Chapter 22「喪失者」
宇宙に、
白い粒子だけが漂っていた。
《アークウィング》の残骸。
ミリア・ノクトが、
そこにいた証。
だが。
もう、
声は返ってこない。
「……………………。」
《クリムゾナー》は動かなかった。
赤い機体は、
ただ漂っている。
応答無し。
まるで、
魂そのものが止まったようだった。
『フレア……。』
リゼが呼びかける。
返答は無い。
『フレア!!』
それでも。
沈黙。
一方。
《ヴァルグレイヴ》内部。
ソラナムは震えていた。
「俺が……。」
手が震える。
呼吸が乱れる。
「俺が……殺した……。」
モニターへ映る撃墜ログ。
ALLY UNIT LOST
《ARKWING》
それが、
現実を突きつけていた。
『終焉天使。』
初代終焉天使の声。
『感情は、必ず破壊を生む。』
「……黙れ。」
『お前も理解したはずだ。』
『守りたいという感情が、
最も多くを壊す。』
「黙れェェェェ!!」
ソラナムが叫ぶ。
《ヴァルグレイヴ》から、
黒い粒子が暴発する。
だが。
否定できなかった。
実際に。
自分の手で、仲間を撃った。
その事実だけが、
胸へ深く突き刺さる。
その時だった。
宇宙空間。
HX群の奥。
黒い影が現れる。
『新規高位HX反応!!』
『識別コード不明!!』
現れたのは。
黒と深紅のHX。
人型。
だが。
そのシルエットは、
どこか《ヴァルグレイヴ》に似ていた。
頭部には、
一本角。
全身へ走る赤い発光ライン。
そして。
背部には、
巨大な紅剣。
『……観測対象確認。』
低い機械音声。
そのHXは、
ゆっくりと《クリムゾナー》を見る。
『個体:フレア・ダクバット。』
『適合値高。』
『終焉因子への耐性を確認。』
その瞬間。
フレアの目が、
ゆっくり開いた。
「……なんだよ。」
声が掠れている。
『力を求めるか。』
「……。」
『全てを壊せる力を。』
ミリアの爆発光景。
ソラナムの黒い砲撃。
頭の中で繰り返される。
「……あぁ。」
フレアが呟く。
「欲しい。」
その声には、
もう以前の熱は無かった。
「全部壊せるくらいの力が。」
その瞬間。
黒いHXが、
ゆっくりと剣を差し出した。
『ならば来い。』
『終焉は、喪失者を拒まない。』
『フレア!?』
リゼが叫ぶ。
『駄目!!』
『そいつに近づいちゃ――』
だが。
《クリムゾナー》は動く。
ゆっくり。
まるで魂を失ったように。
「フレア!!」
今度はソラナムだった。
その声。
その瞬間。
フレアが止まる。
「……ソラナム。」
静かな声。
だが。
次の言葉は、
ソラナムの心をさらに抉った。
『なんで生きてるんだ。』
「……ッ。」
『ミリアが死んだのに…アンタがヴァルグレイブを抑え込んでさえいれば!』
それて叩きつけられる決定的な1言
『アンタがミリアを殺したんだ。』
「違う……!!」
『違わない。』
《クリムゾナー》が振り向く。
その瞳には、
怒りも涙も無かった。
ただ、
深い空虚だけがある。
『アンタが殺した。』
「……。」
『俺から、全部奪った。』
その一言。
ソラナムは返せない。
何も。
返せなかった。
一方。
《GENESIS》中心部。
巨大な瞳が、
静かに戦場を見下ろしていた。
『感情因子確認。』
『憎悪。喪失。絶望。』
『終焉因子との親和性上昇。』
そして。
《ANGEL PRIME》が、
その言葉を聞いていた。
『……GENESIS。』
『お前は、
これを望んでいたのか。』
『肯定。』
『文明は、
苦痛によって進化する。』
その瞬間。
ANGEL PRIMEの光輪が、
強く明滅した。
それはまるで。
怒りのようだった。
宇宙空間。
《クリムゾナー》が、
黒いHXへ近づく。
そして。
HXが、
ゆっくりと告げる。
『新名称登録。』
『CODE:RAGNAROK』
紅剣が、
赤く発光した。
次回予告
ミリアを失ったフレアは、
未知のHX《RAGNAROK》と接触。
その心は、
復讐と喪失によって変質を始める。
一方。
自らの罪へ押し潰されるソラナムは、
《ヴァルグレイヴ》との同期を解除できなくなっていた。
『SYNC RATE:固定化開始』
『解除不能。』
そして。
《GENESIS》は、
第三次殲滅シークエンスを開始する。
『文明消去を継続します。』
Chapter 23
「紅き終焉」
喪失は、
新たな怪物を生む。




