Chapter 4 「帰還」
巨大機械天体。
“終焉因子”という謎の言葉。
そして、《ヴァルグレイヴ》内部で進行する異常同期。
激戦を終えた《アーク・ヴェイン》は、補給と修理のため宇宙港コロニー《ヘリオス・ベース》へ向かう。
だが、束の間の休息の裏側で。
人類軍。 EVA統合機関。 そしてHX。
それぞれの思惑が静かに動き始めていた。
ソラナムはまだ知らない。
自分が乗る《ヴァルグレイヴ》が、どれほど危険な存在なのかを。
そして。
“終焉因子”を巡る戦いが、すでに始まっていることを。
宇宙港コロニー《ヘリオス・ベース》。
第七ラグランジュ宙域に存在する大型中継拠点。
軍用ドック。 居住ブロック。 工業エリア。 商業区画。
数十万人規模が生活する、半要塞型スペースコロニーだ。
その外部ドックへ。
損傷した巡洋艦がゆっくり入港していた。
「ようやく帰ってきたか……」
格納庫で整備兵の一人が大きく息を吐く。
FW部隊の多くは損傷。
《ジェガード》の半数は中破以上。
艦体にも無数の傷跡。
あの戦闘が、どれほど異常だったかを物語っていた。
そして。
格納庫最奥。
そこに立つ《ヴァルグレイヴ》を見て、兵士たちは未だに距離を取っていた。
「……あれ、本当に人類側なんだよな?」
「分からん。」
「でも、あいつがいなかったら全滅だった。」
「それはそうなんだが……」
誰もが複雑な顔をしていた。
助けられた。
だが同時に。
あまりにも“得体が知れない”。
一方。
「はぁぁぁぁ……疲れた……」
当のソラナムは、整備用コンテナの上で寝転がっていた。
制服は少し乱れ、片腕で顔を覆っている。
「死ぬかと思った……」
「割と本気で死にかけてたわよ。」
呆れた声。
リゼだった。
缶ジュースを片手に、コンテナへ腰掛ける。
「ほら。」
「お。」
ソラナムは受け取る。
一口飲む。
「生き返る……」
「安っぽい命ね。」
「高級品だったら戦場出てねぇよ。」
リゼは小さく吹き出した。
少しだけ。
静かな時間が流れる。
戦場では聞こえなかった、格納庫の日常音。
工具の音。
整備員の怒鳴り声。
遠くで流れる館内アナウンス。
それが妙に心地よかった。
「……なぁ。」
ソラナムが天井を見ながら呟く。
「“終焉因子”って何だと思う?」
リゼの表情が少し曇った。
「気になる?」
「そりゃな。」
彼は真顔になる。
「俺の機体、明らかにヤバいだろ。」
「今さら?」
「今さらだよ。」
リゼは少し黙る。
そして、《ヴァルグレイヴ》を見る。
「……私も詳しくは知らない。」
「でも。」
少し声を落とした。
「HXって、“兵器”っていうより……」
「?」
「生物に近い気がする。」
ソラナムが眉をひそめる。
「生物?」
「考えてる感じがするの。」
その言葉に。
ソラナムは、戦闘中の“声”を思い出した。
『壊せ。』
『滅ぼせ。』
背筋に寒気が走る。
「……笑えねぇな。」
その頃。
《ヘリオス・ベース》中央管理区。
軍上層部会議室。
大型モニターには、《ヴァルグレイヴ》戦闘映像が映し出されていた。
HX同士の戦闘。
OVERDRIVE。
SYNC RATE急上昇。
そして。
《EXECUTION TYPE》を圧倒する瞬間。
「危険だな。」
軍服の老人が低く言う。
「制御不能になる前に処分すべきでは?」
別の将校が頷く。
「HXそのものが危険物です。」
「特に《ヴァルグレイヴ》は危険指定Sクラス。」
しかし。
一人だけ反対する人物がいた。
クロエ・ヴァレンタイン。
「駄目です。」
彼女は真っ直ぐモニターを見る。
「今、人類で《ヴァルグレイヴ》を扱えるのは羽吹・K・ソラナムだけ。」
「失えば、HXへの対抗手段も失う。」
「だが暴走した場合は?」
クロエは静かに答える。
「……その時は、私が止めます。」
会議室の空気が重くなる。
夜。
居住ブロック。
ソラナムは自販機前で缶コーヒーを飲んでいた。
戦闘後だというのに眠れない。
頭の奥に、まだノイズが残っている。
その時。
「隣、いい?」
リゼだった。
「どうぞ。」
二人並んでベンチへ座る。
コロニー内の人工夜景が窓の外へ広がっていた。
「平和だな。」
ソラナムがぽつりと言う。
「さっきまで殺し合いしてたのに。」
「だからじゃない?」
リゼは窓の外を見る。
「みんな、“普通”を守るために戦ってる。」
「……普通、か。」
ソラナムは少し笑った。
「俺、普通ってよく分かんねぇや。」
「嘘。」
「ん?」
「本当に普通じゃない人は、そんなこと言わない。」
ソラナムは少しだけ黙る。
それから。
「お前、たまに変に鋭いよな。」
「たまにじゃない。」
「自信満々だな。」
リゼは小さく笑った。
その瞬間。
ソラナムの頭へ、再びノイズが走る。
「ッ……!」
視界が一瞬赤く染まる。
そして。
脳裏へ浮かぶ。
巨大な赤い眼。
機械惑星。
崩壊する星々。
『終焉因子。』
『発見。』
「ソラナム!?」
リゼが肩を掴む。
ハッと現実へ戻る。
「……平気。」
「全然平気そうに見えない。」
「気合い。」
「万能じゃないのよ、それ。」
だが。
ソラナム自身、分かっていた。
《ヴァルグレイヴ》は。
あの“声”は。
確実に自分へ近づいてきている。
同時刻。
《ヘリオス・ベース》外縁宙域。
誰にも気付かれず。
一隻の黒い艦が、静かにコロニーへ接近していた。
艦首には、赤い紋章。
そして内部。
暗い格納庫で。
一機の新型HXが静かに目を開く。
紫色の単眼が、不気味に輝いた。
次回予告
宇宙港コロニー《ヘリオス・ベース》。
束の間の休息。
戦場を離れたパイロットたちは、それぞれの日常へ戻っていく。
だが。
《ヴァルグレイヴ》内部では、なお“何か”が静かに目覚め続けていた。
軍上層部はHXを危険視。
EVA統合機関は、“終焉因子”の監視を強化。
そして、ソラナム自身も気付き始める。
自分の中で、何かが変わり始めていることに。
一方その頃。
《ヘリオス・ベース》へ、謎の黒艦が接近。
その格納庫で眠る、新型HX。
紫色の単眼が、静かに起動する。
次回。
Chapter 5
「紫電」
新たなるHX、襲来。
そしてソラナムは、
“戦場ではない場所”で初めて命を懸ける。
黒き巨人は、まだ目覚めの途中。




