Chapter 13 「残響」
宇宙が静まり返っていた。
学園宙域外周。
紫色の亀裂の前で、
一機の黒紫HXが浮かんでいる。
動かない。
ただそこにいるだけなのに、
妙な圧迫感があった。
『識別不能……。』
『ですが、内部粒子波形が旧GENESIS戦争時の記録と酷似しています。』
オペレーターの声が少し震える。
モニターへ表示されたデータ。
それを見た瞬間、
リゼが小さく息を呑んだ。
「……嘘。」
隣では、
ソラナムが黙ったままその機体を見つめている。
『対象データ照合。』
『一致率87%。』
『旧EVA管理局所属、
フレア・ダクバット。』
指令室がざわついた。
「生きていた……?」
「いや、戦死したはずだろ……。」
誰もが困惑していた。
一方、
格納庫の大型モニターを見上げながら、
カナタは首を傾げる。
「フレア……?」
知らない名前だった。
でも。
ソラナムの顔を見れば、
その名前が特別なのは分かった。
『カナタ。』
「うわっ!?」
突然ノヴァリオンが通信を開く。
『あの機体、
あまり好きではない。』
「そんな感想あるんだお前。」
『なんか怖い。』
「ざっくりしてんなぁ……。」
その時だった。
黒紫HXがゆっくり顔を上げる。
赤いセンサーアイが光る。
『……ソラナム。』
ノイズ混じりの声。
低い。
掠れている。
だけど。
確かに人間の声だった。
ソラナムの眉が僅かに動く。
「……フレア。」
数秒の沈黙。
そして。
黒紫HXから、
黒い粒子が微かに漏れ出す。
『やっと見つけた。』
その声には、
奇妙な熱があった。
怒りとも違う。
執着。
そんな感じだった。
カナタは小さく息を呑む。
ソラナムがこんな顔をするのを、
初めて見た。
『……生きてたんですね。』
リゼが静かに言う。
だが。
黒紫HXは答えない。
ただ、
ソラナムだけを見ている。
『少年。』
「え?」
ソラナムが小さく呟く。
『下がってろ。』
「いやでも……。」
『いいから。』
声は低い。
でも。
怒鳴っているわけじゃない。
むしろ。
少し苦しそうだった。
その時。
黒紫HXが僅かに前へ出る。
瞬間、
周囲の警戒砲台が一斉に起動した。
『対象へ照準!!』
『発射命令を――』
「待て!!」
ソラナムが即座に制止する。
指令室が静まり返る。
『ソラナム少佐!?』
「撃つな。」
『ですが――』
「撃つな。」
強い声だった。
それ以上誰も逆らえないほどに。
しばらくして。
黒紫HXが小さく笑った。
ノイズ混じりの、
歪な笑い声。
『……変わってないな。』
「……。」
『そういうとこ、
昔から嫌いだった。』
ソラナムは何も返さない。
その時。
黒紫HXの周囲で、
空間が再び歪み始める。
転移反応。
『待て。』
ソラナムが低く言う。
『……どこ行ってた。』
少しだけ沈黙。
そして。
『今更、
そんなこと聞くのかよ。』
その声は、
ひどく疲れていた。
次の瞬間。
紫色の光が広がる。
黒紫HXの姿が、
ゆっくり空間へ沈んでいく。
『また来る。』
最後にそれだけ残して。
機体は消えた。
静寂。
誰もすぐには喋れなかった。
「……何だったんだよ今の。」
カナタが呟く。
すると。
ノヴァリオンが珍しく静かに言う。
『終焉の残り火だ。』
「え?」
『あれは、
長くない。』
一方。
ソラナムはずっと、
黒紫HXが消えた宙域を見つめていた。
その表情を見て、
リゼが少しだけ眉を下げる。
「……また、
一人で抱え込む気?」
「別に。」
「別にって顔じゃない。」
ソラナムは小さく息を吐く。
「……嫌な予感がする。」
その言葉だけが、
妙に重かった。
次回予告
戦闘終了後、
ようやく戻ってきた日常。
しかし、
カナタの周囲は少しずつ騒がしくなり始めていた。
「なんで僕が噂になってんの!?」
一方、
ソラナムは再び現れた“フレア”について調査を開始する。
そして。
Chapter 14
「日常と白き翼」




