091 【復讐の狼煙は血の臭いと共に】獣人国への道中に現れた仇敵!守るべき命と、ハルカを蝕む憎悪の連鎖
すいません、更新遅れました。
■獣人国への道、漂う血の予感
俺たちは獣人国を目指して、深淵なる森を突き進んでいた。俺とダルアはドラゴンのドラムの背に跨り、眼下の木々を縫うように低空飛行を続けている。俺の影には『闇猫』ペロが潜み、その頭上を舞う雪女のユキは、粉雪となって俺の纏う空気を冷やしていた。
「あー、お腹空いた! ショータ、獣人国の名物って何だろ? お肉美味しいかなぁ……じゅるり」
ハルカが空中でお腹を摩りながら呟く。復讐の旅だというのに、彼女の関心は相変わらず食に集中していた。
「食い気ばかりだな、ハルカは。獣人国はスパイスが効いた豪快な肉料理が有名らしいぞ」
「ほんまかいな! それは楽しみや! クーコ、腕が鳴るわ!」
少し後方では、鵺のライヤの背にエルフのエリとハルカが乗り、空狐のクーコが軽快に並走している。魔神パズズのバズは、エリを護る風の鎧と化してその身を包んでいた。
「感知シタ。前方、異常事態。」
バズが無機質な声で告げる。
その言葉と同時だった。森が開けた先に、何台かの馬車が立ち往生し、猛烈な魔物の群れに蹂躙されている光景が目に飛び込んできた。
数十匹の『ヘルハウンド』。
燃えるような眼光と腐肉の臭いを撒き散らす魔犬たちが、護衛の獣人たちを囲い込み、じりじりと追い詰めている。
「馬車が襲われてる……! しかも、あれは冒険者のパーティーだな」
俺が呟くと、ダルアが俺の肩をバシバシと叩いた。
「マジでヤバいっしょ! あのガキ、食われそうになってるじゃん!」
「ドラム、止まって。様子を見るぞ」
「承知した。」
ドラムは空中で静止し、俺たちは物陰から戦況を観察した。ライヤも空中でピタリと足を止める。戦闘しているのは五人の獣人たち。その奮戦むなしく、ヘルハウンドの連携にじわじわと体力を削られている。
「主様、助けるのかのぅ?」
エリが俺の顔色を窺う。
俺は一瞬迷った。目立ちたくない。だが、目の前で幼い命が理不尽に奪われようとしている。
「様子見だ。ペロ、影転移で先行してくれ。もしもの時は馬車の影に潜り込んで守れる体制を取るんだ」
「了解にゃ!」
ペロが影に溶け込み、瞬時に消える。その時、別の獣人パーティーが救援に駆けつけた。
「助けてくれ! 頼む!」
戦闘中の獣人が叫ぶ。どうやら、偶然通りかかった別の冒険者たちが、加勢に入ったらしい。
「冒険者同士か……。ルール上、他人の獲物に手を出すのは御法度だが、なりふり構ってられない状況だな」
俺が状況を分析していると、エリが通信の魔道具で状況を伝えてくる。
「どうやら、双方とも冒険者のようじゃな。奇特な奴らもいたものよ」
「助けてもらえるなら、それに越したことはないね」
ハルカが安堵の声を上げた――その直後だった。
「……ん!?」
草むらに潜んでいた数匹のヘルハウンドが、護衛の目が届かない死角から、一直線に馬車へ向かって走り出した。馬車の中からは、悲鳴と共に獣人の子供が投げ出されるように放り出された。いや、蹴り出されたのか?子供は地面を転がり、恐怖に震えている。
「魔抜けの子供にゃ……!」
影の中にいるペロの声が、通信機越しに毒づく。
「……クソッ、ペロ、助けてあげて!」
ダルアが叫ぶと同時に、俺の手を振り払ってドラムから飛び降りた。
「エリ、ハルカは此処で待機だ! 頼むぞ!」
俺も通信の魔道具を預け、即座に大地へと降り立った。
■殲滅の旅団、交錯する因縁
獣人の子供は、背中を丸めて泣き震えていた。迫りくるヘルハウンドの牙が、その柔らかな首筋を捉えようとした――瞬間。
「……排除。」
影から飛び出した漆黒の槍が、ヘルハウンドの脳天を正確に貫いた。ペロが影から姿を現し、子供を庇うようにして身構える。続いて、ダルアが走りながらアイテムバッグから魔導銃を抜き放ち、流れるような動作で引き金を引いた。
――ドォォン!――
乾いた銃声が響くたび、ヘルハウンドの頭部が弾け飛ぶ。俺も戦場に到着し、周囲を見渡すと、救援に来た獣人たちと元々の護衛たちが連携し、ヘルハウンドの群れを掃討し終えるところだった。
「助太刀、感謝する! 俺はBランク冒険者クラン『殲滅の旅団』のロウガだ。俺個人はDランクなんだがな」
戦いを終えた狼の獣人・ロウガが、加勢に入った犬の獣人・ドルダ(Cランク・『月白の爪』)と握手を交わしている。
――『殲滅の旅団』。
その名前を聞いた瞬間、俺の背筋に冷たいものが走った。間違いなく、ハルカを陥れ、翼を奪った因縁のクランだ。ハルカの視線が、ロウガという男に釘付けになっているのを感じる。彼女の震える拳が、怒りで白くなっていた。
「……仇。憎い。あいつら。」
ライヤの声が心に響く。ライヤもまた、この邪悪な気配を敏感に察知している。
そこに、馬車の反対側のドアから這い出してきた狸の獣人――商人のポンタが、小走りで俺たちに駆け寄ってきた。
「皆さん! この度は命拾いいたしました! 本当にありがとう御座います! 私は商人のポンタと申します!」
ダルアがそのポンタを鋭い視線で睨みつける。ポンタの背後には、『殲滅の旅団』の連中がいる。この状況、あまりに出来過ぎている。
「ダルア、落ち着け。今はまだ動くな」
俺は小声でダルアを制した。
「でも、あいつら……!」
「分かってる。だが、公衆の面前で暴れるのは得策じゃない。……奴らの正体、そして目的を、まずは内側から探るぞ」
「ふふん、分かってるっしょ。お楽しみはこれから……だね」
獣人国への道中で、まさか因縁の標的と遭遇するとは。運命は、俺たちを「復讐」という名の舞台へ強引に引き摺り込もうとしているらしい。
「さて、ポンタさん。あんた、こんな危険な場所で何を運んでいたんだ?」
俺は獲物を狙う狩人のような笑みを浮かべ、商人のポンタに歩み寄った。
『殲滅の旅団』との距離は、あと数メートル。
復讐の幕は、既に上がっている。




