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犬と猿と木彫り遊び

レイラがお忍びで城下へ行き、

買い物をしてきた次の日。


シャガルは何気なく聞いた。


「結局、猿には何を贈ったのだ」


レイラは答える。


「着物だ」


「ほう」


「古い方を欲しいと言われた」


その言葉に

シャガルは静かに天を仰いだ。


(着物……)

(そして古い方……)


(つまり……)

(猿のではなく)


(あやつ……)

(……)


胃の奥が捻れた。


それ以上は考えないようにした。


「…………」


「なにに使うつもりなのだかな……」


ぼそりと呟く。


(……?)


レイラには意味が分からなかった。


だが。


テュエルだけは少しだけ視線を逸らした。


珍しく。


ほんの少しだけ。


———


後日。


レイラはようやく買い物袋の整理をしていた。


ここ数日忙しかったのだ。


というより。


買い物の日の夜はテュエルと過ごし。


翌日はシャガルに贈り物を渡した。


酒。


盃。


瓢箪。


豆菓子。


喜んでいた。


非常に。


思い出すだけで少し恥ずかしい。


なので忘れることにした。


だが。


その翌日は別件が入り。


気づけば荷物が放置されていた。


「……よし」


小さく頷く。


机の横に小さな袋を置く。


酒は既にシャガルへ渡した。


爺への漬物も渡した。


残っているのは自分用に買った物だけだ。


本。


それから――


「……猿だ」


木彫りの猿。


ころんとした丸い体。


少し不格好。


だが妙に愛嬌がある。


レイラは手に取った。


眺める。


回す。


眺める。


「……猿だな」


やはり猿だった。


ふと視線を上げる。


机の上。


そこには犬がいる。


シャガルが誕生日にくれた木彫りだった。


相変わらずいた。


いつ見ても犬だった。


犬を見る。


手元の猿を見る。


また犬を見る。


また猿を見る。


「……」


数秒。


考える。


そして。


当然のように。


犬の隣へ猿を置いた。


完成。


「……ふふ」


満足そうに頷く。


しっくり来た。


非常に。


机の上が以前より落ち着く。


何故かは分からない。


だが。


良い。


とても良い。


レイラは椅子へ腰掛けた。


犬を見る。


猿を見る。


「……」


少し考える。


そして。


犬を持ち上げた。


「犬」


続いて猿。


「猿」


机の上で向かい合わせる。


「……」


口元が少し緩んだ。


「……へへ」


そして。


小さく動かす。


「犬猿の仲〜」


犬を前へ。


猿を前へ。


「シャーシャー」


「ガルガル」


自分で言って。


少し面白かった。


その時だった。


「何をしているんですか^^」


くすり、と背後から声。


「っ」


レイラの肩が跳ねた。


振り返る。


テュエルだった。


いつからいた。


全く気づかなかった。


「……」


テュエルもまた、


ほんの少し前に見た光景を思い出していた。


「犬猿の仲〜」


「シャーシャー」


「ガルガル」


(……はい)


(……可愛いですね)


非常に。


だが顔には出さない。


「……」


「……」


沈黙。


テュエルの視線が机へ落ちる。


犬。


猿。


犬。


猿。


そして。


猿。


「……」


停止。


(……猿?)


(いつから居た)


(まさか……)


(この間に……?)


(それはそれとして)


(可愛かったですね)


「……」


レイラは咳払いした。


「な、何でもない」


「……はい^^」


だが。


視線が猿から離れない。


レイラは少しだけ居心地が悪くなった。


「……」


「……」


数秒。


「……お前だ」


沈黙に耐えきれず、言った。


テュエルが瞬く。


「はい?」


「その猿」


指差す。


「お前だ」


即答。


「……ボクですか」


「お前だ」


「なるほど^^」


なるほどではなかった。


だが。


(可愛いので何でも良いですね)


とても可愛かった。


だが。


テュエルはそれ以上何も言わなかった。


ただ。


ほんの少しだけ。


本当に少しだけ。


嬉しそうだった。


———


数日後。


シャガルが部屋へ来た。


ごろん、と長椅子。


レイラ。


その隣にテュエル。


いつもの光景だった。


そして。


何気なく机へ視線を向ける。


犬。


知っている。


自分が贈った物だ。


その隣。


猿。


「……」


シャガルの動きが止まった。


一秒。


二秒。


三秒。


(……は?)


(……猿……だと……?)


