095 【獣人国潜入】王都アルニドの蠢きと復讐の序章!偽りの宿で研ぐ牙、冒険者ギルドへの進撃
■獣人王都アルニド――復讐の舞台へ
冒険者クラン『殲滅の旅団』の幹部を契約魔法で縛り上げ、商人ポンタ共々、道端に放置してきた。俺たちは、虐げられていた猫獣人の子・キャルを保護し、その足で獣人国の中心地である王都アルニドへと向かった。
アルニドの巨大な城壁が近づくにつれ、獣人特有の野性味溢れる熱気と、どこか殺伐とした空気が肌を刺す。ここが、ハルカの翼を奪った因縁の敵が支配する「獣人国」の本拠地だ。
俺たちは王都の喧騒に紛れ、路地裏に身を隠すと、今後の作戦について最終確認を行った。
「……まずは、徹底的な情報収集だな。ハルカの仇であるタイガ、そして『殲滅の旅団』の正確な動向を知る必要がある。……ここからは分かれて動くぞ」
俺の言葉に、全員が真剣な眼差しを向ける。
「そうじゃな。敵の本拠地、迂闊には動けん。妾は冒険者ギルドに行って、裏の動向も調べてくるのじゃ」
エリが自信ありげに頷く。『疾風』の二つ名を持つ彼女にとって、ギルドへの潜入は最も適した役割だ。
「エリは登録済みだし、適任だね。……ハルカ、ダルア。お前たちはキャルを連れて、指定した隠れ家で待機してくれ。ハルカは元冒険者だ。仇にその存在を勘づかれたら、一発でアウトだぞ」
「うぐぅ……。せっかく美味しいお店探したかったのに……。分かったよ、ショータ。お腹空くのは我慢するのじゃ!」
ハルカは恨めしそうに頬を膨らませた。彼女の安全は何よりも優先だ。仇に知られれば、間違いなく再度の魔の手が伸びてくる。
「アタシがガッチリガードするから安心して! キャルも一緒に美味しいもの食べようね~!」
ダルアがキャルを抱きしめ、ギャルらしい明るさで励ます。その横で、ふと雪女のユキが優雅に扇子を広げた。
「わちきがエリと一緒に冒険者ギルドに行きんす」
「え? ユキ、お前がギルドに?」
「この先の戦いも考えると、わちきも冒険者として登録しておくのが良さそうでありんす。それに、エリ一人では色々と面倒もありましょうから」
意外な提案に少し驚いたが、確かにユキの冷静さと花魁のような立ち回りは、ギルドという場所では武器になるかもしれない。
「なるほど、悪くないな。頼んだぞ、エリ、ユキ」
「任せるのじゃ!」
「承知しんした」
エリとユキには魔神バズを随行させることにした。バズは風の属性を纏い、気配を完全に消すことができる。護衛としてはこれ以上ない存在だ。
「俺とペロは都市の裏側を偵察してくる。街の構造と、奴らの隠れアジトを洗い出す」
「分かったにゃ! 完璧にこなしてやるにゃ!」
黒猫のペロは影に潜むのが得意だ。都市の監視網を掻い潜り、情報を集めるには最適のコンビだ。残りの護衛戦力として、ドラゴンのドラム、鵺のライヤ、空狐のクーコをダルアたちの護衛につける。これなら、何があっても万全だ。
■猫が安らぐ宿と、終わらない階段
作戦を終え、俺たちはアルニドの街並みを抜け、拠点となる宿へと向かった。宿の名は『猫が安らぐ宿』。五階建てのビルに、一階が居酒屋という、異世界にしては珍しいビジネスホテル形式の建物だ。
フロントには、猫人族の女性が座っていた。ケット・シーのペロとはまた違う、純粋な猫の耳と尻尾を持った獣人だ。
「いらっしゃいませ……」
俺はオーナーである『雷猫』ライガから託された紹介カードを差し出す。それを見た猫人の表情が一変し、慇懃無礼な態度で最上階の特別室へと案内してくれた。
……が、ここで一つ問題があった。
「エレベーター……無いのかよ……」
文明的な外観の割に、この世界にエレベーターという概念は存在しない。五階まで、ひたすら続く階段。獣人たちの脚力なら何でもない距離も、人間である俺には地獄だ。
「ふふ、ショータ、顔色が悪いっしょ。鍛え足りないんじゃない?」
「……うるさい。ダルア、お前は平気そうだな」
「獣人のスタミナ、舐めないでほしいね!」
ハルカもキャルを抱えながら、軽やかな足取りで階段を登っていく。獣人国の住民にとっては、階段なんてあってないようなものなのだろう。俺はハァハァと息を切らしながら、最上階の扉を開いた。
部屋に入ると、俺たちはすぐに作戦を再開した。階下の居酒屋で夕食を済ませ、ドラム、ライヤ、クーコを部屋の護衛として配置する。
「あー! お腹減ったよー! もっと美味しいお肉はないのー!?」
「ハルカ、さっき食べたばっかりでしょ! 少しは我慢しなよ!」
ダルアとハルカの掛け合いを聞きながら、俺はフロントで確認したリストを広げる。冒険者ギルド、ニャルマル商会、殲滅の旅団のアジト。これら全てが、明日からの戦場だ。
「よし、じゃあ行くか」
俺とペロは影に紛れ、都市の闇へと溶け出す。
エリ、ユキ、バズは堂々と冒険者ギルドの門を叩く。
それぞれの戦いが、今、始まる。
冒険者ギルドへ向かう道中、エリは迷いなく大通りを闊歩していた。その後ろを、ユキがキョロキョロと物珍しそうに街の風景を眺めながらついていく。
「獣人国も、中々面白い風景でありんすねぇ。着物の生地も、人間国とは違う織り方をしてるようで……」
「ユキ、あまり目立つと面倒なのじゃ。……それより、ギルドには『厄介な奴ら』も溜まっているだろうから、心しておけよ」
エリが不敵に笑う。彼女の瞳には、仇討ちへの静かな闘志が宿っていた。バズは目に見えない風となってエリの周囲を旋回し、気配を完封する。
一方、俺とペロは、街の路地裏を高速で移動していた。ペロは影転移を使い、まるで夜の闇そのもののように音もなく進む。
「ショータ、あそこの建物に『殲滅の旅団』の紋章があるにゃ」
「……見つけたか」
街の喧騒の裏側で、俺たちの復讐の狼煙が、静かに、だが確実に上がろうとしていた。タイガ、ディア、フィーダ、シャイラ。全ての因縁を終わらせるための、長い夜が幕を開ける。
獣人国の王都。その深淵へと、俺たちは足を踏み入れた。




