094 【死の契約と獣人の檻】虐げられし命を救い、十二神将の影に復讐の牙を研ぐ!
■魂の縛鎖と、救済の誓い
「おい、ドルダ。幾ら何でもそれはやり過ぎだ、なんて寝言は寝て言え」
俺の声は氷のように冷え切っていた。俺の背後で、ユキが静かに笑みを浮かべる。彼女の纏う殺気は、戦士たちの魂を震わせるほど鋭利だ。
「此奴らの暴言、そしてこの子に対する仕打ちを見逃してた癖に、今更口出しするな。……それから、付け加えておく。皆殺しの対象には、当然お前らも入っているからな」
ドルダたちが凍りついた。
「えっ……」
彼らの困惑など、俺には無関係だ。証拠を消す。それがこの世界で生き残るための、最低限の鉄則。
「当然だろ? 証拠隠滅するんだからな。……ユキ、拘束しておいて」
「承知しんした」
ユキの姿が、陽炎のように掻き消えた。ドルダたちが振り返るより早く、彼らの背後に冷気と共にユキが顕現する。
「な、何だこれは!?」
「あ、足が……! 動かない!」
ユキが軽く指を弾くと、一瞬で彼女たちの足元から氷が這い上がり、大地と一体化させた。彼女は炎の魔剣を優雅に抜き放ち、ドルダの喉元に切っ先を当てる。
「あら、大人しくしてくんなまし。刃は嘘をつきませんえ」
絶対零度の魔力と、炎の魔剣。その圧倒的な力の差を突きつけられ、ドルダたちは戦意を完全に喪失した。
「……ロウガ、ポンタ。まだ命が惜しいか?」
ロウガが顔を上げ、恐怖に引き攣った笑みを浮かべる。
「く、くそっ……! ポンタ! 売り物の中に契約魔法の巻物があったよな! それを使え! 俺たちを生かしてくれ!」
追い詰められた者ほど、見苦しく命乞いをするものだ。俺はため息をつきつつ、頷く。
「いいだろう。……だが、条件がある。今回の事は一切漏らさない。もし漏らせば、その魂ごと消滅する契約だ。それでもいいなら、命だけは拾わせてやる」
ポンタが震える手で巻物を取り出し、俺たちの前で契約を詠唱する。
空中に浮かび上がる魔力の刻印が、彼らの額に深く焼き付いた。
これで、彼らは俺たちの存在を口外できない。死という枷を嵌めたも同然だ。
「……この子は貰っていく。文句は無いな!」
俺はダルアが腕の中で抱きしめている、弱りきった猫獣人の子、キャルを指し指した。
ポンタは既に戦う気力を失い、ただただ小さく首を縦に振る。
「ペロ、ユキ。拘束を解いてやれ」
「分かったにゃ!」
「承知しんした」
冒険者たちの拘束が解かれ、彼らはボロボロになりながら、ヨロヨロと馬車へと戻っていく。その背中は、先ほどまでの傲慢さは欠片もなく、ただの敗残兵のそれだった。
■打倒、魔法偏重社会
「怖かったにゃ……もう大丈夫にゃよ」
保護した猫獣人の子、キャルをダルアが優しく抱きしめ、毛並みを撫で回している。ダルアは元々、ダークエルフとして迫害の歴史を肌で感じてきた。だからこそ、キャルの怯えた瞳に、自分の過去を重ねているのだろう。
「獣人は多産だけど、その分『魔抜け』と呼ばれる子の割合も無視できない数になる。……でも、生まれた瞬間から兄弟に、親に、地域社会から迫害されるなんて、あんまりじゃない?」
ダルアの言葉には、憤りと共に、痛いほどの共感が籠もっていた。俺はキャルの頭を軽く撫でる。
「うん。……助けよう。これは、この世界の歪んだ『魔法偏重社会』を叩き直す、第一歩だ」
「やったー! ありがとう、ショータ!」
ダルアは涙を流しながら、俺に抱きついてきた。俺たちの復讐は、単なる私怨から、この国の在り方を変える戦いへと昇華しつつあった。
「ところで、さっきから気になってたんだが」
俺はキャルの方を向き、核心に触れる。
「獣人国十二神将について教えてくれないか?」
キャルは震えを抑えながら、おずおずと口を開いた。
「……十二神将は、遥か昔、獅子王と共にこの獣人国を建国した十二の種族です。今は貴族として政治を牛耳っていて……」
彼女が語る名は、見知った干支の並びそのものだった。
* 鼠人族:鉄鼠
* 牛人族:牛鬼
* 虎人族:白虎 ――リーダー、タイガ。
* 兎人族:玉兎 ――ディア。
* 竜人族:青竜
* 蛇人族:玄武
* 馬人族:天馬
* 羊人族:羵羊
* 猿人族:猿神
* 鳥人族:朱雀
* 犬人族:犬神
* 猪人族:猪笹
「干支か。竜や蛇、鳥も獣人にしては異質だが……政治を担う絶対的な権力者ってわけか」
『フン、所詮は人間どもの数え歌を模しただけの猿芝居よ。俺様の眼からは、ただの臆病者どもの寄り合いに見えるがな』
ドラムが傲慢に嗤う。
「ふふ、でもこの十二神将を倒せば、獣人国の頂点に立てるわけじゃな」
エリが不敵に扇子を仰ぐ。
「我、敵ノ頂点ヲ認識シタ。即座ニ排除シ、我ガ王座ヲ確立ス。」
バズが静かに、しかし絶対的な殺意を放つ。
「敵。排除。全部。」
ライヤの言葉は短いが、その決意は岩をも砕くほどに重い。
「猫の王国の七猫みたいなもんか……。なら、一つずつ、その神将とやらを狩り尽くしてやる。まずは、タイガの首からだ」
獣人国という巨大な檻。俺たちは、その檻を壊すために来たのではない。檻そのものを食い破り、支配者たちを引きずり下ろすために来たのだ。
キャルを抱え、俺たちは獣人国の深部へと歩を進める。復讐の道は、まだ始まったばかりだ。




