096 【ギルドの洗礼】花魁雪女が斬る!絡みつく酔っ払いの腕を切り捨て、冒険者たちを震撼させろ!
■冒険者ギルドの喧騒と、凍てつく殺意
獣人国の王都アルニド。その中心部に鎮座する冒険者ギルドは、外まで溢れんばかりの汗と獣臭、そして安酒の悪臭が混じり合う、荒くれ者の巣窟であった。
その重厚な扉を押し開いたのは、二人の美女だった。
『疾風』の二つ名を冠する高貴なエルフ、エリ。
そして、その隣に並ぶ人間の姿を模した雪女、ユキ。
あまりに場違いな二人の登場に、ギルド内の喧騒がスッと引く。獣人たちの野卑な眼差しが、彼女たちの肢体に集まった。だが、彼女たちにはさらなる「影」がある。魔神パズズのバズだ。バズは風と一体化し、エリの背後で気配を完璧に消し去っていた。
「ここが冒険者ギルドか……。獣人国の人間共は、随分と野蛮な面構えをしておるのじゃな」
「あら、エリ。これも旅の醍醐味でありんす。見知らぬ土地の空気に触れるのは、悪いことではありんせんよ」
ユキは扇子で口元を隠し、キョロキョロと周囲を物珍しそうに見回す。その挙動すらも、まるで遊郭を散策する花魁のように艶やかだ。
「まずは冒険者登録を済ませるのじゃ。手続きを済ませねば、この国での身分証明にもならんからな」
エリがエリ足で歩を進め、受付へと向かう。受付は三箇所あったが、どこも冒険者たちで長蛇の列を作っていた。一番列の短い受付へと並ぶ二人。
だが、その列のすぐ横には、酒場エリアが併設されていた。昼間から赤ら顔で酒を呷る冒険者たち。彼らの視線が、獲物を狙う野獣のようにエリとユキに絡みつく。
「おい……見ろよ。あそこの姉ちゃんたち、見たことねぇ顔だぞ」
「可愛い姉ちゃんが入ってきたな。おい、新人か?」
「キョロキョロしやがって……。ちょっと酌でもさせようぜ」
止せばいいのに、酒の力に支配された数人の男たちが、ニヤニヤと笑いながらユキの元へ近づいてきた。彼らはCランク冒険者パーティー『銀狼の剣』。この界隈では、多少の実力と悪名で知られる連中だ。
「おい姉ちゃん! そんなところで列に並んでねぇで、こっちで俺たちの酌をしな!」
中心にいた男が、下卑た笑みを浮かべてユキの手首を強引に掴もうとする。ユキはその手を軽やかに払い除けた。
「……止めてくんなまし。わちきは貴方様たちのような無粋な方と飲むつもりはありんせん」
「へぇ、いい度胸じゃねぇか!」
男は逆上し、今度は力任せにユキの腕を掴み、強引に酒場の方へ引っ張ろうとする。ユキは一度だけ、周りの冒険者たちを一瞥した。誰一人として止めようとしない。それどころか、面白半分に見物している。
「はぁ……」
ユキが小さく溜息を吐いた瞬間。掴まれていた右腕を、しなやかに、しかし鋭く旋回させる。相手の手首を捉え、肘関節を一点で極める関節技。
「ぐわぁぁッ!?」
男は為す術もなく崩れ落ちた。周りの冒険者たちからクスクスと失笑が漏れる。
「何ランクの冒険者か知りやせんが、二度と汚い手で触らないでくんなまし。……これ以上やると、折れるでありんすよ」
ユキの冷徹な警告に、男は顔を真っ赤にして立ち上がった。
「このあまぁあああ!!」
男は懐から錆びたナイフを引き抜き、ユキの腹部へ突きつける。ギルド内に緊張が走った。
「大人しく言うことを聞かねぇと、その腹に風穴開けるぞ……!」
男がドスの効いた声で脅す。
だが、ユキの瞳からは一切の感情が消え失せていた。
「……武器を出したでありんすね。ならば、殺されても文句は言えんせんよ」
その言葉は、まるで冬の嵐のように静かで、残酷だった。
ユキはエリへと視線を送る。(……やっても良いでありんすか?)
エリは微かに頷く。(……好きにせよ)
一瞬だった。
ユキの腰に下げられていた、ショータから譲り受けた炎の魔剣が鞘走る。いつ抜いたのか、誰にも見えない神速の居合。ユキの右手が空を切り、炎を纏った刃が逆袈裟に振り抜かれた。
「……断罪。」
男が握っていたナイフごと、その右手首が宙を舞う。
噴水のように溢れ出す鮮血。
「う、うぎゃああああああああああああああッ!!!」
男は切断された右腕を押さえ、床を転げ回って絶叫する。一瞬前まで嘲笑を浮かべていた冒険者たちは、目の前の惨劇に息を呑み、一斉に後退った。ギルドの中央に、ポッカリと真空のような空間が生まれる。
ユキは返り血一滴浴びることなく、冷ややかな瞳で倒れ伏す男を見下ろした。その背後で、男の仲間たちが異変を察知し、怒号と共に武器を抜き放つ。
「てめぇ! よくもやりやがったな!!」
四人の男たちが殺気を放ち、ユキを包囲する。だが、ユキは微動だにしない。ただ、エリが呆れたように肩をすくめ、バズがエリを護るように浮遊しただけだ。
「騒ぎを起こす気なら……皆殺しにしてやんすよ?」
王都アルニドの冒険者ギルド、その静寂を切り裂く復讐の火蓋は、今、切って落とされた。




