第三章5『家出』
八月十八日二十時 佐藤陸
美咲を強引に連れて家を飛び出てから、早数時間。途方に暮れていた。
――もう夜だ。泊まる場所がない。どうしよう。
ふと美咲を見ると、疲れが見える。
「美咲、大丈夫かい? 少し休むかい?」
「陸さん、大丈夫」
乾いた笑顔で美咲は言う。
――美咲は疲弊してる。休める場所を探すしかない。でも、この町には、ホテルなんてない。
疲れきった頭で、考える。
頭が痛くなり、落ち着くために、深呼吸をする。
夏の、草の、泥の匂いが鼻をかすめる。
刹那、昔の記憶が頭に流れ込んでくる。紗良が生きていた頃の記憶。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
『陸、疲れたね』
「……うん」
草の匂いが仄かにするあぜ道を歩いていた。陽はとっくの昔に沈んでおり、微かな月明かりを頼りに牛のように歩んでいた。
『お腹空いた、眠い、疲れた』
「文句言うなよ、紗良が言ったんだろ。家出しようって」
『――ん。だって……』
紗良はあからさまに不服がある態度を顔に出す。
――我儘で、思った事や感じた事がすぐ顔に出る。そんな所が可愛いのだが。
「はいはい、分かったよ」
『もう、適当なんだから』
軽口を叩きながら歩く。歩く。歩く。
――もう限界が近い。いつ紗良が駄々をこねるか分からない。早めに休める場所を探さなくちゃ。
疲れた脳を働かせる。
ふと後ろから物音がした。振り向くと、紗良が座り込んでいた。
「紗良! 大丈夫か?」
『もう限界……。歩けない』
紗良が生気の感じない顔で言う。
「少し休むか」
僕も腰を下ろし、紗良の背中に寄り添う。
「紗良、訊いてなかったけど、なんで家出したの?」
『……答えなくない』
「そうか」
これ以降、僕達が言葉を交わすことはなかった。
それから一時間も経たない内に、警察に保護され、僕達は親にこっぴどく叱られた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
――そうだ、紗良の家だ。近くにあったはずだ。
僕は、美咲の手を引き、方向転換をして、歩き始めた。
「え、どこ行くの。陸さん」
「近くに知り合いの家があるんだ。そこに向かおう」
蝉の鳴き声をBGMに僕達は歩いた。




