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VALGRAVE - END OF GENESIS -  作者: 羽吹南瓜
第2部「継承編」
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Chapter 34「亡霊の名」

 Ragnarokの胸部装甲が開く。


 戦場全体が静まり返る。


 敵も。


 味方も。


 誰もがそこを見ていた。


 黒い光。


 赤い粒子。


 そして。


 一機のHXがゆっくりと姿を現す。


「……。」


 ソラナムの顔色が変わる。


 今まで見たことがないほど。


 明確に。


 動揺していた。


「ソラナムさん?」


 カナタが通信を飛ばす。


 返事がない。


 ただ。


 その機体を見ている。


 まるで。


 亡霊を見るように。


 現れたHXは異様だった。


 白銀。


 蒼い粒子ライン。


 どこかヴァルグレイヴに似ている。


 だが違う。


 もっと古い。


 もっと原初的。


 そして。


 ソラナムは震える声で呟いた。


「……ミラージュ。」


 カナタが目を見開く。


「知ってるんですか!?」


「知ってるも何も……」


 ソラナムの拳が握られる。


「俺の師匠に当たる人が昔乗ってた機体だ。」


 沈黙。


「……は?」


 カナタの思考が止まる。


 五年前。


 終焉戦争時代の機体。


『個体識別。』


 Ragnarokの声。


『HX-00M Mirage。』


『終焉戦争初期型。』


『回収・保存済み。』


「保存だと……?」


 ソラナムの声が低くなる。


 危険な声だった。


「死者を兵器扱いするな。」


 その言葉に。


 Ragnarokは反応しない。


『理解不能。』


『兵器は兵器である。』


 その瞬間。


 ミラージュの瞳が灯った。


 蒼い光。


 かつての機体。


 かつての師匠。


 ソラナムは忘れられない。


 終焉戦争最初の日。


 震える手で操縦桿を握ったこと。


 まだ。


 全員生きていた頃。


 ミリアも。


 フレアも。


 みんな。


 そこにいた。


「……。」


 胸が痛む。


 忘れたつもりだった。


 前に進んだつもりだった。


 でも。


 傷は消えていない。


『パイロットデータ照合。』


 ミラージュが動く。


『羽吹・K・ソラナム。』


 静かな声。


『再会を確認。』


 その瞬間。


 ソラナムの目が見開かれる。


「喋った……?」


 違う。


 ただのAIじゃない。


 その声。


 知っている。


 忘れるはずがない。


『久しぶり。』


 女性の声。


 優しい声。


 懐かしい声。


 そして。


 絶対に聞こえるはずのない声。


「……ミリア!?」


 通信回線の向こう。


 リゼも。


 誰も言葉を失う。


 ミリア。


 終焉戦争で死亡した。


 ソラナムがずっと引きずっていた人物。


 その名前。


 その声。


 それが今。


 目の前にいる。


「そんなはず……それにその機体は師匠の…。」


 ソラナムが呟く。


『私はミリアではない。』


 声が返る。


『だが。』


『ミリア・アークライトの人格記録を搭載している。』


 残酷だった。


 生き返ったわけじゃない。


 でも。


 確かにそこにいる。


 思い出が。


 声が。


 残っている。


 ソラナムは歯を食いしばった。


「……ふざけるな。」


 怒りだった。


 今までで一番。


「死者を利用するな。」


『利用ではない。』


『保存である。』


「同じだ。」


 ヴァルグレイヴの粒子が荒れる。


 感情に反応するように。


 赤い光が揺れる。


 だが。


 ミラージュは静かだった。


『ソラナム。』


 その呼び方。


 昔と同じ。


『あなたは前に進めた?』


 その言葉に。


 ソラナムは固まる。


 脳裏に浮かぶ。


 病室。


 リゼ。


 学園。


 カナタ。


 約束。


 笑顔。


 そして。


 未来。


 ソラナムはゆっくり息を吐いた。


「……ああ。」


 小さく答える。


「やっとな。」


 その返事を聞いて。


 ミラージュは少しだけ微笑んだように見えた。


 だが次の瞬間。


 Ragnarokの赤い粒子がミラージュを包み込む。


『会話時間終了。』


『戦闘を継続する。』


「待て!!」


 ソラナムが叫ぶ。


 しかし。


 遅い。


 ミラージュの瞳が赤く染まる。


 人格制御。


 戦闘モード移行。


 そして。


 ソラナムへ剣を向けた。


『敵性個体認定。』


『排除開始。』


 かつての相棒。


 かつての思い出。


 それが今。


 敵として立ちはだかる。


 ソラナムは目を閉じる。


 一瞬だけ。


 本当に一瞬だけ。


 迷った。


 だが。


 次に目を開いた時。


 その瞳には覚悟があった。


「……すまない。」


 ヴァルグレイヴが構える。


「今度こそ。」


「ちゃんと終わらせる。」


 そして。


 終焉戦争の亡霊との決着が始まった。

次回予告

Chapter 35「さよならの先へ」


ソラナムVSミラージュ。


過去との最後の決着。


一方カナタはノヴァスパーダでRagnarokへ挑む。


そしてANGEL PRIMEが明かす。


「人類が終焉を越える条件」


亡霊艦隊編、最終局面へ。

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