Chapter 30「文明終焉機」
静かだった。
戦場なのに。
爆発も。
通信も。
砲火も。
全てが遠く感じた。
Ragnarokが現れた瞬間。
空気そのものが変わった。
巨大な黒銀の装甲。
赤く脈動する粒子ライン。
骸骨のような頭部。
それは兵器というより。
災害だった。
『文明継続確認。』
機械音声。
『終末処理を開始する。』
次の瞬間。
Ragnarokの背部粒子翼が展開する。
赤い光。
そして。
消えた。
「――え?」
カナタが目を見開く。
見失った。
次の瞬間。
学園防衛艦隊中央。
赤い閃光。
巨大爆発。
戦艦三隻が同時に真っ二つになった。
『第一艦隊消滅!!』
『何が起きた!?』
『観測不能!!』
通信が悲鳴になる。
誰も見えなかった。
速すぎる。
いや。
違う。
空間転移。
ソラナムが即座に理解する。
「クソッ!!」
ヴァルグレイヴ加速。
終焉粒子全開。
宇宙を裂く勢いで飛ぶ。
その先。
Ragnarok。
振り向く。
ただそれだけ。
それだけなのに。
ソラナムの背筋が凍った。
強い。
今まで見たどんなHXより。
圧倒的に。
『羽吹・K・ソラナム。』
Ragnarokが言う。
『最優先排除対象。』
「光栄だな。」
ヴァルグレイヴの粒子剣が唸る。
斬撃。
空間ごと切断する一撃。
だが。
Ragnarokは避けない。
受けた。
そして。
無傷。
「……は?」
ソラナムが初めて顔を変える。
今のは。
確実に当たった。
だが。
装甲表面に傷すらない。
『解析完了。』
Ragnarokが言う。
『脅威度修正。』
『低。』
「この野郎……!」
ヴァルグレイヴが突撃する。
だが。
一瞬。
Ragnarokの腕が動く。
それだけ。
それだけで。
ヴァルグレイヴが吹き飛んだ。
「がぁぁぁっ!!」
警告音。
装甲破損。
SYNC急上昇。
カナタの顔が青ざめる。
「ソラナムさん!!」
強すぎる。
次元が違う。
フレアですら比較にならない。
その時。
『カナタ。』
ノヴァリオンの声。
「なに!?」
『逃げろ。』
「え?」
『現時点で勝率0.7%。』
カナタが固まる。
今まで聞いたことがない数字だった。
ノヴァリオンはいつも前を向く。
諦めない。
そんなAIだった。
なのに。
逃げろと言った。
つまり。
本当に勝てない。
カナタは拳を握る。
悔しい。
何も出来ない。
まただ。
またソラナムに守られている。
また置いていかれる。
怖い。
でも。
それ以上に。
悔しかった。
「……。」
自分は弱い。
それは知っている。
ソラナムみたいになれない。
あんな風に戦えない。
でも。
それでも。
何か出来るはずだ。
『カナタ。』
ノヴァリオンが静かに言う。
『力とは強さではない。』
「……。」
『お前は、
羽吹・K・ソラナムにはなれない。』
カナタは少し笑う。
「知ってるよ。」
最初から。
分かっていた。
自分はソラナムじゃない。
だから。
自分の戦い方を見つけるしかない。
その頃。
戦場最深部。
ソラナムは立ち上がる。
血が流れる。
視界が揺れる。
だが。
倒れない。
『無意味。』
Ragnarokが言う。
『お前達人類は敗北する。』
ソラナムは笑う。
本当に少しだけ。
「知るか。」
『?』
「俺達はな。」
ヴァルグレイヴが立つ。
赤い粒子が揺れる。
「何回負けても。」
「何回壊れても。」
「それでも前に進むんだよ。」
脳裏に浮かぶ。
ミリア。
フレア。
カナタ。
リゼ。
守れなかったもの。
守りたいもの。
全部。
今の自分を作っている。
だから。
もう逃げない。
もう死ぬためには戦わない。
生きて帰るために戦う。
その瞬間。
ヴァルグレイヴ内部。
SYNC RATE
100%
限界到達。
だが。
暴走しない。
赤い光が。
静かに安定していた。
遠く。
ANGEL PRIMEがそれを見ていた。
『確認。』
『終焉因子完全安定。』
『観測対象は条件を達成した。』
白い光輪が回転する。
そして。
初めて。
ANGEL PRIMEの声に。
喜びにも似た何かが混じった。
『人類はまだ終わりませんよ。』
次回予告
Ragnarokの猛攻。
学園防衛線崩壊寸前。
その時。
ノヴァリオンが封印されていた真実を語る。
『ジークスパーダ。』
『それは私の失われた半身だ。』
一方ソラナムは、
生きて帰るための戦いを選ぶ。
そして。
亡霊艦隊の奥深くで、
最後のGENESISが目覚める――
Chapter 31「失われた剣」




