098 【殺戮のギルド】十二神将も凍りつく!花魁雪女とエルフ、冒険者たちを完全蹂躙
■ギルドの沈黙、そして頂点との対峙
ギルド内に、異常な静寂が満ちていた。床には切断された腕が転がり、鮮血が床板を染め上げる。男の首は無様に転がり、その背後では数人の冒険者たちが氷柱となって静止画のように固まっている。
空気が、死の冷気で凍てついていた。
「おいおい……何の騒ぎだ、ここは!」
その静寂を切り裂くように、ギルド奥の階段から重厚な足音が響いた。現れたのは、巨大な体躯を鎧に包んだ牛の獣人。その両の角は重戦車を思わせるほど太く、纏う覇気だけで周囲の空気を歪ませる。
「……マスター。」
受付の女性職員が、恐怖に顔を青ざめさせながら呟いた。彼はこの王都アルニドの冒険者ギルドマスターであり、かつてSランク冒険者として名を馳せた獣人国十二神将の一角――『牛鬼』ゴウケツ。
「……何があった! 説明しろ!」
ゴウケツの怒号が響く。先ほどまで「剣神」として威張っていたジョウセンは、冷や汗を流しながら、この絶対的な実力者の前で引きつった笑顔を浮かべることしかできない。
「マ、マスター。……こちらの女性二人に乱暴しようとした冒険者たちが、殺されました……!」
「乱暴? ……異なことを言いんすえ。」
炎の剣を背中に収め、ユキが冷ややかに言い放つ。その声音には、怒りよりも深い侮蔑の念が籠もっていた。
「わちき達は、ただの通行人でございました。それを、武器を持った男たちに囲まれ、あまつさえ刺し殺されそうになりんした。……わちきがしたのは、身を守るための正当防衛でありんすよ?」
「ふん……。詳しく聞かせてもらおう。俺はギルドマスターのゴウケツだ。あんたたち、名は?」
ゴウケツの視線がユキ、そして傍らに立つエリへと向けられる。Sランクの圧。だが、エリは怯むどころか、冷笑を浮かべて扇子で口元を隠した。
「……破落戸共に名乗る名前は無いのじゃ。貴様らのような腐った組織に、名を明かす義理など皆無よ。」
「後ろめたいことでもあるのか? ……貴様ら、ギルド内での殺傷は重罪だ。大人しく話を聞くから、2階へ来い。」
ゴウケツは傲岸不遜な態度で命じた。だが、ユキは扇子を閉じ、扇の先でギルドの惨状を指し示す。
「お断りしんす。」
「なんだと?」
「女子二人に酔っ払って絡み、断ればナイフで脅し、それでも飽き足らず集団で襲いかかる。そんな外道を擁護する貴方様のような長が率いる組織など、信用するに値しんせん。2階へ行けば、何をされるか分かったものじゃありませんえ。」
「……おい、今の話は、本当のことか?」
ゴウケツが、背後の女性受付係に鋭い視線を投げる。彼女は震えながら、小さな声で答えた。
「……はい。あの、男性冒険者たちが、先に……。」
ゴウケツの額に青筋が浮かぶ。彼は自分の管理下にいる冒険者のあまりの醜態に、怒りを露わにした。
「くっ……! 馬鹿な真似をしやがって……! ……おい、誤解だ。お詫びも兼ねる、2階へ来い。しっかりと対処させてもらう。」
「お断りしんす。帰りんしょう。」
「そうじゃな。こんなゴミ溜めに用は無いのじゃ。」
ユキとエリは、一瞥もせず出口へと背を向けた。彼女たちが歩き出すたびに、周囲を囲んでいた冒険者たちが、モーゼの海割りのように恐怖に駆られて道を譲る。
「待て!!」
ゴウケツの声が、ギルド全体を震わせる。
「人を殺しておいて、無罪放免されると思っているのか!!」
エリとユキの足が止まった。ゆっくりと振り返る必要すらない。ユキが背中越しに発する威圧感が、ギルドの壁を軋ませる。
「……人に剣を向けておいて、返り討ちに遭った者の肩を持つのでありんすか?」
ユキが振り返ると、その瞳は雪原のように冷たかった。濃厚な、あまりにも濃厚な魔力が周囲に霧となって漂い始める。ゴウケツほどの実力者でさえ、その濃密な殺気には肌が粟立つのを感じた。
「ギルド全体が妾たちの敵に回るというなら、是非も無いのじゃ。」
エリが静かに魔力を解放する。それは、かつて彼女たちが潜り抜けてきた死線の数々を物語るような、絶望的なまでの質量を持った圧力だった。
ゴウケツの額に、じわりと汗が滲む。
(……なんだ、この魔力は。ただの小娘ではない……。)
「ふん。妾たちは出て行くが、後を付けようとしたり、妾たちの不利になるような真似をしてみせろ。……その時は、このギルドごと凍てつく闇に消えてもらうぞい。肝に銘じておくのじゃ。」
エリが言い放ち、二人は優雅にギルドの扉をくぐった。
ギルドマスターのゴウケツ、剣神ジョウセン、そして呆然と立ち尽くす冒険者たち。誰もがその背中に声をかけることすらできず、ただ圧倒的な余韻に震えながら見送るしかなかった。
■闇に潜む『風』
ギルドの扉を閉め、喧騒から切り離された外の空気に触れる。
「……エリさん、お許しなんし。わちきが余計な騒ぎを起こしたばっかりに、ギルドの調査ができんようになってしもうたでありんす。」
ユキが申し訳なさそうにエリに小声で話しかける。だが、エリはクスクスと愉悦を含んだ笑みをこぼした。
「ユキ、そんなことを気にする必要は無いのじゃ。あの馬鹿どもが勝手に死にたがっただけのこと。それに……心配無用じゃぞ。」
「……と言いますと?」
エリは指を二本立て、空中で印を結ぶ。彼女の瞳が、念話の術式で光る。
「妾が念話で指示を出しておった。ギルドに入った瞬間、バズを影に解き放っておいたのじゃ。あやつは今頃、あのギルドの屋根裏で、あのゴウケツや冒険者どもの醜い密談をすべて盗み聞きしておるわ。」
「そうでありんしたか。……流石、エリさんでありんす。」
「フフッ。敵を知るには、敵の懐に入る必要もあるが……敵が一番油断している瞬間に、一番大切なものを盗み出すのが一番じゃよ。」
エリとユキは、獣人の王都アルニドの夜闇の中へと消えていく。
ギルドの奥深く。
天井の梁の上。
目に見えないほどの微風が、ゴウケツたちの密談を記録し続けていた。
『……殺シテヤル。全テハ、コノ情報収集ノタメ……』
風の精霊、魔神バズの冷徹な眼が、十二神将の一角を見下ろしている。
復讐の第一歩は、すでに始まっていたのだ。




