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【未来編】「飽きた」と言われたので覚悟したらおにぎりの話でした

周囲から見れば――


レイラは、明らかに様子がおかしかった。


言葉は少なく、視線はどこか遠い。


時折、ふっと息を吐く。


「……はぁ……」


空気が、重い。


誰もが、声をかけるのを躊躇うほどに。


だが――当の本人は。


 


(はぁ……眠い……)


(季節の変わり目だからか……)


(……月のものが近いのだろうか……)


 


ふぁあ、と欠伸をひとつ。


 


(……それにしても……)


(なんでシャガルって大鎌なんだろ……)


(鬼って、棍棒の印象が強いけど……)


(……あとで、聞くか……)


 


中身、これである。


 



 


その様子を、少し離れた場所から見ていたシャガル。


 


(……様子がおかしい)


(ここ数日……ずっとだ)


 


一歩、踏み出す。


問いただすべきか。


 


そう思った、その瞬間――


 


「……はぁ……」


 


レイラが、俯く。


 


視線の先は、今着ている着物。


 


だが――シャガルの角度からは、


自らが贈った婚姻の証、


翡翠色の腕輪を眺めているように見えてしまう。


 


そして――


 


「……もう……潮時か……」


(※もう、ヨレヨレだな。)


 


ぽつり、と落ちる声。


 


(…………)


 


シャガル、停止。


 


(潮時……?)


(……何が……?)


 


その横顔。


わずかに潤んだ瞳。


 


(な……)


(泣いて……おるのか……?)


 


※ただの欠伸で涙目


 


(余が……なにかしたのか……?)


 



 


たまらず、歩み寄る。


 


気配に気づいたレイラが、顔を上げる。


 


「……あ……シャガル……」


 


(あれ……なんだっけ……)


 


「な、なんだレイラ……」


 


一瞬の沈黙。


 


レイラ、固まる。


 


(…………)


(……なんだったっけ……)


 


思い出せない。


 


だが、その沈黙が――


とてつもなく“重く”見える。


 


レイラ

「…………」


シャガル

「…………っ」


 


シャガル、緊張。


レイラ、普通に忘れているだけ。


 


そして――


 


「……なんでもない……」


 


(忘れた。あとでいいや)


 


わずかに、視線を逸らす。


 


シャガル

「…………」


 


普段なら、威勢よく問いただす。


だが――そこに、いつもの威厳はない。


 


妖王は、言葉を飲み込んだ。


 


そして――


 


たまらず、部屋を後にする。


 


パタン――


 



 


沈黙。


 


(……待て)


(今のは、なんだ)


 


(言い淀んだな)


(余に言えぬことか)


 


(腕輪を……見ながら……)


 


『……もう……潮時か……』


 


脳内で、何度も再生される。


 


(……まさか)


 


脳裏に浮かぶ、最悪の可能性。


 


――別れ、か?


 


だが、それ以上は考えない。


 


(いや……まさか……な)


 


思考を、無理やり断ち切る。


 


胸の奥が、じわりと重くなる。


 


(余は……何かしたか……?)


 


答えは出ない。


 


ただ一つ、確かなのは――


 


(……様子が、おかしい)


 


その事実だけだった。


 


――――――――――――


資料室へ移ってからも、

レイラの様子は変わらない。


 


(……レイラ様……)


 


部屋の隅から、そっと様子を窺う。


 


本を開いている。


だが、視線は動いていない。


頁も、めくられていない。


 


(……集中されていない)


(……いや、それどころではないな)


 


視線はどこか浮いていて、


ぼんやりと、遠くを見るような目。


 


ここ数日、ずっとこうだ。


 


(……?)


(まだ周期は来ていないはずだが……)


 


体調ではない。


 


では――精神的な要因。


 


(何か、悩みが……?)


 


その時。


 


「……はぁ……」


(小腹が空いたな……)


(……でも……)


 


「……もう……飽きてきたな……」


(鮭の握り飯は……)


 


ぽつりと、こぼれた声。


 


――ガァァァァァン


 


(……飽きた?)


 


思考が、止まる。


 


そして――ゆっくりと、


最悪の方向へ動き出す。


 


(……まさか……)


(俺に……?)


 


喉が、乾く。


 


「……たまには……違うほうがいいな……」


(まだ試したことのない具でも探すか)


 


――ガァァァァァァン


 


(違う方……?!)


(俺じゃない……誰か……?)


 


「……脂が乗っているほうがいいな……」


(いや……でもやっぱり鯖は外せない……)


 


(脂……?!)


 


(確かに……俺はレイラ様より六つ上……)


(……シャガルは1000を生きる……)


(……いや、あれは参考にならない……)


 


(……若い方が……いいのか……?)


 


思考が、さらに沈む。


 


(……いや……待て……)


(むしろ……)


(……ぽっちゃり……?)


 


(……そういう趣向……?)


 


(……太るか?)


 


(……いや……そんな醜態をレイラ様に晒すなど……)


 


思考、迷走。


 


その時――


 


レイラ

「……ヤヒロに聞いてみるか……」


(おすすめの握り飯の具)


 


――ガァァァァァァン


 


(……ヤヒロ?!)


