Chapter 27「継承される翼」
警報が鳴り響いていた。
WARNING
GENESIS FLEET APPROACHING
さっきまでの学園祭の空気は、
完全に消えていた。
学生達が走る。
教員達が指示を飛ばす。
装甲シャッターが閉鎖される。
数十分前まで笑っていた場所が、
一瞬で戦場へ変わっていく。
カナタはその空気に、
まだ慣れなかった。
怖い。
でも。
今はそれ以上に。
――守りたい。
そう思ってしまっている。
それが少し不思議だった。
「カナタ!」
アカリが駆け寄ってくる。
「格納庫行くよ!」
「あ、うん!」
二人で走り出す。
廊下を抜けながら、
カナタは窓の外を見る。
空。
人工宇宙層。
そこに。
赤い光点が無数に現れ始めていた。
「……あれ全部。」
「敵。」
アカリが短く言う。
声が少し硬かった。
怖いのは、
多分彼女も同じだ。
でも。
誰も止まらない。
この学園の人達は、
戦う覚悟を知っている。
カナタは少しだけ息を吐く。
――僕も、
逃げたくない。
その理由を考える。
多分。
ここが好きになったからだ。
くだらない会話。
騒がしい教室。
笑い声。
日常。
守りたい。
そう思える場所ができた。
それはきっと、
すごく幸せなことだった。
一方。
格納庫上層。
ソラナムは、
宇宙モニターを見上げていた。
無数の艦影。
旧GENESIS亡霊艦隊。
五年前、
文明ごと封印されたはずの終末兵器群。
「本当に出てきやがったか……。」
リゼが隣へ来る。
「状況は。」
「最悪。」
ソラナムが即答する。
「学園単独じゃ止め切れん。」
モニターには、
巨大艦隊が映っていた。
普通の戦艦じゃない。
自律機動。
終末粒子砲。
HX運用母艦。
完全に。
“文明を滅ぼすための艦隊”。
それを見て。
ソラナムは少しだけ目を細める。
懐かしかった。
五年前。
何度も見た光景。
何度も失った戦場。
でも。
――今は違う。
昔の自分なら、
ここで一人で全部背負おうとした。
死ぬつもりで戦った。
でも今は。
「……帰るぞ。」
リゼが少し目を瞬かせる。
「何。」
「全員で。」
その言葉。
少しだけ。
リゼは嬉しそうに笑った。
一方。
地下格納区画。
カナタはノヴァリオンの前へ立っていた。
白。
青。
金。
光を反射する装甲。
何度見ても、
綺麗だと思う。
でも今日は。
どこか様子が違った。
『カナタ。』
「ん?」
『来る。』
ノヴァリオンの声が低い。
「……何が?」
少し沈黙。
そして。
『過去だ。』
「は?」
格納庫奥。
重いロック音。
封鎖されていた巨大シャッターが、
ゆっくり開いていく。
暗闇。
その奥に。
紫電。
「……え。」
鋭いシルエット。
細身。
大型粒子刀。
背部高機動ユニット。
そして。
ノヴァリオンに似ていた。
《HX-07S ジークスパーダ》
カナタが息を呑む。
「これ……。」
『原型機だ。』
ノヴァリオンが静かに言う。
『私の前身。』
カナタはゆっくり近付く。
古い。
でも。
異様な威圧感があった。
まるで。
“剣”。
戦うためだけに存在するような機体。
『旧GENESIS戦争末期。』
『最強の白兵戦HXとして開発された。』
「……強いの?」
『強い。』
即答だった。
『だが。』
『搭乗者を壊す。』
空気が少し変わる。
『高SYNC前提設計。』
『精神負荷無視。』
『旧世代思想の機体だ。』
カナタは少し黙る。
なんとなく分かった。
ノヴァリオンと違う。
ノヴァリオンは、
“共に戦う”感じがする。
でも。
ジークスパーダは違う。
人が合わせる機体。
壊れるまで使う剣。
『私は、
あれを否定するために生まれた。』
珍しく。
ノヴァリオンの声に感情があった。
カナタは少しだけ笑う。
「そっか。」
そして。
ノヴァリオンを見上げた。
「なら僕は、
お前の方が好きだよ。」
一瞬。
沈黙。
そのあと。
『……記録した。』
「なんでちょっと嬉しそうなんだよ。」
『気のせいだ。』
その時。
WARNING
HOSTILE ENTRY
格納庫全体が揺れる。
『敵先行HX群、
学園宙域へ侵入!!』
戦闘開始。
カナタは深呼吸する。
怖い。
でも。
逃げたくない。
ソラナムみたいに、
なりたいわけじゃない。
でも。
あの人みたいに。
誰かを守れる人には、
なりたかった。
「行こう。」
『了解。』
ノヴァリオンの光翼が展開する。
蒼白い光。
そして。
新世代の翼が、
再び戦場へ飛び立った。
次回予告
亡霊艦隊襲来。
学園防衛戦、開幕。
HX群の猛攻。
圧倒的戦力差。
その中でカナタは、
初めて“恐怖”と真正面から向き合う。
「怖いに決まってるだろ……!」
一方。
ソラナムはヴァルグレイヴ再起動へ。
そして。
亡霊艦隊最深部で、
“文明終焉機”が目覚め始める。
《HX-13 Ragnarok》
Chapter 28
「亡霊戦線」




