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33.何かの、間違いということはない?




「何かの、間違いということはない?」


 マダムは、そうであってほしい、と願うかのように言った。

 しかしすぐ、自分自身の言葉を否定するように、かぶりを振った。


「いいえ。

 そうね。

 きっと、そうだったんだわ。」


 マダムは、艶めく複眼をふと伏せると、力が抜けたように、ソファに腰を下ろした。

 少し体を斜めに傾けて、大きな羽根が背もたれにあたらないように座るマダムを、改めてわたしは見つめた。


 マダムは、やはり、あの森で出会った蛾とは少し違っていた。


 マダムの羽根は、普段は閉じていて、正面からは見えない。

 しかし、白い蛾の羽根は、向かい合ったとき、マントのように体の横に広がっていた。

 それ以外にも、細くすっと伸びた触覚や、目の感じなども、あの蛾とは違う。


 しかし、それでも、二人の間には、似ているところの方が多いような気がした。

 同じ鱗翅類の昆虫なので、当然かもしれないが。


 一体どうして、みんな、こんなに激しく拒否反応を示すのだろう。


「その子、どんな子だった?」


 マダムの問いに、わたしは口元に手をやった。


「えっと。

 上手く言えないですけど、真っ白で、ふわふわしてました。

 目が黒くて、触覚も黒っぽくて、こう、ふわふわっと、毛がはえたみたいになってて。」


 自分で言いながら、本当に上手く言えていないなとは思った。

 だが、アルマジロが、心の底から珍妙なものを見る目つきでこちらを見てくるのは、イラッとした。

 思いきりアルマジロを睨みつける私に、マダムが呆れたように笑う。


「そうなのね。

 それだけじゃ、はっきりわからないけど。

 カイコガか、なにかかしらねぇ。

 それで、その子、何か言っていなかったかしら?

 例えば、蝶の悪口とか。」


 悪口?

 首をひねりつつ、記憶をたどる。


「何のことかは、よく分からなかったんですけど。

 確か、あの齧歯類、とか、うざったい派手な女、とか言ってました。」


 答えた後で、ようやく気がついた。

 そういえば、あの森にいた齧歯類も、女も、一人ずつしかいない。

 というか、なぜ今の今まで気づかなかったのだ。

 相当頭がぼんやりしていたとしか思えない。


 おそるおそる見回すと、小リスとマダムの顔にかかる影が、一段濃くなっていた。


「ご、ごめんなさい!

 あ、あと、確か!

 今日は運がよかったって、言ってました!

 様子見だけのつもりだったけど、いい話がいっぱい聞けたって!」


 そうだ、そうだった。

 やっと、理解できた。

 あの蛾は、おそらく、敵方のスパイだったのだ。

 今ここに集っている、愉快な反政府組織の仲間たちの様子を探りにやってきていたのだろう。

 そして彼らの密談は、ばっちり聞かれてしまったわけだ。

 今ごろあの蛾は、手に入れた情報を、嬉々としながら上司に報告しているかもしれない。


「そうか……。

 あーあ。」


 小リスが、頭を抱えてしまった。

 どこからともなく木の実を取り出し、わたしのベッドの足元に座りこむと、がりがり齧りはじめる。


 ちょっと、いいのだろうか。

 ベッドに木の実のくずをこぼしたりしたら、叱られるのではないか。

 ちらりとマダムの顔を見たが、幸い、気分を害した様子はなかった。

 ただ、じっと何かを考えこんでいるようだ。


「ねえ。

 あなた、いつから森にいたの?

 あなたが行った時には、もうその蛾がいたのかしら?」


「え?

 えーと。

 たぶん、そうだと思います。

 わたし、寝たと思ったら、落ちて行く感じがして。

 急に、その蛾にぶつかったんです。

 何してるんだ、どんくさい、どこの所属だって怒られたので。

 多分、先にいたのは、向こうのはずです。」


「まあ、そうなの?

 それから、わたしたちが来た、ってわけなのね。」


「はい。

 最初、誰が来たのかわからなかったので、隠れようと思いました。

 でも、隠れられる場所がなくて慌ててたら、その蛾が木の上まで連れて行ってくれたんです。」


「その子、いつ帰ったの?」


「皆さんが帰ってから、しばらくしてからですね。

 確実に誰もいなくなるのを待ってから、どこかに飛んで行っちゃいました。

 上司に報告するから、って。

 あ、ちなみに、自分の手柄だから、わたしは黙っとけって言ってました。」


 どういうわけか、蛾はわたしを、仲間のスパイだと勘違いしているようだった。

 仲間同士でも顔を知らないなんて、スパイとしてそれでいいのか、と思ってしまうが。

 そう考えると、わたしは勘違いしてもらえて命拾いしたのかもしれない。

 反政府組織の一員だと思われていたら、最悪消されるまでありそうだ。


 ぞっとしながら肩をすくめていると、くっ、と笑い声が聞こえた。

 カタツムリが、にゅるにゅると波うつ口を押さえている。


「こりゃ、傑作だな。

 まさか、血眼になって探してるはずの勇者に、気がつかないとは。」


「笑っている場合ではなくてよ。」


 マダムがたしなめるが、マダムの顔も少し笑っている。


「さて。

 色々と、説明する必要がありそうね。

 どうかしら。

 お茶でも飲みましょうか?」


「よかったら、俺がお淹れしますよ。」


 カタツムリがソファからおり、部屋のすみのバーカウンターへと向かった。

 それにしても、すごく豪華な部屋だ。


「ありがとう。」


 ミステリアスなマダムの微笑みとともに、丑三つ時のお茶会が始まったのだった。


 そして、かれこれ半刻後。


「えーと、つまり……。」


 わたしは、半分白目を剥きながら、マダムから聞いた話を整理していた。


 全ては理解しきれなかったが、三行でまとめると。


 1. 蛾は、裏切り者であり、敵。

 2. 政府は腐敗しきっており、打倒する必要がある。

 3. 勇者とは、蛾と政府によって作られ、選定された、いけにえ。




次回の更新は、2月1日の予定です。

ここまでお読みくださり、本当にありがとうございます!

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