Chapter 18「遠き残響」
休日。
それだけで学園の空気はかなり違った。
「平和だ……。」
カナタは中庭ベンチへ倒れ込む。
青空。
人工太陽。
芝生。
休日モードの学生達。
戦術学園というより、
普通の学校みたいだった。
「おっさんみたいな声出してる。」
隣へアカリが座る。
紙パックジュースを投げてきた。
「うおっ。」
「奢り。」
「珍しい。」
「感謝しろ。」
カナタはジュースを受け取る。
少し沈黙。
周囲では学生達が騒いでいた。
「なんか、
普通の学校っぽいな。」
「学園だからね。」
「いやもっとこう、
軍隊みたいなの想像してた。」
「一応軍事学校だけど。」
アカリが笑う。
「でも今の時代、
“普通”って結構大事なんだよ。」
カナタは少しだけ黙る。
その言葉。
なんとなく分かった。
五年前。
GENESIS戦争。
人類滅亡寸前。
それを知っている世代にとって。
こういう日常は、
守られた平和だった。
『ふむ。』
ノヴァリオン端末がベンチへ着地する。
『休日とは素晴らしい文化だ。』
「お前昨日、
非合理的って言ってたろ。」
『合理性だけで文明は成り立たない。』
「急に深いこと言うじゃん。」
その時。
中庭モニターへ映像が流れる。
【本日夜、学園祭前夜イベント開催】
「学園祭かぁ……。」
カナタが呟く。
「楽しみ?」
「まぁちょっと。」
「意外。」
「いや普通にあるんだなって。」
するとアカリがニヤッと笑う。
「ちなみにウチのクラス、
メイド喫茶。」
「うわ。」
「その反応やめろ。」
「いや絶対似合わな……」
ゴッ。
「痛ッ!!」
「殺す。」
「すみませんでした。」
『メイドとは。』
「お前は知らなくていい。」
『戦闘兵科か?』
「違う。」
平和だった。
本当に。
戦争の話も。
HXも。
終焉因子も。
今だけは遠かった。
一方。
学園外周宙域。
大型輸送艦隊が静かに移動していた。
中央輸送艦内部。
厳重封鎖区画。
《HX-01C ヴァルグレイヴ》
巨大拘束フレーム。
封印粒子鎖。
重力固定。
数百の監視システム。
完全封印。
クロエ監査官は、
無言でそれを見上げていた。
「……これが。」
GENESIS戦争の英雄。
「暴走し始めるかと思ったときはヒヤッとしましたが…大事にならなくてよかったです、これから本当に人類が制御できる存在なのか、価値を見定めさせてもらいますよ…」
その時だった。
WARNING
OUTER SENSOR REACTION
「何だ。」
オペレーターが青ざめる。
『高濃度粒子反応接近!!』
『距離3000!!』
『高速です!!』
「HXか!?」
宇宙空間。
暗黒の中。
赤い光が灯る。
《黒紫HX》
その後方。
無数のHX群。
『識別……旧GENESIS戦争機群!!』
『ありえない数です!!』
艦内へ緊張が走る。
一方。
黒紫HX内部。
赤い片目が静かに揺れる。
『……ソラナム。』
低い声。
憎悪。
怒り。
だが。
その奥には、
まだ消え切っていない感情が残っていた。
『返してもらう。』
次の瞬間。
HX群が一斉加速。
宇宙戦が始まる。
一方。
学園。
夕方。
ソラナムは訓練デッキで、
一人バスティオン・カスタムを整備していた。
黒鉄色の機体。
無骨な装甲。
ヴァルグレイヴとは正反対。
「……。」
静かな時間。
そこへ。
リゼが来る。
「まだいたの。」
「まぁな。」
リゼは少し黙ったあと、
隣へ立つ。
「後悔してる?」
「何を。」
「ヴァルグレイヴを渡したこと。」
ソラナムは少し考える。
そして。
「……分からん。」
「らしくない答え。」
「最近、
分からないことばっかだ。」
リゼが少しだけ笑う。
「昔はもっと単純だったのにね。」
「そうか?」
「えぇ。」
「無茶して、
突っ込んで、
全部背負い込んで。」
「今も変わらん。」
「そこは変われ。」
少しだけ笑い声。
静かな空気。
その時。
緊急警報が鳴った。
WARNING
EMERGENCY ALERT
『本部輸送艦隊、
HX群と交戦中!!』
『ヴァルグレイヴ輸送部隊が襲撃されています!!』
ソラナムの顔色が変わる。
『識別コード確認。』
『敵主力――』
モニターへ映る。
黒紫のHX。
「……フレア。」
静かな怒りが、
ソラナムの目に宿った。
次回予告
ヴァルグレイヴ輸送艦隊襲撃。
黒紫HX――フレアが再び現る。
一方、
学園側も緊急出撃態勢へ。
「え、僕も出るの!?」
『当然だ。』
そして。
ソラナムは、
再び“あの力”と向き合うことになる。
Chapter 19
「奪還戦線」




