25.正直言って、あそこまで興奮したのは、初めての経験だったからだと思っていた。
正直言って、あそこまで興奮したのは、初めての経験だったからだと思っていた。
しかし、甘かった。
例え二度目であっても、もじゃもじゃは一筋縄でいくような相手ではなかった。
なにしろ、数が、ものすごい。
まるで空が、ちょっとした雨雲に覆われたようだった。
そこから、雨あられのごとく、バレーボールくらいのもじゃもじゃが次々と降り注いでくるのだ。
洗うよりも先に、うまくよけたり、受け止めたりする必要があった。
「ぬお! ぬおお! ぬううっ!」
アルマジロは、受け止めることを選択したようだった。
その丸っこい体に似つかわしくないフットワークの軽さで、素早く宙に拳を突き出し続ける。
その拳に触れるたび、じゅっ、と音でもしそうな速さで、黒いもじゃもじゃが蒸発するように消えていった。
後に残った、白くふわふわしたかたまりは、そのままぱしゃんと湖に落ちては、ぷかぷかと浮かんでいる。
「おっと。こりゃ! なかなか、大変だな!」
カタツムリは、臨機応変に対応していた。
二本の触手を巧みに使い、降ってくるもじゃもじゃを、ある時は受け止めて洗い、ある時はよけて水に落としてから洗ったりしている。
初めてとは思えないような、危なげない動きだ。
さっきの殻での高速移動といい、このカタツムリは、どうもただのカフェのマスターではなさそうだった。
「あら! まあ! すごいわ!」
マダムは、マイペースに楽しんでいるようだが、さすがの貫禄を見せつけていた。
わたしの肩に手を回しながら、優雅にその羽根をはためかせると、近くに降り注ぐもじゃもじゃが、いっせいに白くなってゆくのだ。
まるで殺虫剤の噴霧器か何かのようだ。
——彼女自身が虫なので、微妙な例えかもしれないが。
「……、……。」
そして、マダムの斜め後ろ上。
つまり、わたしの背後を飛び回りながら、黙々ともじゃもじゃを処理しているのは、ようやく正気を取り戻したらしいクワガタムシだ。
正気と言っても、相変わらず目つきはサイコっぽい。
しかし、彼のクワにも手にも迷いはなく、迅速かつ確実にターゲットを処理していくさまは、見ていてほれぼれするほどだ。
空の上では、ようやく穴が開きはじめた雲の真ん中あたりで、青い鳥がぐるぐると旋回している。
「すばらしい! すばらしい!
さあ、行け! 行くのだ!」
高らかに響く美しいバリトンボイスに操られるように、もじゃもじゃたちは、我先にと湖へ降下してくるのだった。
そして、肝心のわたしはといえば。
皆の獅子奮迅の働きの隣で申し訳ないのだが、とても自分には無理だと早々にあきらめ、サポートに徹していた。
お前が勇者だろと思われるかもしれない。
だが、考えてもみてほしい。バレーボール大のもじゃもじゃを受け止めるのも、よけるのも、脆弱なわたしには荷が重すぎる。
命中したら、最悪また死ぬ。
せっかくさっき帰してもらったのに、すぐ死に戻ったら、今度こそキャラ変した黒い鳥にボコボコにしばかれてしまうではないか。
幸い、洗浄成分?の補給のために、皆がわたしを囲むようなフォーメーションになっている。
マダムに至っては、私の首に巻き付いているので、わたしは遠慮なく皆の影に隠れては、ちまちまと白いバレーボールのような元もじゃもじゃの仕上げ磨きをしていた。
元もじゃもじゃは、どうやら何かの鳥のようだった。
冬毛のライチョウのように、白くて丸っこい。
そのフォルムだけでもぐっとくるかわいさだが、脚に生えているふわふわの毛が、スカウターが爆散するレベルでかわいい。
皆、ざっと洗われて正気に戻った後は、ちゃんと流れを理解してくれて、順番にわたしの方へと泳いできてくれる。
そんな、かわいい上にかしこい鳥を撫でまわし、真っ白く、ふわふわ、つやつやに輝かせるのは、この世に存在しうる最高のご褒美だった。
この仕事なら、続けられる。
わたしたちは、何かに取り憑かれたように、ひたすら鳥を洗い続けたのだった。
次回は30日に更新予定です。
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