第三章2『壊れた関係』
七月七日十二時 西宮菜々美
蝉の音が昼休みなのに閑散とした教室に響く。
いつもは教室で昼御飯を食べている生徒がいるのに、今日に限ってぽつぽつとしかいない。まぁ、静かな方が好きなんだけど。
ふと冷たい感触がうなじからする。突然な事だったので「ひゃぁ」と情けない声を出した。
振り向くと、悠誠がキンキンに冷えたジュースを私のうなじに当てながら「ひひっ」と笑っていた。
「は?」と悠誠を睨むと、悠誠は蛇に睨まれた蛙のように縮こまった。
悠誠はさも当たり前かの様に横の席に座り、本を読みながら、菓子パンを食べていた。
その本、漫画かな。小説かな。気になる。
「なんで最近一緒にご飯食べてくれるの? 悠誠」
私がそう訊くと悠誠は一瞥せずに答えた。
「ぼっちだと悲しいじゃん。だってお友達、彼氏出来たからってお前の事放置なんだろ?」
痛い所を突かれ、ぐうの音も出ず、悠誠をぽこぽこと軽く叩いた。
叩いても、悠誠は何一つ気にせずに本に没頭していた。
私はそんな悠誠の横顔を見ながらあの日のことを思い出していた。
――――――――――――――――――
寒い。寒い。寒い。
短いスカートのせいで晒している素足が冷たい。これだから冬は嫌いだ。
そうぼやきながら学校を目指して、歩いた。
学校に着き、教室へ入ると、結と葵が私の机の周りで待っていた。
私は早足で机へと向かい、二人に抱きつく。
「おはよ! 結! 葵!」
元気よく笑顔でそう言った。
「おはよ!」
「菜々美おっはー!」
すると、二人とも元気よく返してくれた。
嬉しさの余り、表情筋が緩むのを感じる。
二人とも大好き。一生一緒に生きていたい。キスしてやりたい。それも深いヤツ。
――キモイ。
我ながらキモイ。キモすぎる。
そんな事を事を考えながら、二人の心地の良い肉付きをした体を堪能していた。
柔らかい。ぷにぷにしてる。可愛い。
「何してるの、菜々美。なんかむず痒い」
「あはははは」
私は笑って誤魔化しながら、二人を解放した。
そして二人の顔を見る。
――薄い。化粧が薄い。なんでだろう。
手を顎に当て、馬鹿な脳で考える。
――うーん、分からない。
そう結論付け、思考を放棄する。
そんな事をしていると、茶髪でピアスを開けた――まるで校則違反を体現した男子が私の前に来る。
正確に言うと、私ではなく、葵の前にだ。
「葵、今日帰りどこ行く?」
男子は葵にそう言った。
なんだこいつ。葵の彼氏か?
「パフェ食べに行こ! 祐介!」
葵は少し顔を赤らめながら返答した。
私と結は話についていけず、ぽかんとした表情で二人を眺める。
なんだ彼氏か。――彼氏!?
理解する。即座に脳から吐き出す。
理解したくない。
葵に彼氏が出来ていたなんて。
結は分からないが、少なくとも私は葵に彼氏が出来た事を聞いてない。
悲しい。悔しい。虚しい。
色々な感情が頭の中で回る。――ぐるぐる、ぐるぐると。
「どうしたの? 菜々美」
どうやら、結に見られていたらしい。
恥ずかしい。体が熱い。
教室の温度は寒いのに、自分の体だけが熱くなっていく。脳がバクりそうだ。
そんなことを考えながら、葵と葵の彼氏をみつめていた。
「菜々美! 私達は非リア同盟結ぼ!」
「うん! 結!」
「菜々美、裏切らないでよね!」
結と非リア同盟を結んだ。
私はそれを信じてた。これからも非リア同士仲良くすると。
――だがそんなのはただの上っ面の口約束だった。
数日後、結には彼氏が出来て、私だけが取り残された。
私はこの時、再び痛感した。
人は簡単に変わってしまうことを。
*
「――い。おい! 菜々美」
「はうっ」
ぼーっとしていると悠誠が私のことを呼んでいた。
急に大きな声を出すものだから、変な声が出た。恥ずかしい。
「な、何」
「心ここに在らずだったからさ。心配で声掛けちゃった」
「そうなんだ。ごめん」
悠誠がかっこよく見えた。見えただけだ。そうだ。絶対。
少しずつ、悠誠に依存していくのを感じる。
愛して欲しい。この心を満たすくらいに。




