Chapter 3「終焉因子」
黒い刃が宇宙を埋め尽くす。
《EXECUTION TYPE》から放たれたワイヤーブレード群は、もはや通常兵器の域を超えていた。
高速。
変則軌道。
しかも、それぞれが独立して動いている。
「ッ……!」
ソラナムは《ヴァルグレイヴ》を急旋回。
直後。
数本のワイヤーブレードが機体脇を掠め、背後のデブリ群を切り裂いた。
大型輸送艦の残骸が、一瞬で輪切りになる。
「冗談だろ……!」
『左!!』
リゼの声。
ソラナムは反射的に機体を沈める。
次の瞬間。
頭上を黒刃が通過。
もし一瞬遅れていれば、《ヴァルグレイヴ》の頭部ごと吹き飛んでいた。
「助かった!」
『あとで奢りなさい!』
「高ぇぞ命代!」
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《セラフィム》が白い光翼を展開。
高機動モードへ移行する。
通常FWでは不可能な急制動。
白い残像を引きながら、《EXECUTION TYPE》側面へ回り込む。
『そこッ!!』
高出力ビーム射撃。
しかし。
敵はワイヤーブレードを盾のように展開し、直撃を防いだ。
> 『脅威個体追加確認。』
> 『HX-02A セラフィム。』
「名前まで認識するのかよ……」
ソラナムは顔をしかめる。
戦うほどに分かる。
この敵は“ただの兵器”ではない。
思考している。
学習している。
まるで生き物だ。
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艦橋。
レオニス艦長は険しい顔で戦況を見つめていた。
『敵機動予測不能!』
『FW部隊被害増大!』
モニターには、量産FWが次々と撃墜される光景。
HX同士の戦闘に巻き込まれた時点で、通常FWでは耐えられない。
「チッ……」
艦長が低く舌打ちする。
「ソラナムたちだけに押し付けるわけにはいかん。」
『ですが艦長、通常FWでは――』
「分かっている。」
レオニスは拳を握る。
その時。
艦橋モニターへ、新たな通信が割り込んだ。
ノイズ。
砂嵐。
そして。
女の声。
『……こちら月面EVA統合機関。』
艦橋が静まり返る。
「EVA統合機関だと?」
オペレーターが顔色を変える。
「HX管理組織……!?」
モニターへ、一人の女性が映し出された。
銀髪。
鋭い青い瞳。
軍服姿。
『私はクロエ・ヴァレンタイン。』
『そのHXを、絶対に長時間戦闘させないで。』
彼女の視線は、《ヴァルグレイヴ》へ向けられていた。
「理由は?」
レオニスが問い返す。
クロエは数秒黙った後、低く答えた。
『《ヴァルグレイヴ》は、“終焉因子”だからよ。』
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宇宙空間。
ソラナムは《EXECUTION TYPE》と交差する。
ビームサーベル。
黒剣。
火花。
衝撃。
互角。
だが。
その瞬間だった。
ソラナムの脳裏へ、突然“映像”が流れ込む。
「っ……!?」
知らない景色。
崩壊する都市。
燃える宇宙コロニー。
そして。
巨大な黒い機体。
星を押し潰すほどの重力波。
> 『終焉因子起動。』
「な、んだ……これ……!」
頭痛。
視界ノイズ。
《ヴァルグレイヴ》内部で赤黒い光が脈動する。
> SYSTEM:
> “SYNC RATE:42%”
「ソラナム!?」
リゼが叫ぶ。
『どうしたの!?』
「……平気、だ……!」
だが。
本当は全然平気ではない。
頭の奥で、誰かの声が聞こえる。
> 『壊せ。』
> 『滅ぼせ。』
> 『それがお前の役目だ。』
「黙れ……ッ!!」
ソラナムは叫ぶ。
その瞬間。
《ヴァルグレイヴ》背部ユニットが展開した。
「なっ――!?」
ソラナムは操作していない。
機体が“勝手に”動いた。
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## OVERDRIVE MODE
赤い文字が表示される。
次の瞬間。
《ヴァルグレイヴ》から膨大な粒子が噴出した。
推力急上昇。
加速。
限界突破。
ソラナムの視界から、世界が置き去りになる。
「速――ッ!?」
《EXECUTION TYPE》ですら反応が遅れる。
ソラナムは本能だけで動いた。
拳。
蹴り。
斬撃。
通常戦闘ではない。
獣じみた暴力。
「うおおおおおおおッ!!」
《ヴァルグレイヴ》の拳が敵装甲を砕く。
さらに。
至近距離ゼロレンジ射撃。
高出力ビームが《EXECUTION TYPE》胸部を貫いた。
> 『……損傷確認。』
敵が初めて後退する。
量産FW部隊が息を呑んだ。
「押してる……!?」
「HXを……HXが圧倒してる……!」
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だが。
ソラナムの様子がおかしい。
「はぁ……っ、はぁ……!」
呼吸が荒い。
瞳が赤く染まり始めている。
リゼが顔色を変えた。
『ソラナム、解除して!』
『その出力危険よ!!』
「……まだ、いける……!」
『馬鹿!!』
『SYNC42%でOVERDRIVEなんて正気じゃない!』
クロエの通信も割り込む。
『そのままじゃ精神が機体に飲まれる!!』
「飲まれる前に倒せばいいだろ……!」
ソラナムは笑う。
だがその笑みは、少し危うかった。
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その時。
《EXECUTION TYPE》が突然後退した。
赤い単眼が点滅する。
> 『……計画変更。』
> 『終焉因子確認。』
> 『上位個体へ報告を開始する。』
「上位……?」
ソラナムが眉をひそめた瞬間。
宇宙空間が震えた。
遠方宙域の様子がモニターに映し出される。
巨大な“何か”が動いている。
最初は星だと思った。
だが違う。
それは。
無数の装甲と砲門で構成された、機械の天体だった。
『な、なんだあれ……!?』
オペレーターが悲鳴を上げる。
『超大型熱源反応!!』
『サイズ、計測不能!!』
その中心で。
巨大な赤い“眼”が開く。
そして。
ソラナムの脳へ、直接声が響いた。
> 『発見。』
> 『終焉因子、確認。』
《ヴァルグレイヴ》が共鳴する。
赤黒い粒子が吹き上がる。
SYNC RATE上昇。
> “45%”
リゼが叫んだ。
『ソラナム!!戻って!!』
しかし。
ソラナムは、去り行き際もその巨大な赤い眼から目を離せなかった。
まるで。
“向こうも、自分を見ている”。
そんな感覚があった。
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# Chapter 3 END
巨大機械天体。
“終焉因子”という謎の言葉。
そして、《ヴァルグレイヴ》内部で進行する異常同期。
激戦を終えた《アーク・ヴェイン》は、補給と修理のため宇宙港コロニー《ヘリオス・ベース》へ向かう。
だが、束の間の休息の裏側で。
人類軍。 EVA統合機関。 そしてHX。
それぞれの思惑が静かに動き始めていた。
ソラナムはまだ知らない。
自分が乗る《ヴァルグレイヴ》が、どれほど危険な存在なのかを。
そして。
“終焉因子”を巡る戦いが、すでに始まっていることを。
次回。
Chapter 4
「帰還」
戦場を離れた少年たちを待つのは、平穏か。
それとも――。




