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31.アンタ、ほんと、なんなの?




「アンタ、ほんと、なんなの?

 信じられない!」


 すっかり小リスたちの気配が遠ざかってから、さらに五分ほどが経ったころだった。

 苛立ったような声とともに、蛾は急に、わたしを抑えつけていた手を離した。

 あわてて、目の前の木の枝にしがみつく。


 忘れかけていたが、ここはそれなりに高い木の上なのだ。

 落ちたら、無傷ではすまないだろう。


 そういえば、どうやってここから降りればいいのだろうか?

 やっぱり、自分で頑張るしかないのだろうか。


 不安と期待をこめて、そろそろと蛾を振り返る。

 多分わたしは、よほど情けない顔をしていたのだろう。

 綺麗な蛾は、わたしの顔を見るなり、巨大なため息をついた。


()()()()()()()、信じられない。」


 きれいな蛾は、もう一度繰り返した。

 多分、すごく大事なことだからなのだろう。

 だが、これが現実なのだ。

 どうか、信じてもらいたい。


「あなたこそ、どうしてわたしを助けてくれたんですか?」


 質問すると、蛾はびっくりしたように、白くふわふわした羽根を震わせた。


「な、なによ。

 アンタ、しゃべれたの。

 しゃべれるんだったら、もっと早くそう言いなさいよ。」


 そう言えば、わたしはこの蛾の前で、一言も言葉を発していなかった。


「ちょっと、ぼんやりしてて。」


 多分、寝起き?だったせいだと思うのだが。


「それは、見れば分かるわよ。」


 蛾は、わたしの言い訳を、容赦なく切って捨てた。

 それから、情けない格好で枝にしがみついているわたしを、ためつすがめつ、観察した。

 わたしとしては、できればもう少しましな姿を観察してほしかったのだが、文句を差しはさむ隙はなかった。


「分からないのは、よ。

 なんでアンタみたいなのが、ここまで潜入できちゃったかなのよ。

 あ、訂正しておくわね。

 別にアンタのこと、助けようと思ってやったわけじゃないから。

 話の邪魔をされないように、隠しただけ。

 せっかく、運よくあの齧歯類が来たのに、アンタが見つかっちゃったら警戒されて話が聞けなくなるじゃない。

 今日は、本当に運がよかったのよ。

 様子見だけのつもりだったのに、いい話が仕入れられたわ。

 あのうざったい派手な女もいたし。

 唯一の不運は、アンタみたいなやつに出くわしたことだけど、まあ、トータルすればとんとんってとこね。」


 蛾は、それだけを一息にしゃべると、ふう、と息をついた。


「まあ、そういうわけよ。

 今日の話は、わたしのお手柄なんだから。

 アンタも依存はないでしょ?」


「はい。

 ありません。」


 わたしは大人しく首を縦に振った。

 それでとりあえず、蛾は満足したようだった。


「いいわ。

 それじゃ、今日のことを上に報告するのは、わたし。

 アンタは黙ってるのよ。

 いいわね?」


 ぴんと立てた指を、目と目の間に突きつけられる。

 わたしは黙ったまま、こくりと頷いた。


「さて。

 それじゃ解散ね。

 せいぜい気をつけて帰るのよ。」


 機嫌よくそれだけを言い捨てて、蛾はとんとんと脚で木の枝をたたくと、ふわりと優雅に飛び立った。

 眩しく輝く白い姿は、あっという間に木々の間に見えなくなった。

 残ったのは、きらきらと青い空に輝く白い鱗粉ばかりだ。


 ——えーと。

 この流れだと、つまり。

 やっぱり、自力で降りないといけないってことだよね?


 遠い目をした時だった。


「ユーシャ。」


 誰かがわたしを呼んだ。

 多分だが、小リスの声だ。


 さっきまで話を盗み聞きしていた後ろめたさからだろうか。

 動揺が、足にきてしまったようだった。


「あっ?

 ああああああああ!」


 ご想像どおり、わたしは、落下した。


 がさ! ばきばきっ、ぼきっ!と、木の葉が、枝が、体じゅうにぶつかる音がする。

 考えうる限り、一番良くない降り方をしてしまったようだ。

 来たるべき痛みに備え、思い切り目をつぶった時だった。


「ちょっと。

 ユーシャ。

 ユーシャってば。

 起きてるんでしょ?」


 苛立ったような小リスの声が、すぐ耳もとで響いた。

 同時に、ものすごい力で上下のまぶたを引っ張られる。


「ちょ!

 やめて!

 ちょ!

 痛い!」


 あと、眩しい。


 ばたばたと足をばたつかせながら、顔にはりついた何者かを引っぺがす。

 涙のにじむ目を開けると、恨めしげにこちらをにらむ小リスと目が合った。

 やはり、お前だったか。


「うすうす、そうかなあと思ってはいたけど。

 なんで?」


 ふわふわのしっぽをわたしに掴まれ、ぶらぶらと宙に揺れている小リスの背後に見えるのは、寝る前に消し忘れたナイトテーブルの明かりだ。

 眩しいと思ったのは、これだったのだ。


 小リスを引っ掴んだまま、ナイトテーブルの明かりを消すと、小リスがばたばたと足をばたつかせた。


「だめだったら!

 ユーシャ、起きて、起きて!

 大変なんだから!」


「何が?

 何の話?」


 思わず小リスから手を離し、両手で耳をふさぐ。

 小リスはひらりとわたしから逃れたあと、再びぱちりとテーブルの明かりをつけた。


「くせものだよ。

 くせものが、来たみたいなんだ!

 ユーシャ、なにか、見なかった?」


 ——えーと。


 見たといえば見たし、見なかったといえば見なかったような気もするのだが。

 あれは、現実だったのだろうか。

 それとも、ただの夢だろうか。

 わたしは、一体なんと答えるべきなのだろうか?


 わたしは、痛む頭をおさえた。





次回の更新は、20日の予定です。

ここまでお読みくださり、本当にありがとうございます!

寒い毎日が続きますので、お体お大事にしてくださいね。

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