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VALGRAVE - END OF GENESIS -  作者: 羽吹南瓜
第2部「継承編」
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Chapter 25「春と光」

 朝。


 学園中が騒がしかった。


「右もっと上げて!」


「看板曲がってるって!」


「うわ段ボール落ち――」


 学園祭初日。


 普段は軍事訓練ばかりの学園とは思えないほど、

 校内は明るい空気に包まれていた。


 カナタは教室前で立ち尽くしていた。


「……なんで。」


 目の前。


 鏡。


 そこへ映っているのは。


「なんで僕メイド服着てるの……。」


 黒白フリル。


 エプロン。


 猫耳。


『似合っている。』


 ノヴァリオン端末が即答する。


「うるさい!!」


 周囲の女子達が笑う。


「いや普通に可愛いよ?」


「男子のくせにスタイル良いからなぁ。」


「脚綺麗。」


「褒められてる気がしない!!」


 顔が熱い。


 カナタは頭を抱えた。


 本当は普通に裏方作業で済むはずだった。


 だが。


『カナタ、

 お前顔が良いから客寄せな。』


 クラス委員のその一言で終わった。


「なんでこんな世界なんだ……。」


 でも。


 少しだけ。


 本当に少しだけ。


 嫌じゃなかった。


 こういう馬鹿みたいな空気。


 騒がしい教室。


 笑い声。


 普通の学生っぽい時間。


 昔の自分なら、

 絶対関われなかった。


 家ではずっと期待されて。


 周囲には才能を求められて。


 “特別”でいることを押し付けられていた。


 だから。


 今みたいに。


 くだらないことで笑われる空気が、

 少しだけ心地良かった。


「カナター。」


 声。


 振り向く。


 アカリだった。


「ぶっ。」


 数秒。


 肩が震える。


「笑うな。」


「いや無理。」


 アカリは腹を抱えた。


「似合いすぎでしょ。」


「最悪だ……。」


「写真撮っていい?」


「ダメ。」


 でも。


 アカリは少し楽しそうだった。


 カナタは、

 最近ようやく分かってきていた。


 アカリは距離感こそ近いけど。


 別に悪意があるわけじゃない。


 むしろ。


 かなり気を遣ってくれている。


 戦闘後。


 必ず声を掛けてきた。


 怪我してないか確認して。


 無理してないか見ていた。


 でも。


 それを重く感じさせない。


 多分。


 カナタが気を遣われるのに慣れてないだけだった。


「はいこれ。」


 アカリが缶ジュースを投げてくる。


「ん。」


「今日頑張ってるし。」


「接客したくない……。」


「頑張れメイド君。」


「その呼び方やめろ。」


 笑い声。


 カナタはジュースを受け取りながら、

 ふと窓の外を見る。


 空は青い。


 平和だった。


 なのに。


 少しだけ不安が残っていた。


 亡霊艦隊。


 ANGEL PRIME。


 ヴァルグレイヴ。


 終わっていない。


 多分。


 大きな何かが、

 まだ来る。


『不安か。』


 ノヴァリオンが静かに聞く。


「……まぁ。」


『正常だ。』


「え?」


『戦いを知った者は、

 平和の脆さも知る。』


 珍しく真面目な声だった。


『だが。』


 ノヴァリオンは少し間を置く。


『だからこそ、

 今を楽しむべきだ。』


 カナタは少し目を丸くする。


「お前、

 たまにすごい人間っぽいこと言うよな。」


『学習している。』


 すると突然。


「おーいカナター!!」


 教室入口から手を振る女子。


 栗色の髪。


 活発そうな雰囲気。


 初対面だった。


「手伝ってー!」


「え、誰?」


「あれ生徒会のレイナ先輩。」


 アカリが言う。


「人使い荒いけど人気ある。」


 レイナはカナタを見るなり、

 目を輝かせた。


「うわほんとだ!

 超似合ってる!」


「もう嫌だこの学園……。」


 レイナが近付いてくる。


「ねぇ君、

 名前は?」


「天城カナタです……。」


「ふーん。」


 レイナはニヤッと笑う。


「面白そうな子。」


 カナタは少し困惑する。


 でも。


 アカリが何故か少し不機嫌そうだった。


「……。」


「?」


「別に。」


 カナタはまだ気付いていない。


 アカリが。


 最近少しずつ、

 自分以外へ向くカナタの視線を気にしていることに。


 一方。


 学園上層デッキ。


 ソラナムは缶コーヒーを片手に、

 静かに祭りを見下ろしていた。


 騒がしい。


 平和。


 笑い声。


 昔の自分なら、

 ここへ立っていなかった。


 戦うことしか知らなかった。


 死ぬことを恐れていなかった。


 でも。


「こんな顔してたのね。」


 後ろからリゼ。


「何が。」


「少し安心した顔。」


 ソラナムは少し黙る。


「……そうか?」


「えぇ。」


 リゼが隣へ立つ。


 自然だった。


 昔なら。


 多分。


 こういう距離感すら怖かった。


 誰かを近付けるのが怖かった。


 失うから。


 でも今は違う。


 “帰る場所”。


 その言葉の意味を、

 少しだけ理解し始めていた。


「ソラナムさん!!」


 下からカナタの声。


 見ると。


 メイド服だった。


「……。」


「……。」


 数秒沈黙。


「似合ってるぞ。」


「ソラナムさんまでぇぇぇ!!?」


 リゼが吹き出す。


 その笑い声を聞いて。


 ソラナムは、

 本当に少しだけ笑った。


 戦いばかりだった人生で。


 こんな時間が来るなんて。


 昔の自分なら、

 想像もしなかった。


 だが。


 その頃。


 宇宙深部。


 沈黙していた巨大艦隊が、

 ゆっくりと動き始めていた。


 旧GENESIS亡霊艦隊。


 無数の自律戦艦。


 終末兵器群。


 文明破壊機構。


 そして中央。


 巨大旗艦内部。


WARNING

FINAL GENESIS SEQUENCE


 赤い光が灯る。


『……人類文明、

 継続確認。』


『終末処理を再開する。』


 機械音声が、

 静かに響いた。

次回予告


 学園祭二日目。


 カナタ、

 アカリ、

 レイナ。


 三人の距離が少しずつ変わり始める。


「アンタ、

 レイナ先輩と仲良さそうじゃん。」


「いや普通ですけど!?」


 一方。


 ソラナムはヴァルグレイヴ再起動実験へ。


 そして。


 SYNC RATEが、

 再び未知の領域へ到達する――


Chapter 26


「日常の温度」

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