告別式 1
豊饒の神、女神カードスの神殿は丘の上にある。曇天のせいか、その白い建物は妙に陰気臭い印象だ。
エリックは法務大臣であったこともあり、参列者は錚々たる顔ぶれとなった。
幼いながらもウォルクは目を赤くはらしながらも、参列者に頭を下げる。ロクスタン男爵はその隣に立ちたかったようだが、さすがにメアリーを押しのけて立つ根性はないらしく、メアリーの横に立つことにしたようだ。
ウォルクはオスティブ将軍をはじめ、数多くの貴族の名を既に覚えていた。ユキアから貴族名鑑を覚えるようにといつも言われていたらしい。
二十年社交界に出ていなかったメアリーよりもよほど情報通だ。ちなみにロクスタン男爵は、メアリーと大差がなかった。むしろ、顔の広さから言えば、メアリーの方が圧倒的に知人が多い。
むしろ二十年前は侯爵夫人だったのだから、年配者ほど知人が多くて当然だ。
「この度はお悔やみ申し上げます」
「よく来てくださいました。レイハス宮廷魔術師さま」
ウォルクの挨拶でメアリーは、はっと顔を上げた。
記憶よりかなり老けてはいるが、今でもまだ社交界で人気がありそうな整った顔立ち。王族だという『噂』があるというだけあって、王族に多い金髪碧眼だ。ただ、顔つきが似ているかと言われると、どうだろうかと悩むところである。
もっとも実際に王の血を引いていたところで、今の国王には、既に王太子がいる。たとえ王太子が玉座につかなかったとしても、王には、もう一人王子と、二人の王女がいるわけで、継承権は随分と遠いはずだ。所詮、噂はうわさに過ぎない。
「生前はエリックがロクスタン男爵の件でお世話になったようですね」
メアリーは微かに笑みを浮かべた。
レイハスはちろりと男爵に目を向けると、男爵は気まずそうに視線をそらした。
ひょっとしたら、男爵に口止めでもしていたのだろうか。
「いいえ、残念ながら、お力になれませんでした」
レイハスは申し訳なさそうに頭を下げた。
「そうですか。そのあたりの事情について、落ち着いたらお話をお伺いさせてくださいませ」
「そうですね」
レイハスは頷く。
──表情の読めない奴ね。
沈痛な面持ちを崩さないまま、礼拝堂に入っていくレイハスをメアリーは見送る。
「お婆さま」
ウォルクがメアリーの袖を引いた。
神殿の前に王家の家門を付けた馬車が止まる。降りてきたのは、ファフニール王太子だった。
ファフニールはエリックと同い年であり、幼馴染でもある。幼い頃は、メアリーの夫であるリチャードが剣術を教えていたこともあった。
「ウォルク殿。この度はお悔やみ申し上げる」
ファフニールは緊張するウォルクに優しく話しかけた。
「ありがとうございます。王太子殿下」
さすがにウォルクの声が震えている。面識はおそらくあるだろうが、王族相手に緊張するのは当然だ。
「お久しぶりです。ラスカルゴ侯爵夫人」
「殿下にご参列いただき、誠に光栄です」
メアリーはそっと頭を下げた。
「近いうちに思い出語りをしたい。時間を作っていただけるかな?」
「もちろんでございます。殿下」
メアリーは頷く。
「ありがとうございます、殿下!」
メアリーとファフニールの親しげな様子に焦りを感じたロクスタン男爵がメアリーの横で叫ぶように前に出たが、ファフニールは一瞥もくれず、そのまま礼拝堂へと入っていった。
「お婆さま?」
ウォルクがメアリーを不思議そうに見る。
「殿下は幼い頃、ラスカルゴ侯爵家にもよくお出でになったのよ。貴方のおじいさまが剣術を教えていたこともあったから」
「それは、知らなかったです」
ウォルクは驚いたようだった。
「さあ、ウォルク、中に入りましょう。告別式が始まるわ」
メアリーはウォルクの手を引いて礼拝堂へと入っていった。




