Chapter 31「失われた剣」
赤い警報が鳴り続けている。
学園宙域。
防衛艦隊は崩壊寸前だった。
Ragnarok。
たった一機。
それだけで戦況がひっくり返っていた。
『第四防衛ライン突破!!』
『迎撃部隊損耗率42%!!』
『これ以上持ちません!!』
通信が飛び交う。
絶望的だった。
カナタは歯を食いしばる。
分かっている。
自分達では勝てない。
少なくとも今のままでは。
モニターの向こう。
ヴァルグレイヴが戦っている。
吹き飛ばされる。
立ち上がる。
また吹き飛ばされる。
それでも前へ出る。
その姿に。
少しだけ胸が痛んだ。
「なんで……。」
呟く。
「なんであの人は、
あんなに戦えるんだよ……。」
怖くないのか。
痛くないのか。
苦しくないのか。
そんなわけない。
きっと。
一番怖いのは、
ソラナムのはずだ。
失うことを知っている。
守れなかった後悔も知っている。
それでも立つ。
だから。
強い。
『カナタ。』
ノヴァリオンが呼ぶ。
「……。」
『一次撤退だ、行くぞ』
「えっ?」
格納庫奥。
封鎖区画。
そこには。
HX-07S。
ジークスパーダ。
紫電の機体が静かに眠っていた。
「お前、
前に言ってたよな。」
カナタが近づく。
「原型機だって。」
『肯定。』
ノヴァリオンの声が響く。
『だが正確には違う。』
「え?」
少し沈黙。
そして。
『私とジークスパーダは、
元々一つだった。』
「……は?」
カナタが固まる。
意味が分からない。
『旧GENESIS戦争末期。』
『HX-07計画。』
『最強のHXを作る計画だった。』
格納庫の照明が落ちる。
ホログラムが展開する。
昔の映像。
紫色のHX。
ジークスパーダ。
『完成した機体は強すぎた。』
『搭乗者が耐えられなかった。』
『SYNC率上昇に伴い、
精神崩壊率92%。』
カナタの表情が変わる。
92%。
ほぼ死ぬ。
『計画は失敗。』
『そこで研究者達は考えた。』
映像が切り替わる。
金色の光。
白い光。
青い粒子。
『力を削る。』
『代わりに人を守る。』
『人と共に歩めるHXを作る。』
その瞬間。
ノヴァリオンの姿が映る。
『それが私だ。』
カナタは息を呑む。
なるほど。
だから違ったんだ。
ジークスパーダは剣。
ノヴァリオンは翼。
同じ始まりなのに。
全く別の存在になった。
「じゃあ。」
カナタが聞く。
「なんで今、
その話をしたんだ。」
少し沈黙。
そして。
『Ragnarokに勝つには、
足りない。』
空気が変わる。
『現在戦力では勝率4%。』
「4……。」
絶望的だった。
『だが。』
ノヴァリオンが続ける。
『私とジークスパーダを統合した場合。』
モニターが変化する。
数値。
演算結果。
そして。
勝率。
29%。
「上がった……。」
『それでも低い。』
『だがゼロではない。』
カナタは拳を握る。
29%。
普通なら低い。
でも。
今は違う。
4%よりずっと良い。
その時だった。
格納庫入口が開く。
「却下。」
聞き慣れた声。
ソラナムだった。
傷だらけ。
血まみれ。
なのに立っている。
「ソラナムさん!?」
カナタが驚く。
ソラナムはジークスパーダを見る。
そして。
少しだけ眉をひそめた。
「そんなもん使うな。」
「でも!」
「聞け。」
低い声。
カナタが黙る。
ソラナムはゆっくり歩いてくる。
「強い力には代償がある。」
ヴァルグレイヴを見た。
「俺が証明してる。」
少し自嘲気味に笑う。
「お前まで同じ道を行く必要はない。」
カナタは言葉を失う。
昔のソラナムなら。
絶対言わない。
力を取れと言ったはずだ。
勝つために。
守るために。
でも今は違う。
自分が失ったものを知っているから。
だから止めている。
「ソラナムさん。」
「なんだ。」
「それでも。」
カナタは顔を上げる。
「僕も守りたいんです。」
静寂。
「学園も。」
「みんなも。」
「ソラナムさんも。」
その言葉に。
ソラナムは少し目を見開いた。
そして。
ほんの少しだけ笑う。
「馬鹿だな。」
「よく言われます。」
「知ってる。」
その時。
宇宙全体を揺らす衝撃。
全員が顔を上げる。
WARNING
RAGNAROK OUTPUT RISING
モニターに映る。
Ragnarok。
赤い粒子翼が展開されている。
先ほどとは比べ物にならない。
出力が上がっている。
『第二形態移行を確認。』
ANGEL PRIMEの声。
初めて。
その声に緊張が混じっていた。
『警告。』
『HX-13 Ragnarokは、
現在本来の性能の37%しか使用していない。』
全員が凍りつく。
「……は?」
カナタの声が震える。
37%。
つまり。
まだ本気じゃなかった。
ソラナムも無言になる。
そして。
Ragnarokの背後。
巨大な空間亀裂が開く。
その奥に見えた。
数百。
数千。
亡霊艦隊本隊。
今まで戦っていたのは。
前衛部隊に過ぎなかった。
戦場の空気が変わる。
本当の絶望が。
今。
始まろうとしていた。
次回予告
Chapter 32「双翼」
亡霊艦隊本隊出現。
学園防衛線崩壊。
Ragnarok第二形態解放。
そしてカナタは決断を迫られる。
「力を求めるか。」
「人として戦うか。」
そして宇宙の彼方で――
ANGEL PRIMEが、
ついに動き始める。




