097 剣神ジョウセン
雪女のユキに右手首を斬られた酔っ払い冒険者の仲間達は、武器を持ちユキに迫る。
ユキとエリの周りで驚く冒険者達をかき分けてユキの前に立つ。
「おい、仲間に何しやがる!」
ユキは蹲る男をチラ見した後、目の前の男を眺める。
「女子にナイフを突き付けて、無理矢理言う事を聞かせる様な外道の仲間でありんすか?この男にも言いんしたが、武器を出したら、殺されても文句は言えんせんよ。」
「舐めた事言いやがって、冒険者はやられたままでは引き下がれんのじゃ。覚悟しろ!」
男は剣を振り上げる。
ユキは炎の魔剣を横に移動していた。
剣を振り上げた男は、それ以降動かなかった。
そして・・・。
首が落ちた。
糸が切れた様に身体が崩れ落ちる。
「きゃああああああ」
周りを囲んだ冒険者の女性が悲鳴を上げる。
「おいおい、ギルドでの殺傷沙汰は厳罰だぞ。俺はBランク冒険者の『剣神』ジョウセンだ。拘束させて貰おう。大人しくしな。」
人をかき分けてもう一人の冒険者が前に出て来て威圧を放つ。
二つ名『剣神』の冒険者はかなり有名だったのか、周りを囲んでいる冒険者達は安堵の表情だ。
「そんな事は知りんせんが、どの国でも武器を出して襲ったら文句は言えんせん。」
男の威圧を受け流し、ユキは自然体で答える。
「女子が襲われてるのに、誰も助けない方がおかしいじゃろぅ。」
エリも男に不満を言う。
「冒険者同士の喧嘩は不干渉が原則だ。」
「わちきは冒険者ではありんせん。冒険者は民を助け、魔物を倒す職業と聞いて、登録しようと思って来んしたが、冒険者は破落戸でありんした。残念でありんすえ。」
「冒険者じゃ無いのか、尚更このままでは済ませられんな。」
『剣神』ジョウセンの隣にいた冒険者は、背中に背負っていた大剣を抜く。
「俺はお前に殺された『銀狼の剣』のセヴァの仲間ターチルだ。仲間の仇を討たせて貰う。」
セヴァが殺されてビビっていたが、ジョウセンが参加して気が大きくなったのか、急にやる気を見せ始めた。
「皆!怖じ気付いてんじゃねえぞ。仲間が殺されて黙って見てるのか、こんな魔力の少ない女二人に、舐められたままで冒険者を名乗れるのか!やっちまおうぜ!」
ターチルの叫びに数人の冒険者は武器を構えた。
ユキは溜息を吐く。
「はぁ。魔力を抑えるのが当たり前。そんな事も分から無いでありんすか。」
「そんな事も知らないポンコツ共は、大人しく尻尾を丸めて震えてれば良いのじゃ。」
「何!死ねええええ!」
ターチルは大剣を振りかぶる。
「ちょっ、待て・・・。」
『剣神』ジョウセンが止めようとしたが、時既に遅し。
ユキは炎の魔剣を握っていない左手の手の平を開いてターチルに向けた。
瞬間、膨大な魔力が男達を包む。
ターチルと武器を構えていた数人の冒険者達は、氷柱に覆われて、ビデオの静止ボタンを押された様に、不自然な体勢で動きが止まっていた。
「な、何をした!む、無詠唱の氷魔法か?」
驚愕の『剣神』ジョウセン。




