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VALGRAVE - END OF GENESIS -  作者: 羽吹南瓜
第1部「覚醒編」
3/21

Chapter 3「終焉因子」

黒い刃が宇宙を埋め尽くす。


 《EXECUTION TYPE》から放たれたワイヤーブレード群は、もはや通常兵器の域を超えていた。


 高速。

 変則軌道。

 しかも、それぞれが独立して動いている。


「ッ……!」


 ソラナムは《ヴァルグレイヴ》を急旋回。


 直後。


 数本のワイヤーブレードが機体脇を掠め、背後のデブリ群を切り裂いた。


 大型輸送艦の残骸が、一瞬で輪切りになる。


「冗談だろ……!」


『左!!』


 リゼの声。


 ソラナムは反射的に機体を沈める。


 次の瞬間。


 頭上を黒刃が通過。


 もし一瞬遅れていれば、《ヴァルグレイヴ》の頭部ごと吹き飛んでいた。


「助かった!」


『あとで奢りなさい!』


「高ぇぞ命代!」


---


 《セラフィム》が白い光翼を展開。


 高機動モードへ移行する。


 通常FWでは不可能な急制動。


 白い残像を引きながら、《EXECUTION TYPE》側面へ回り込む。


『そこッ!!』


 高出力ビーム射撃。


 しかし。


 敵はワイヤーブレードを盾のように展開し、直撃を防いだ。


> 『脅威個体追加確認。』


> 『HX-02A セラフィム。』


「名前まで認識するのかよ……」


 ソラナムは顔をしかめる。


 戦うほどに分かる。


 この敵は“ただの兵器”ではない。


 思考している。


 学習している。


 まるで生き物だ。


---


 艦橋。


 レオニス艦長は険しい顔で戦況を見つめていた。


『敵機動予測不能!』


『FW部隊被害増大!』


 モニターには、量産FWジェガードが次々と撃墜される光景。


 HX同士の戦闘に巻き込まれた時点で、通常FWでは耐えられない。


「チッ……」


 艦長が低く舌打ちする。


「ソラナムたちだけに押し付けるわけにはいかん。」


『ですが艦長、通常FWでは――』


「分かっている。」


 レオニスは拳を握る。


 その時。


 艦橋モニターへ、新たな通信が割り込んだ。


 ノイズ。


 砂嵐。


 そして。


 女の声。


『……こちら月面EVA統合機関。』


 艦橋が静まり返る。


「EVA統合機関だと?」


 オペレーターが顔色を変える。


「HX管理組織……!?」


 モニターへ、一人の女性が映し出された。


 銀髪。


 鋭い青い瞳。


 軍服姿。


『私はクロエ・ヴァレンタイン。』


『そのHXを、絶対に長時間戦闘させないで。』


 彼女の視線は、《ヴァルグレイヴ》へ向けられていた。


「理由は?」


 レオニスが問い返す。


 クロエは数秒黙った後、低く答えた。


『《ヴァルグレイヴ》は、“終焉因子”だからよ。』


---


 宇宙空間。


 ソラナムは《EXECUTION TYPE》と交差する。


 ビームサーベル。


 黒剣。


 火花。


 衝撃。


 互角。


 だが。


 その瞬間だった。


 ソラナムの脳裏へ、突然“映像”が流れ込む。


「っ……!?」


 知らない景色。


 崩壊する都市。


 燃える宇宙コロニー。


 そして。


 巨大な黒い機体。


 星を押し潰すほどの重力波。


> 『終焉因子起動。』


「な、んだ……これ……!」


 頭痛。


 視界ノイズ。


 《ヴァルグレイヴ》内部で赤黒い光が脈動する。


> SYSTEM:


> “SYNC RATE:42%”


