Chapter 26「日常の温度」
学園祭二日目。
「いらっしゃいませー。」
カナタは完全に諦めた顔で接客していた。
「おすすめはこちらです。」
「お写真一枚どうですかー。」
もう羞恥心が死んでいた。
「順応早。」
アカリが呆れる。
「人間諦めが肝心なんだよ……。」
でも。
教室はかなり盛況だった。
「うわあの子可愛い。」
「男子らしいよ。」
「えっ!?」
「やめてほんと!!」
周囲が笑う。
カナタは顔を赤くしながらも、
少しだけ不思議だった。
嫌じゃない。
前なら。
多分。
人前で笑われるのなんて、
絶対耐えられなかった。
でも今は。
誰かと騒いで。
くだらないことで笑って。
そういう時間を、
少し楽しいと思っている。
――変わったな、僕。
自分で思う。
ソラナムと出会ってからだ。
あの人は、
戦うことしか知らないみたいな人だった。
でも。
そんな人ですら、
少しずつ変わっている。
なら。
自分だって変われるのかもしれない。
「カナター。」
アカリが近付いてくる。
「交代。」
「助かった……。」
カナタは椅子へ座り込む。
「疲れた?」
「精神的に。」
「似合ってるのに。」
「まだ言う。」
アカリが笑う。
その顔を見て。
カナタは少しだけ安心する。
アカリといると、
空気が軽い。
無理に気を張らなくていい。
沈黙も苦じゃない。
最近それに気付き始めていた。
「……。」
でも。
その感覚が何なのかまでは、
まだ分からない。
その時。
「やっほー。」
レイナだった。
私服姿。
ラフなパーカー。
長い栗色の髪。
「お疲れメイド君。」
「その呼び方定着してません?」
「してる。」
レイナは勝手に椅子へ座る。
「人気すごいじゃん。」
「嬉しくないです……。」
「いやいや、
男子でこれは才能だよ?」
アカリがジト目になる。
「先輩、
からかいすぎです。」
「えー。」
レイナは笑う。
でも。
その視線は、
少しだけカナタを観察していた。
強い。
それが第一印象だった。
ただの学生じゃない。
戦闘経験がある。
それもかなり。
でも。
どこか危うい。
笑ってるのに。
時々、
目が妙に冷える。
カナタはなんとなく気付いていた。
「そういえば。」
レイナが言う。
「今日ソラナム教官見た?」
「さっき上に。」
「あの人、
最近ちょっと雰囲気変わったよね。」
カナタは少し考える。
「……変わった、
かもしれません。」
前より。
少し柔らかい。
怖い人なのは変わらない。
でも。
どこか張り詰めていたものが、
少しだけ無くなった気がする。
多分。
リゼのおかげだ。
その頃。
学園上層デッキ。
ソラナムは整備端末を見ていた。
《HX-01C ヴァルグレイヴ》
SYNC RATE:78%
状態:安定
「……安定?」
ソラナムが眉をひそめる。
本来ありえない。
SYNC RATE70を超えれば、
普通は精神侵食が始まる。
だが。
今のヴァルグレイヴは違った。
静かだった。
『変化を確認。』
後ろ。
ANGEL PRIME。
白い光が空間から現れる。
ソラナムは驚かない。
「勝手に来るな。」
『拒否を確認。』
『だが継続する。』
「お前それ好きだな。」
ANGEL PRIMEは沈黙する。
『お前は変化した。』
「またそれか。」
『以前のお前は、
自己破壊によって出力を得ていた。』
ヴァルグレイヴのモニターへ、
白い光が映る。
『現在は違う。』
『精神安定因子を確認。』
ソラナムは少しだけ目を細める。
「……リゼか。」
『肯定。』
ANGEL PRIMEが続ける。
『人類は不完全だ。』
『脆弱で。』
『非合理的で。』
『感情によって判断を誤る。』
静かな声。
『だが。』
『お前達は、
それによって終焉を越える。』
ソラナムは少しだけ笑う。
「お前、
最近人間臭いな。」
ANGEL PRIMEは少し沈黙した。
『学習している。』
その瞬間。
WARNING
OUTER SPACE DETECTION
空気が変わる。
モニターへ赤い警告。
『旧GENESIS艦隊反応確認。』
『超長距離ワープ痕。』
『接近中。』
ソラナムの表情が変わる。
来た。
平和な時間は、
終わろうとしていた。
一方。
教室。
「え?」
カナタが顔を上げる。
校内放送。
『全戦闘科生徒へ。』
『緊急招集。』
『学園防衛レベルを第二段階へ移行します。』
ざわめき。
アカリが不安そうに呟く。
「……また?」
カナタも同じだった。
怖い。
でも。
逃げたくはない。
守りたい。
今この場所を。
この日常を。
そう思ってしまった。
それが少しだけ、
嬉しかった。
次回予告
亡霊艦隊接近。
学園へ迫る旧GENESIS文明。
そして。
カナタは、
“力を継ぐ意味”を知る。
Chapter 27
「継承される翼」




