Chapter 9「群青の防衛線」
宇宙港コロニー《ヘリオス・ベース》。
その外宙域に、異常な数の熱源が浮かび上がっていた。
HX SIGNAL:47
赤い光点。
無数の機影。
闇の宇宙を埋め尽くすように接近してくる。
その光景を見た瞬間。
誰もが理解した。
“今までとは違う”。
『全戦闘要員、第一種戦闘配置!!』
『民間ブロック、全域シェルター閉鎖!!』
『艦隊主砲、発射準備!!』
《ヘリオス・ベース》全域が戦時モードへ移行する。
軍港ドック。
大量のFWがカタパルトへ並んでいた。
量産機。
重装型。
高速機。
数百機規模。
これが人類軍の総力。
だが。
格納庫内の空気は重かった。
「47機って正気かよ……。」
「HX一機だけでも災害レベルだぞ……。」
「俺ら量産FWだぞ……?」
兵士たちの顔には緊張が浮かんでいる。
その中央。
ソラナムは《ヴァルグレイヴ》を見上げていた。
黒銀の装甲。
巨大な重装フレーム。
だが。
今はどこか“呼吸している”ように見える。
『……悩んでる顔。』
通信。
リゼだった。
《セラフィム》のコックピット映像が表示される。
「そりゃな。」
ソラナムは苦笑する。
「急に“人類の未来背負ってます”とか言われても困る。」
『でも逃げないんでしょ。』
「逃げられる状況か?」
『性格の話。』
ソラナムは少し黙った。
そして。
「……まぁ、放っとけない。」
リゼが少しだけ笑う。
『そういうとこ。』
「何だよ。」
『好きよ。』
「…………は?」
ソラナムが固まる。
リゼは平然としていた。
『その、“誰かを見捨てられないところ”。』
「お、おう……。」
ソラナムは露骨に視線を逸らした。
『何その反応。』
「いや急に来るなって!」
『戦場前だから。』
「怖ぇよ。」
だが。
少しだけ緊張が和らいだ。
その時。
警報が鳴り響く。
ENEMY CONTACT
『HX群、交戦距離到達!!』
『第一防衛ライン展開!!』
モニターへ映る敵群。
獣型。
飛行型。
重装甲型。
様々なHXが迫ってくる。
その中心。
一機だけ。
人型HXがいた。
青い外装。
細身の機体。
頭部には、まるで王冠のような構造。
そして。
青い単眼。
「……あれ。」
ソラナムが眉をひそめる。
他と雰囲気が違う。
機械的なのに。
妙に“人間っぽい”。
『識別コード:HX-11』
『名称:《THRONE》』
『人型指揮機……!?』
オペレーターが叫ぶ。
次の瞬間。
HX群が一斉加速した。
戦闘開始。
『FW部隊、迎撃開始!!』
無数の量産FWが宇宙へ飛び出す。
ライフル。
ミサイル。
ビーム砲撃。
宇宙空間が閃光で埋まった。
だが。
HX群は止まらない。
飛行型HXが高速突撃。
一瞬でFW部隊へ食い込む。
『うわぁぁぁぁ!!』
爆発。
撃墜。
量産FWが次々と散っていく。
「クソッ!!」
ソラナムは《ヴァルグレイヴ》を発進させた。
黒い巨体が宇宙へ躍り出る。
直後。
敵飛行型HXが三機突撃。
「邪魔だァ!!」
ビームライフル連射。
二機撃破。
残る一機へ体術機動。
回し蹴り。
HX爆散。
『相変わらず無茶苦茶な動き……!』
リゼの《セラフィム》も出撃。
白い翼を展開し、後方援護へ回る。
その時だった。
《THRONE》が、ゆっくりと前へ出た。
青い単眼。
静かな動作。
そして。
通信回線へ直接声が響く。
『終焉因子確認。』
『質問を開始する。』
「……質問?」
『何故、人類を守る。』
ソラナムが顔をしかめる。
「またそれかよ。」
『人類は争う。』
『奪う。』
『滅ぼす。』
『それでも、守る価値があるのか?』
戦場。
爆発。
悲鳴。
確かに。
人類は綺麗じゃない。
だが。
ソラナムは前を見る。
避難艦。
守ろうとする兵士。
泣いている子供。
戦う仲間たち。
「……ある。」
『理由を問う。』
「そんなの。」
ソラナムは《ヴァルグレイヴ》を構える。
「俺が、守りたいからだ。」
一瞬。
《THRONE》の青い単眼が揺れた。
『感情論。』
「そうだよ。」
ソラナムは加速する。
激突。
《ヴァルグレイヴ》と《THRONE》。
黒と白。
HX同士が宇宙空間で衝突した。
しかし。
次の瞬間。
《THRONE》が異常な速度で回避。
そのまま《ヴァルグレイヴ》背後へ。
「速っ――!?」
青い粒子。
高機動。
そして。
《THRONE》は静かに告げた。
『ならば証明しろ。』
『人類に、存続する価値があることを。』
直後。
HX群が一斉に《ヘリオス・ベース》へ突撃を開始した。
『敵群突破!!』
『防衛ライン崩壊します!!』
『民間区画へ侵入コース!!』
「ッ!!」
ソラナムが目を見開く。
守り切れなければ終わる。
本当に。
この世界は終わる。
そして。
《ヴァルグレイヴ》内部で、再び赤い文字が点灯した。
ARMOR PURGE SYSTEM
STANDBY
「……来たか。」
重装甲解除システム。
禁断の高機動形態。
だが。
それを使えば。
SYNC RATE急上昇予測
ソラナムは静かに息を吐く。
「ったく……。」
そして。
不敵に笑った。
「使ってみるか」
Chapter 9 END
次回予告
HX群47機による全面侵攻。
ついに《ヘリオス・ベース》防衛ラインが崩壊する。
民間区画へ雪崩れ込むHX。
炎上するドック。
撃墜されていくFW部隊。
人類軍は、かつてない窮地へ追い込まれていた。
そんな中。
ソラナムは決断する。
《ARMOR PURGE SYSTEM》起動。
重装甲を解除し、
《ヴァルグレイヴ》は“高機動殲滅形態”へ移行。
黒い巨体は、
まるで拘束を解かれた怪物のように加速する。
だが、その代償は大きかった。
SYNC RATE 60%領域接近。
人間性を削られていく感覚。
機体と融合していく意識。
そして。
ソラナムの脳裏へ流れ込む、“HX戦争”の記憶。
一方。
リゼは避難民救助中、
地下シェルターで再びあの少女と出会う。
少女は静かに言う。
「黒い天使が泣いてる。」
さらに。
《THRONE》の背後で、
新たな人型HX反応を確認。
その機体は、
まるで“騎士”のような姿をしていた。
次回。
Chapter 10
「黒き天使」
守る力か。
滅ぼす力か。
その境界線が、壊れ始める。




