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白き黒豹~老害と呼ぶならお好きにどうぞ  作者: 秋月 忍


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13/15

ジェイムズ・オスティブ

 メアリーは侯爵家から乗ってきた馬車を屋敷に返し、ジムとともに辻馬車を拾い、軍務省へと乗りつけた。

 まさか御者がスパイであるとか馬車に仕掛けがあるとかを危惧したわけではないが、ここからの行動について、知っている人間は少ないほどいいと判断したからだ。

 トーマスの話を聞いて、もし、エリックを狙ったのが単純な遺産目当てでないとするなら、『敵』は権力の中枢にある可能性が高い。

「オスティブ将軍にお会いしたいのだけれど」

「失礼ですが、お約束は?」

「ないわ」

 若い受付の女性が微笑みながら、値踏みするようにメアリーを観察する。

 将軍に会いたいと、喪服を着た老貴婦人が突然やってきたのだ。その対応は当然だろう。慇懃無礼に追い返されても無理はない。彼女がすぐにそうしないのは、メアリーが明らかに貴族だからだ。

「メアリー・ラスカルゴ、黒豹の魔術師が来たと伝えて。それで会ってくださらないのなら、諦めて帰りますから」

「く、黒豹! バーバリン大佐でしたか! 失礼いたしました。少々お待ちください」

 女性は顔を真っ赤に染め上げ、慌てて奥へと走っていった。

 メアリーと女性の会話が聞こえていたのか、周囲にざわめきがおこる。

「すごい知名度ですね」

 ジムが感心したように口笛を吹く。

「まだ、名前は通用するみたいね」

 おそらくメアリーの顔は誰も覚えていないだろう。いや、覚えていたとしても、今のメアリーと結び付けられるかどうか定かではない。メアリーが軍にいたのは、エリックを授かる前なのだから。

 ほどなくして、受付の女性が戻ってきた。

「お待たせいたしました。将軍がお会いになるそうです。こちらへどうぞ」

 女性は丁寧に頭を下げ、奥の部屋に続く扉を開いた。



 昔と同じ建物のはずだが、メアリーの記憶とだいぶ違うのは改装されて、壁紙も張り替えられているからだろう。

 指令室の場所も、将軍の執務室も記憶通りの場所だが、見た目は随分と綺麗になっている。

「閣下、ラスカルゴ子爵をお連れいたしました」

 女性はノックをした。

──まあ、すごい。

 ほんの少し前まで、メアリーの顔も知らなかった女性が、メアリーの爵位まで知っているとは驚きである。

「ラスカルゴ夫人」

 白髪で白いひげをたくわえた老将軍、ジェイムズ・オスティブが立ち上がって、メアリーを出迎えた。ジムも無言で、メアリーの後ろに立つ。

「エリックのこと……お悔やみ申し上げる」

「ありがとう」

 悲し気に目を伏せる老将軍に、メアリーは微かに笑む。

「生前は実の息子のように可愛がってくれて、ありがとう」

「いや──エリックには随分と慰められた。私の方が感謝している」

 オスティブはメアリーの肩を抱くように椅子に座らせた。

 オスティブはメアリーの元同僚であり、夫、リチャードの部下でもあった。そしてエリックの上司だったこともある。近しい家族のようにつきあってきた。

「告別式は明日行う予定よ。詳細はセバスから連絡させるから、参列していただければあの子も喜ぶわ」

「ああ、もちろん、そのつもりだ」

 沈痛な面持ちで、オスティブは頷く。

「ダルケン少尉、お茶を頼めるかな?」

「はい。ただいま」

 女性が扉を閉めると、オスティブはメアリーをまっすぐに見つめた。

「後見人の話かい?」

「それもあるけれど……エリックは殺されたの」

「何?」

 オスティブは思わず立ち上がった。

「誰が、誰が殺したんだ?!」

「落ち着いて、ジェイムズ。犯人は捕まっているわ」

 メアリーはじっとオスティブをみる。

 昔と同じまっすぐな瞳だ。

「あなた、エリックから何かを預かっているでしょう?」

 エリックが誰よりも信頼できるとアルコル文書を託すとしたら、この男しかいない。軍であれば、捜査も可能だし、機密を守るのにも最適だ。

 オスティブは逡巡するように、押し黙った。

「お茶をお持ちいたしました」

 ちょうど先程の女性、ダルケン少尉がお茶を運んできたこともあり、メアリーとオスティブとの間に微妙な空気が流れる。

「仮に私が預かっているものがあるとして、それのせいでエリックが殺されたというのか?」

 ダルケン少尉が出ていくと、オスティブは静かに口を開く。

「それはまだわからないわ。遺産狙いの線も捨てられないらしいから」

 メアリーは肩をすくめて見せた。

「実行犯は既に捕まっているけれど、黒幕が誰だかわからない。遺産が目的なら、次に狙われるのは私だわ。それなら待っていればいい」

 メアリーはふっと口の端を上げる。

「でも、そうでないなら。かき回して、私を狙いたくなるようにしなくてはと思っているの」

「ラスカルゴ夫人──いや、メアリー。君は今でも強いのだろうけれど、私、いや、俺は賛成できない。閣下も反対なさるはずだ」

 オスティブは、首を振った。

「迷惑はかけないわ。大丈夫よ。昔と違って、護衛はついているの」

 メアリーはそっと後ろを向いて、ジムに微笑みかけた。

 オスティブの視線を受け、ジムは緊張した面持ちで、目を瞬かせる。

「そうか。そうだな。覚悟を決めた君は、閣下にも止められなかったことを思い出すよ」

 オスティブは何かを諦めたような顔になった。

「君の言う通り、俺はエリックから『アルコル文書』という文書を預かり、情報部で調査をしている。だが、そのことで、エリック本人を殺そうとするとは思えない。証拠を握っているのは軍だ。結社の連中が狙っているのは『文書』の『原本』。内容は、軍も警察も知っているのだから」

「そうね。だからそちらの方は念のため確認したかっただけ。エリックがなくなる前に、捜査が進んだり、連絡が来たりというようなことがなかったかどうか、確認したかっただけ」

 黒幕の動機がどこにあるかわからない以上、エリックに変わった様子がなかったのか確認しておく必要がある。

「なるほど……」

 オスティブの表情が険しくなった。

「心当たりがある。ただし、この件、かき回すなら必ず俺を巻き込め。そこの君の護衛君の腕を信じない訳ではないが、君の盾は多い方がいい。閣下もそうおっしゃるはずだ」

 オスティブは立ち上がり、書棚の本に触れる。すると、その奥から金庫が現れた。


ブクマ100を越えました! 60歳女主人公作品をお読みいただきましてありがとうございます!


載せきれなかった裏設定。受付のねーちゃんダルケン少尉は、伝説の黒豹の魔術師の崇拝者だったりします……。今後書けない気がしたので、ここに書いとく←雑音ですみません。


明日は更新お休みします。

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