「ソラナム!?」


 リゼが叫ぶ。


『どうしたの!?』


「……平気、だ……!」


 だが。


 本当は全然平気ではない。


 頭の奥で、誰かの声が聞こえる。


> 『壊せ。』


> 『滅ぼせ。』


> 『それがお前の役目だ。』


「黙れ……ッ!!」


 ソラナムは叫ぶ。


 その瞬間。


 《ヴァルグレイヴ》背部ユニットが展開した。


「なっ――!?」


 ソラナムは操作していない。


 機体が“勝手に”動いた。


---


## OVERDRIVE MODE


 赤い文字が表示される。


 次の瞬間。


 《ヴァルグレイヴ》から膨大な粒子が噴出した。


 推力急上昇。


 加速。


 限界突破。


 ソラナムの視界から、世界が置き去りになる。


「速――ッ!?」


 《EXECUTION TYPE》ですら反応が遅れる。


 ソラナムは本能だけで動いた。


 拳。


 蹴り。


 斬撃。


 通常戦闘ではない。


 獣じみた暴力。


「うおおおおおおおッ!!」


 《ヴァルグレイヴ》の拳が敵装甲を砕く。


 さらに。


 至近距離ゼロレンジ射撃。


 高出力ビームが《EXECUTION TYPE》胸部を貫いた。


> 『……損傷確認。』


 敵が初めて後退する。


 量産FW部隊が息を呑んだ。


「押してる……!?」


「HXを……HXが圧倒してる……!」


---


 だが。


 ソラナムの様子がおかしい。


「はぁ……っ、はぁ……!」


 呼吸が荒い。


 瞳が赤く染まり始めている。


 リゼが顔色を変えた。


『ソラナム、解除して!』


『その出力危険よ!!』


「……まだ、いける……!」


『馬鹿!!』


『SYNC42%でOVERDRIVEなんて正気じゃない!』


 クロエの通信も割り込む。


『そのままじゃ精神が機体に飲まれる!!』


「飲まれる前に倒せばいいだろ……!」


 ソラナムは笑う。


 だがその笑みは、少し危うかった。


---


 その時。


 《EXECUTION TYPE》が突然後退した。


 赤い単眼が点滅する。


> 『……計画変更。』


> 『終焉因子確認。』


> 『上位個体へ報告を開始する。』


「上位……?」


 ソラナムが眉をひそめた瞬間。


 宇宙空間が震えた。


 遠方宙域の様子がモニターに映し出される。


 巨大な“何か”が動いている。


 最初は星だと思った。


 だが違う。


 それは。


 無数の装甲と砲門で構成された、機械の天体だった。


『な、なんだあれ……!?』


 オペレーターが悲鳴を上げる。


『超大型熱源反応!!』


『サイズ、計測不能!!』


 その中心で。


 巨大な赤い“眼”が開く。


 そして。


 ソラナムの脳へ、直接声が響いた。


> 『発見。』


> 『終焉因子、確認。』


 《ヴァルグレイヴ》が共鳴する。


 赤黒い粒子が吹き上がる。


 SYNC RATE上昇。


> “45%”


 リゼが叫んだ。


『ソラナム!!戻って!!』


 しかし。


 ソラナムは、去り行き際もその巨大な赤い眼から目を離せなかった。


 まるで。


 “向こうも、自分を見ている”。


 そんな感覚があった。


---


# Chapter 3 END

巨大機械天体。


 “終焉因子”という謎の言葉。


 そして、《ヴァルグレイヴ》内部で進行する異常同期。


 激戦を終えた《アーク・ヴェイン》は、補給と修理のため宇宙港コロニー《ヘリオス・ベース》へ向かう。


 だが、束の間の休息の裏側で。


 人類軍。  EVA統合機関。  そしてHX。


 それぞれの思惑が静かに動き始めていた。


 ソラナムはまだ知らない。


 自分が乗る《ヴァルグレイヴ》が、どれほど危険な存在なのかを。


 そして。


 “終焉因子”を巡る戦いが、すでに始まっていることを。


次回。


Chapter 4

「帰還」


 戦場を離れた少年たちを待つのは、平穏か。


 それとも――。

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