14.肉コーナーというより独立した精肉店という趣の
肉コーナーというより独立した精肉店という趣の、こぢんまりした店舗の扉は、スイングドア、というのだったか、よく西部劇の酒場に出てくるような、前と後ろにびよんびよんと揺れるタイプのドアになっていた。
中から、おそらく惣菜を調理しているのであろう、おいしそうな香りが漂い出てくる。先頭のカタツムリがびよんびよんとドアを揺らすと、取りつけられた小さな鈴がりんりんと鳴った。
「……らっしゃい。」
わたしとアルマジロもびよんびよん、りんりんと中に入ったのだが、その音にかき消されそうな、ぼそぼそした声が聞こえた気がした。
「なんだ? お前、なんか言ったかぁ?」
アルマジロが、小首をかしげる。
「ううん、違うよ。お店の人だと思うけど。」
「でも、誰もいねえよ。」
「えっ、そんなことないと思うけどな。」
店内は、割と近代的で整然としている。白いつるりとした壁に、天井。床は、新鮮な肉のようなサーモン・ピンクとオレンジとの市松模様になっている。入ってすぐのところに、細長いガラスの陳列カウンターがあり、その後ろはガラスの壁で区切られた作業スペースになっていた。
作業スペースの奥には、業務用の大きなコンロに広い流し台、巨大な冷蔵庫らしきものが並んでいる。コンロには、鍋が火にかけられており、この状態で誰もいないことは安全管理上ありえないと思われた。
そもそも、確かに声が聞こえたのだが。
きょろきょろとあたりを見回してみたが、確かにアルマジロの言う通り、店員らしき生き物の姿は見えなかった。
「おかしいな。確かにさっき、いらっしゃいませって聞こえたんだけどな。」
「まあまあ、どれにするか決まったら呼べばいい。とりあえず肉選べよ、肉。ほら、人間はどの肉が好きなんだ?」
何だか、そんなふうに言われると、ちょっと困る。ここでわたしが選んだ肉が、「これが人間の好きな肉」としてインプットされるのかと思うと、何だかよく分からないが、謎のプレッシャーを感じるのだ。
「えーとですね、あくまでわたしの好みなんですけどね。」
無意味な予防線を張りつつ、改めて陳列カウンターに並べられた肉をざっと眺める。
どうやらこの店の店員は几帳面な人物らしく、肉はきちんと分類され、並べられているようだった。
同じ動物の肉は一つのエリアにまとめられ、部位や大きさ別に分けられている。
ぱっと見たところでは、下の段に行くほど肉の塊が大きい気がする。一番上の段には、内蔵っぽいものや挽かれたもの、すき焼き肉のように薄くスライスされたものが並んでいた。
レジのわきの常温陳列エリアには、惣菜が並べられている。コロッケのような揚げ物からハンバーグ、ローストビーフっぽいものやサラダまであって、なかなかバリエーション豊かだ。
「これ、おいしそう。」
ついつい惣菜コーナーへと足が向いてしまう。
今気づいたが、わたしは結構おなかがすいているようだった。いかにも高級そうな霜降り肉もいいが、今現在おいしそうな香りを漂わせている食べ物に、どうしようもなく心が惹かれてしまう。
「おう、それがいいのか? 牛肉入りコロッケ、揚げたてか。ほとんどじゃがいもと小麦でできてるけど、大丈夫か?」
「はい。じゃがいもも小麦も大好きなんで。」
ついでに言うと他にも大好きな食べ物は色々あるのだが、まあそれはいい。
ここの牛も立ってしゃべるのかな、などととりとめのないことを考えていると、カタツムリがにゅるにゅると触手を伸ばし、カウンターに置いてあったベルを鳴らした。
「ごめんくださーい!」
カタツムリが声をかけると、陳列カウンターの後ろから、店員らしき影がそろそろと姿を現した。
「……っーい、まいど、ありがとうござ、っす……、」
消え入りそうな声でぼそぼそとしゃべるのは、巨大な鳥に似た生き物だった。黄色とオレンジが混ざり合ったような、派手な色の羽毛に覆われた頭の上には、サーモン・ピンクの帽子がちょこんと乗っかっている。
やはり派手な黄色の瞳が、怯えたように瞬いた。
「お、おお。なんだよ、そこにいたのか。」
アルマジロが、面食らったように頭をかく。
「久しぶりだな。ちょっと今日は、来客があったもんでな。牛肉コロッケ五つ、頼む。」
「……い。サイン、お願いします。」
カタツムリは、この店員は初めてではないようで、特に驚いた様子もなく、淡々と伝票にサインをする。
派手な鳥のような生き物は、コロッケを入れた紙袋を、さらにビニール袋に入れ、カウンター越しに手渡してくれた。
「あ、ありがとうございます。」
受け取るときに、あれと思った。
手に、鋭いかぎ爪がある。というか、鳥っぽいのに手がある。
そういえば、ぼそぼそ喋るのでわかりにくいが、嘴の中には、鋭く尖った歯がびっしりと生えているようだ。
この生き物は、一体、何なのだろうか?
コロッケを手に、びよんびよん、りんりんと店を出る。
「あいつ、見た目はああだけど、悪い奴じゃないから。仲良くしとくといいと思うぜ。」
カタツムリは、にっこり笑う。
「あ、ありがとうございます。」
ふと、不思議になった。
このカタツムリはどうして、ここまでわたしに親切にしてくれるのだろう?
勇者だからだろうか。
でも、わたしが勇者だったからと言って、カタツムリに得になることなど、なにもなさそうだと思うのだが。
「よし、それじゃ次は、と。」
何かを思案しながら進むカタツムリに、ついて歩きながら、わたしは、やはりここに来た経緯について、カタツムリに話しておこうと考えた。
次の更新は、31日の予定です。
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