 


(あいつはまだ15……!)


 


(レイラ様……やはり……)


(若い方が……)


 


決定打。


 


さらに――


 


「そろそろ……受け入れなくてはな……」


(煌龍国との海魚の交易)


 


――ガァァァァァァン


 


(…………)


 


(決定的だ……)


 


(……いや……だが……)


(……しかし……)


 


(……三人目の夫など……)


 


一拍。


 


(……誰が相手だろうと……)


 


(……許さない……)


 


静かに、壊れていく。


 


 


耐えきれず――


 


そっと、部屋を出た。


 


――――――――――――


夕方。


カァ、カァ、と烏の鳴く声。


庭。

長椅子。


 


「…………はぁ」


「…………はぁ」


 


 ため息が、重なる。


 


「……なんだ、貴様か」


「…………………………」


 


 互いに視線を合わせることなく、

 自然と隣に腰を下ろす。


 


「余らは……ダメな夫だ……」


「……あぁ……」


 


 奇妙な共感が、そこにあった。


 


「余は……何かしたか……?」


「……俺も……思い当たる節が……」


 


 ※ない。


 


 沈黙。


 


 やがて――


 


「……“飽きた”と……仰っていました……」


 


「……っ」


 


 シャガルの肩が、わずかに揺れる。


 


「……“違う方がいい”とも……」


 


「………………」


 


 致命傷。


 


「余は……千年生きておるが……」


「……飽きられたのは……初めてだ……」


 


「………………」


 


 重い。


 


「……どうすればよい」


 


「……刺激……でしょうか……」


 


「いや……これ以上、どう刺激すればよいのだ……」


 


「……俺も……毎回、全力のつもりです……」


 


「余もだ……惰性などではない……」


 


 沈黙。


 


「……くそ」


「……くそ」


 


 綺麗にハモる。


 


テュエル

「脂が乗っている方がいいとも――」


シャガル

「……っ……!」


 


「…………」


「…………」


 


テュエル

「……太った醜い自分など……耐えられない……」


シャガル

「……若くなりたいと思ったのは初めてだ……」


 


「……はぁ」


「……はぁ」


 


 完全に、迷子だった。


 


――その時。


 


「……なんだ、こんなところにいたのか」


 


 二人の肩が、同時に跳ねる。


 


「……レイラ」


「……レイラ様」


 


 振り返る。


 


 そこに、レイラが立っていた。


 


「……あ」


 


 二人、固まる。


 


「……思い出した」


 


 空気が張り詰める。


 


 そして――


 


「……シャガル」


 


「……お前は、なんで大鎌なんだ?」


 


 ――沈黙。


 


シャガル

「…………は?」


 


テュエル

「…………え?」


 


 思考、完全停止。


 


「いや……なんとなく気になってな」


「鬼といえば棍棒、という印象が強いだろう?」


「だからだ」


 


「………………」


「………………」


 


 二人、ゆっくりと顔を見合わせる。


 


テュエル

「……え、レイラ様……ここ数日の“あれは”、まさか……」


 


レイラ

「……?あれとはなんだ……?」



テュエル

「…悩み事があるのでは?」



レイラ

「……別に、悩み事などないが……?」


 


 ――フリーズ。


 


 一拍。


 二拍。


 


シャガル

「で、では……涙ながらに“潮時か”と……」


 


レイラ

「……?」

(……泣いていたか?)


「……あぁ」


「この着物が流石にヨレてきたから、

 そろそろ替え時だと思っただけだ」


 


シャガル

「………………」


 


テュエル

「……では、“飽きた”“違う方がいい”“脂が乗っている方がいい”は……?」


 


レイラ

「……ん?」

(そんなこと言ったか?)


 


 一拍。


 


「……あぁ」


「小腹が空いてな。

 握り飯を食べようと思ったが、

 鮭は飽きてきたと思ったんだ」


「だから、たまには違う具がいいし、

 ヤヒロに聞いてみようかな、と」


 


テュエル

「……で、では……脂が……」


 


 にやり、と口角を上げる。


 すっと、人差し指を立てる。


 


レイラ

「鯖だな」


 


 一拍。


 


「やはり、脂の乗った鯖は外せないと思ってな」


 


テュエル

「…………」


 


シャガル

「…………」




テュエル

「では……、“受け入れる”というのも……?」


 


レイラ

「……あぁ」


 


「煌龍国からの海魚の交易を、

 そろそろ本格的に受け入れるべきかと考えていただけだ」




テュエル

「…………」


 


シャガル

「…………」


 


レイラ

「…………?」


 


 


 二人――


 


 安堵。


 


 そして同時に、


 


 “とんでもないものに振り回されていた”事実により、


 


 精神が死ぬ。


 


 


シャガル

「……余は……棍棒でもよい……」


 


テュエル

「……俺も……努力いたします……」


 


 ※まだ引きずっている


 


レイラ

「……?」


 


 ただ一人、




 本気で意味が分かっていなかった。

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