兄妹
短め。すみません。
ジムがジェーンとその兄を連れて戻ってきたのは、夜もだいぶ更けてからだった。二人をとりあえず、風呂に入れるように指示をし、メアリーは応接室でジムから報告を聞くことにした。
「とりあえず家を見張っていたチンピラは追っ払いましたけれど、襲撃の危険があると判断いたしました。しばらく家に戻らなくても良いように荷造りさせたので、帰るのが遅くなり申し訳ございません」
「そう。兄上に話しておいた方がよさそうね。それにしてもハウザー通りってのは、ろくでもないのね」
メアリーはため息をつく。
取引先の店そのものが狙っていたのか、それともそこに出入りしているチンピラが単純に目を付けたのかはわからない。
「ちなみに、あなたからみて、あの兄妹はどう思った?」
「年に似合わずしっかりしておりますね。特に兄のディビットは頭の回転が速い。父親が亡くなった時、親類縁者が兄妹を施設に放り込んで、父親の財産をいいように扱おうとしたのを一蹴したとききました。兄が病気で倒れるまではうまくいっていたようです。それから、これが飲んだという薬瓶です」
メアリーは薬瓶を受け取り、光にかざした。薬瓶の底に紫色の液体が僅かに残っている。
「さすがにほぼ液体は残っていないわね。分析できるといいけれど」
ラスカルゴ侯爵家お抱えの医師に頼むより、警察か軍に任せた方がいい予感はしている。法務省でスパイをさせられていたムスタヴの例もあり、朝顔会が何らかの資金稼ぎの為に何事かを企んでいる可能性が高い。
「遅い時間までありがとう。今日はもう休んでいいわ。明日は夜明けとともに告別の儀式が始まるから」
「ありがとうございます」
ジムを退出させると、アンリがジェーンとディビットを伴って現れた。二人ともラスカルゴ家のお仕着せを着て、こざっぱりとしていた。ディビットは病み上がりということもあり、かなり肌が青白い。
「大奥さま。お二人のお仕度ができました」
「そう。二人とも食事はまだよね? よかったら座ってサンドイッチをいかが?」
「は、はい」
「この度はありがとうございます」
緊張の面持ちで、二人は頭を下げた。
「ディビットだったわよね? 食事が済んだら、うちの主治医の診察を受けてもらうわ。あなたの病気について調べたいの」
「でも、僕の病気はもう治りましたが?」
ディビットは首を傾げる。
「あら。でも、ずっと病んでいたということは体力が落ちているはずよ。簡単な健康診断をしておきましょう。治ったといっても症状が治まっただけという可能性だってあるわ」
咳止めを飲めば、咳は止まるかもしれないし、解熱剤を飲めば熱は下がるかもしれない。だが、イコール病気が治ったとは限らない。もちろん飲んでいた薬が対処療法にすぎないとしても、それは間違いとはいえないことくらい、メアリーにだってわかる。
「僕、診療費を払えません」
ポツリと、ディビットが口を開く。
医師の診療費はかなり高い。神殿に併設されている診療所は無料ではあるけれど、医師はおらず、神官たちが看護をしているだけだ。
「安心して。診療費は気にしなくていいわ。ジェーンにも話したけれど、これは私の趣味よ。あなたと似た症状の患者がいるから、関連性を調べているだけ。流行り病とは違うとは思うけれど、グノラ医師以外の医師の見立ても必要だから」
「そうですか……」
ディビットは納得したようだった。
「大奥さま、医師が参りました」
「わかったわ」
セバスの声に、メアリーは頷く。
「では御飯が済んだら医師に診てもらいましょう。ジェーン、お兄さんが心配なら、あなたも一緒に行くといいわ」
メアリーに言われ、二人は慌ててサンドイッチをほおばり始めた。




