Episode Final 「END OF GENESIS」
戦争は終わった。
少なくとも、
一時的には。
《GENESIS》消失。
HX群撤退。
ヘリオス宙域は、
静かな残骸の海になっていた。
崩壊した戦艦。
漂う装甲片。
燃え尽きたFW。
その中心を、
一隻の回収艦が進んでいく。
――――――――――――――――――――――
医療区画。
静かな部屋だった。
機械音だけが響いている。
そのベッドへ、
一人の少年が座っていた。
羽吹・K・ソラナム。
左腕には、
黒い侵食痕が残っている。
終焉因子。
完全には消えていない。
そして。
彼の視線の先。
もう一つのベッドがある。
「…………。」
フレア・ダクバット。
眠っていた。
包帯。
生命維持装置。
そして。
虚ろな瞳。
医師は言った。
『肉体は生存しています。』
『ですが。』
『精神損傷が深刻です。』
『記憶領域にも、
大規模な断裂が確認されています。』
つまり。
もう以前のフレアではない。
ソラナムは、
何も言えなかった。
言葉が出ない。
その時だった。
『……ミリア?』
小さな声。
ソラナムの肩が震える。
フレアだった。
だが。
焦点が合っていない。
『見てくださいよ……俺、ちゃんと強く――』
そこで言葉が止まる。
静寂。
そして。
再び眠るように目を閉じた。
「…………。」
ソラナムは俯く。
拳が震えていた。
一方。
ミリア・ノクトの葬儀が行われていた。
軍葬。
白い花。
静かな雨。
参列者は少ない。
だが。
誰もが彼女を忘れていなかった。
リゼは、
棺を見つめていた。
「……ごめん。」
小さな声。
「私、
怖かった。」
涙が落ちる。
「ミリアみたいに、
前へ出れなかった。」
返事はない。
当然だ。
もう、
彼女はいない。
それでも。
リゼは震えながら敬礼した。
「……ありがとう。」
一方。
EVA管理局内部では、
ある報告が提出されていた。
『HX文明は、
人類殲滅のみを目的としていない。』
『GENESISは、
文明進化観測装置である可能性。』
『終焉因子は、
人類進化誘導システムと推定。』
沈黙。
重苦しい空気。
その時。
一人の幹部が低く言った。
『……ならば。』
『人類は、既に実験対象という事か。』
誰も答えなかった。
宇宙。
遠く離れた宙域。
巨大な門が静かに閉じる。
その前に、
一体の白銀HXが浮かんでいた。
《ANGEL PRIME》
その瞳が、
静かに地球圏を見つめる。
『観測更新。』
『人類は、未だ滅びを選択せず。』
沈黙。
そして。
僅かに。
本当に僅かに。
その声色へ、
感情のようなものが混じった。
『……興味深い。』
その瞬間。
遥か宇宙の彼方。
暗黒宙域で、
巨大な“何か”が目を開いた。
UNKNOWN SIGNAL DETECTED
赤い光。
無数の瞳。
そして。
人類圏へ向けられる視線。
ヘリオス・ベース外壁。
ソラナムは、
一人で宇宙を見ていた。
そこへ。
リゼが来る。
「隣、いい?」
「あぁ。」
短いやり取り。
しばらく沈黙が続く。
そして。
リゼが小さく言った。
「……終わらなかったね。」
「……あぁ。」
ソラナムが宇宙を見る。
静かな星々。
だが。
その奥には、
まだ終焉が待っている。
「でも。」
リゼが前を見る。
「まだ生きてる。」
その言葉。
ソラナムは少しだけ目を閉じた。
失ったものは大きい。
戻らない。
消えない。
罪も。
痛みも。
全部残っている。
それでも。
前へ進くしかない。
それがきっと。
“生きる”という事だから。
その時。
格納庫深部。
誰もいないはずの場所。
《ヴァルグレイヴ》の瞳が、
静かに発光した。
『第二観測フェーズ準備完了。』
『終焉因子、
新段階へ移行します。』
黒い粒子が、
静かに宙へ溶けていく。
VALGRAVE
- END OF GENESIS -
第1部「覚醒編」 完