もう一度見る。


犬。


猿。


犬。


猿。


やはり猿だった。


「……レイラ」


「……ん?」


「……なんだそれは」


レイラは本から顔を上げる。


「猿だ」


見れば分かる。


「なぜある」


「犬だけでは寂しいだろう?」


即答。


シャガルは黙った。


犬だけでは寂しい。


犬だけでは寂しい。


犬だけでは寂しい。


頭の中で反響した。


レイラは机を見る。


犬。


猿。


満足。


「……へへ」


犬を持つ。


猿を持つ。


「犬猿の仲〜」


また遊び始めた。


満足そうだった。


非常に。


シャガル

「……」


テュエル

「^^」


シャガル

「おい、猿」


テュエル

「はい?」


シャガル

「そっちではない」


「机の上の猿だ」


「持って帰れ」


「嫌です^^」


テュエルは即答した。


「なぜだ」


「レイラ様の物ですから^^」


にこやかだった。


非常に。


シャガルは天を仰いだ。


駄目だ。


手遅れだった。


最初から。


そして何より。


一番手遅れなのは。


犬と猿を動かしながら。


「……へへ」


と機嫌良く遊ぶレイラを見て、


可愛いと思ってしまう夫二人であった。


その後も。


レイラは時々机の上で犬と猿を動かして遊んでいた。


「犬猿の仲っ」


「シャーシャー」


「ガルガル〜」


本人は満足そうだった。


非常に。


テュエルも満足そうだった。


非常に。


(レイラ様が楽しそうですね)


それが全てだった。


ただ。


(なぜ俺はシャガルと遊ばされているのでしょうね)


とは少し思った。


シャガルだけが。


(なぜ余は猿と並べられておるのだ……)


と納得していなかった。


———


ある日。


いつものように。


レイラは机の上の木彫りを手に取った。


もはや日課だった。


「シャーシャー」


猿が動く。


「ガルガル」


犬が動く。


「犬猿の仲〜」


レイラは上機嫌だった。


その時。


ふと。


シャガルの眉が動いた。


「……待て」


「?」


レイラが顔を上げる。


違和感を拾う。


シャガルは犬を見る。


猿を見る。


そしてレイラを見る。


(シャーシャー)

(ガルガル)


なぜか引っかかった。


シャガル

「前から気になっていたのだが」


レイラ

「…………」


嫌な予感。


非常に。


シャガル

「シャーシャーガルガル……」


レイラ

「…………」


シャガル

「レイラ」


レイラ

「…………」


シャガル

「お前、余に名前をつけたな」

「余の名前の由来はなんなのだ」


「……」


「……」


テュエルは察した

(あっ)


シャガル

「なぜ黙る」


レイラ

「……いや」


シャガル

「いや?」


レイラ

「…………」


まずい。


本当にまずい。


絶対怒る。


たぶんテュエルは笑う。


非常に笑う。


だから――


レイラは考えた。


全力で。


そして。


思い出した。


そういえば。


自分にもずっと聞きたいことがあった。


レイラ

「……シャガル」


シャガル

「話を逸らすな」


即座だった。


レイラ

「…………」


シャガル

「…………」


レイラ

「……聞きたいことがある」


シャガル

「余もある」


レイラ

「…………」


シャガル

「…………」


気にせずにレイラは押し通す。


レイラ

「……お前はなんで大鎌なんだ?」 



その言葉にシャガルの肩がぴくりと揺れた。


「……」


沈黙。


テュエル

「…………」

(あ…これは……)


今度はシャガルが固まった。


完全に。


レイラ

「前から気になっていたんだ」


シャガル

「…………」


レイラ

「鬼なら棍棒だろう」


シャガル

「…………」


レイラ

「なぜ大鎌なんだ?」


シャガル

「…………」


レイラ

「?」


シャガル

「…………」


レイラ

「理由があるんだろう?」


シャガル

「…………ある」


レイラ

「なんだ?」


シャガル

「…………」


言えない。


言えるわけがない。


若い頃の自分が。


刀を持つアインを見て。


(被りたくない)


と思い。


もっと珍しくて。


もっと強そうで。


もっと格好良くて。


死神みたいで。


なんかこう。


すごそうだから。


という理由で選んだなど。


言えるわけがない。


テュエル

(今回はどうだ)

(逃げれるのか?)


シャガル

(黙れ猿)


内心で会話した。


レイラ

「どうなんだ?」


レイラは口角を少し上げ、首を傾げる。


シャガル

「…………」


レイラ

「…………」


シャガル

「…………」


レイラ

「…………」


テュエル

「…………」


地獄みたいな沈黙。


そして。


レイラが立ち上がった。


シャガル

「……待て」


レイラ

「嫌だ」


即答。


シャガル

「レイラ」


レイラ

「お前も答えていないだろう」


「これでおあいこだ」


シャガル

「…………」


確かに答えられない。

このままの方がいい、そう判断した。


シャガル

「そうだな」


納得した。


……わけではない。


だが。


大鎌の理由を話すよりは遥かに良かった。


小さく息を吐く。


正直。


助かった。


本気でそう思った。


だが。


シャーシャーガルガル問題は、


何一つ解決していなかった。

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