Chapter 7 「原初の天使」
地下施設全体が揺れていた。
崩落。
爆発。
火花。
警報音。
赤い非常灯が、不気味に明滅する。
その中心。
巨大空間の奥で。
《ANGEL PRIME》は静かに立っていた。
《HX-00 ANGEL PRIME》
白銀と黒。
人型。
だが。
それは機械というより、“神話”だった。
全高は通常HXの三倍以上。
全身を覆う古代文字。
背部には、まるで翼のような巨大構造体。
そして。
深紅の単眼。
誰も動けなかった。
ただ存在するだけで、空気が重い。
本能が告げている。
“あれは危険だ”。
「……ッ。」
ソラナムは歯を食いしばる。
SYNC RATE50%。
脳へ流れ込む情報量が異常な領域へ達していた。
視界の端が赤く染まる。
耳鳴り。
頭痛。
それでも。
《ヴァルグレイヴ》は歓喜するように震えていた。
『原初個体確認。』
『統合可能。』
「統合……?」
ソラナムが顔を上げた瞬間。
《ANGEL PRIME》の眼が輝いた。
重圧。
「ッ!!」
空間そのものが押し潰される。
瓦礫が浮く。
金属が軋む。
重力異常。
通常のHXとは次元が違う。
『ソラナム!!』
リゼの《セラフィム》が前へ出る。
『離れて!!』
高出力ビーム砲展開。
白い粒子が収束する。
発射。
閃光が地下空間を貫いた。
直撃。
爆炎。
衝撃波。
だが。
煙の中で。
《ANGEL PRIME》は、一歩も動いていなかった。
「うそ……。」
リゼの声が震える。
『HX-02A セラフィム。』
『旧世代補助機。』
『脅威度:低。』
「低って……!」
ソラナムが顔をしかめる。
だが次の瞬間。
《ANGEL PRIME》が腕を動かした。
ただ、それだけ。
衝撃。
『きゃあああッ!!』
《セラフィム》が吹き飛ぶ。
壁面激突。
火花。
「リゼ!!」
ソラナムが叫ぶ。
その隙を突くように。
紫HXが動いた。
『原初個体、回収プロセス継続。』
「まだいたのかよッ!」
ソラナムは即座に迎撃。
レーザーソードを振り下ろす。
激突。
紫電刃とぶつかる。
火花。
電撃。
だが。
先程までより敵の動きが鋭い。
「学習速度上がってやがる……!」
紫HX背部リング展開。
電撃収束。
次の瞬間。
無数の雷撃が地下空間を蹂躙した。
「チッ!!」
《ヴァルグレイヴ》が強引に突破。
黒い粒子を撒き散らしながら突撃する。
OVERDRIVE MODE
赤文字表示。
出力急上昇。
SYNC RATE上昇。
“50% → 53%”
「うおおおおおッ!!」
ソラナムの叫び。
《ヴァルグレイヴ》の拳が紫HXへ直撃する。
装甲粉砕。
さらに至近距離射撃。
高出力ビームが敵機を吹き飛ばした。
『損傷確認。』
『戦術変更。』
紫HXが後退。
だが。
その時だった。
『SYNC RATE危険領域到達。』
《ヴァルグレイヴ》内部警報。
「ッ……!」
ソラナムの視界が歪む。
脳裏へ映像が流れ込む。
燃える星。
崩壊する艦隊。
HX軍団。
そして。
宇宙そのものを裂くような黒い巨人。
『終焉因子起動。』
『文明浄化開始。』
「やめろ……ッ!!」
ソラナムは叫ぶ。
だが声が止まらない。
『壊せ。』
『滅ぼせ。』
『全テヲ終ワラセロ。』
その瞬間。
《ヴァルグレイヴ》の装甲が変形した。
「なっ――!?」
ソラナムは操作していない。
機体が勝手に動いている。
装甲展開。
背部拘束解除。
リミッター解除。
黒い粒子が爆発的に噴出する。
地下施設全体が震動。
『ソラナム!!』
リゼが通信を飛ばす。
『止めて!!』
『それ以上は危険!!』
「止ま、ら……!」
ソラナムの瞳が赤く染まる。
呼吸が荒い。
もはや精神が限界に近い。
その時。
《ANGEL PRIME》が初めて動いた。
巨大な腕が、《ヴァルグレイヴ》へ向けられる。
『終焉因子、確認。』
『適合率、基準値到達。』
『統合承認。』
「統合……?」
次の瞬間。
《ANGEL PRIME》背部光輪が展開した。
眩い光。
重力異常。
空間歪曲。
そして。
ソラナムの脳へ、直接声が響く。
『羽吹・K・ソラナム。』
『お前は選ばれた。』
「……誰だ。」
『我々は、“管理者”。』
『HXは兵器ではない。』
『文明制御装置である。』
ソラナムの背筋が凍る。
『文明が限界へ達した時。』
『終焉因子は発動する。』
「……まさか。」
『人類文明は、既に危険領域へ到達している。』
その瞬間。
その瞬間。
《ANGEL PRIME》の背後モニター群へ、宇宙地図が映し出された。
そして。
そこに表示される無数の赤い光。
HX SIGNAL DETECTED
「ッ!?」
ソラナムが目を見開く。
赤い反応。
数百。
いや。
数千。
宇宙各地で、HXが目覚め始めていた。
『そんな……。』
リゼが絶望したように呟く。
《ANGEL PRIME》は静かに告げる。
『終焉プロトコルを開始する。』
その瞬間。
宇宙全体の運命が、静かに動き始めた。
Chapter 7 END
次回予告
《ANGEL PRIME》によって明かされた、“HXの真実”。
HXとは兵器ではない。
文明を監視し、
必要であれば滅ぼすための――
“文明制御装置”。
そして始まる。
終焉プロトコル。
宇宙各地で目覚める無数のHX。
人類軍は緊急警戒態勢へ移行。
各コロニーで同時多発的戦闘が発生する。
一方。
SYNC RATE53%へ到達したソラナムは、
《ヴァルグレイヴ》との境界が曖昧になり始めていた。
頭の中へ流れ込み続ける“終焉”の記憶。
崩壊した文明。
燃える星々。
そしてそんな中、
《ANGEL PRIME》はソラナムへ問いかける。
『問う。』
『お前は、人類を存続させるに値すると判断するか?』
さらに。
地下施設崩壊によって閉じ込められた避難民。
救助へ向かうリゼ。
だがその先で、
彼女は“人類軍が隠していた真実”を目撃する。
次回。
Chapter 8
「人類の資格」
世界を守るのか。
それとも、
終わらせるのか。




