ピーター・ムスタヴ
短め。すみません。
バーミニアンが口を開こうとしたとき、ノックの音がした。
「バーミニアンさま、お茶をお持ちいたしました」
秘書官の男性がお茶を持って現れた。
青ざめた顔をしており、心なしか、少し震えている。メアリーは男の手元を注視した。
「ピーター、顔色が悪いが大丈夫か?」
バーミニアンが男の顔を覗き込む。
「へ、平気です。高名なるオスティブ将軍にお会いして緊張してしまっているだけですので」
しどろもどろになって、秘書官は答えた。
「そんな風に言ってもらうと光栄だね」
オスティブがぎろりと視線を向けると、秘書官はびくりと体を震わせた。
ティカップを置くたびに、細かな音がする。緊張が伝わってくるようだ。
「脅してどうするの?」
「いやあ、すまんな」
メアリーが嗜めると、オスティブは破顔して頭を掻いた。
「と、とんでもないことにございます」
秘書官はぶるぶると震えながら、首を振る。
「あなたは顔が怖いのだから、気を付けないと」
「君ほどではないと思うのだが……」
メアリーとオスティブのやりとりに、自分から関心が外れたと思ったのか、秘書官は少しほっとしたようだった。
「女性にそのようなことをおっしゃるのは、感心いたしませんわ」
メアリーの軽口を聞きながら、秘書官はバーミニアンの脇に立つ。さらに震える手でティカップを置きながら、袖の中から何かを取り出してそれをテーブルの裏側に張り付けた。
「ジム、確保して」
メアリーは小さく命じた。
秘書官が悲鳴を上げて一歩後ずさりする前に、ジムは男の体を羽交い絞めにする。秘書官は抵抗することなく、そのまま膝をついた。
オスティブが男がテーブルの裏に張り付けたものを取り出す。
ガラス玉に似た石がはめ込まれた魔道具のようだ。
オスティブは床にそれを置くと、迷わず剣をその玉に突き立てる。
「壊してしまってよかったの?」
「これは、音声を記録するための魔道具だ。無効化するには、これが一番手っ取り早い」
オスティブはそっと肩をすくめた。
秘書官のピーター・ムスタヴの妻は病気で高価な薬を飲み続けなければいけなかったらしい。
最初は、そこまでではなかったらしいが、今では、二十日に一度、服用しなければ、すぐに体調を崩してしまう。法務省の秘書官は高給取りとはいえ、苦しくなっていったらしい。そんな時、医師から情報の横流しを提案された。新しい法案についてや、犯罪者についての情報。大臣の動向。いずれも、先方から求められたものを提供すれば、薬は無償で提供された。
「妻を……死なせたくなくて……」
身体を拘束されたムスタヴは泣きながら、自供した。
「ところで何の薬を飲んでいるの?」
「アリオト薬剤です。妻は魔力が不安定で、朝顔会のグノラ医師からすすめられ、ミラ製薬から購入しておりました」
ムスタヴの答えに嘘はなさそうだ。
「朝顔会って何?」
メアリーは首を傾げた。
「朝顔会というのは最近、首都で人気を博しているセミナーみたいなものだ。健康増進のための運動を推奨しているとか何とか」
オスティブが説明をする。
「早朝集まって、軽い運動をしたりするもので、平民たちの間で広まっている。昨今は、貴族も参加し始めたという話も聞く」
「集まるってどこに?」
「主に神殿前の広場とからしい。特に政治的な動きは見られないので、問題視されたことはない」
「朝の健康体操で知り合った医師に、すすめられて高価な薬を買ったってことかしら?」
メアリーはムスタヴに質問する。
「妻はもともと虚弱な体質でした。それを改善するために、五年ほど前から朝顔会に夫婦で参加するようになりました。参加してしばらくは非常に調子が良かったのですが、三年前、朝顔会の帰りに突然倒れてしまいまして……たまたま居合わせたグノラ医師に手当てをしてもらいました」
ムスタヴはすらすらと話し始めた。
「そこで、初めてアリオト薬剤をいただきました。妻の容態はあっという間に快方に向かいました。体が虚弱なのは、魔力が不安定なせいだとの診断をいただきました。完治の難しい病だが、アリオト薬剤を飲めば、普通に暮らすことができると。実際、妻は以前より健康になりました。薬剤が効いている間だけですけれど」
「ふうん。なるほど。それで、薬剤を飲まし続けるしかないと判断したわけね」
メアリーはため息をついた。
ちょっと難産。だいぶ書きなおして、とりあえず、ここに落ち着きました(;'∀')




