
ウォルクの呟きを聞き、メアリーはそっとウォルクの手を握った。




