080 【雷鳴の神獣】絆を結ぶ名は「ライヤ」!新たなる力と共に妖精の国へ
■光速の稲妻と、竜の背の攻防
雷雲が渦巻く空の下、俺たちの眼前に現れたのは、この世のものとは思えぬ『災厄』だった。黒い影が雲の隙間から滑り出す。それは四本の足を持つ獣の姿をしていたが、その輪郭は常に稲妻の残光に覆われ、歪んでいる。
「……ッ、速すぎる!」
俺の脳が反応するよりも早く、世界が白く染まる。光った、と思った瞬間には、俺たちの立っていた場所を無数の雷撃が穿っていた。光速の蹂躙。遅れてやってくる轟音が、鼓膜を激しく揺らす。音を置き去りにする速度。これまでの魔物とは次元が違う。
パズズだけが、かろうじてその動きを見切り、風の結界で防戦していた。しかし、掠めた雷撃がドラムの鱗を焦がし、大木を真っ二つに裂き、山肌を熔解させていく。当たれば即死だ。俺たちはドラムの巨体に身を隠し、息を潜めることしかできない。エリが全霊を込めて張った結界の盾が、限界ギリギリの音を立てて悲鳴を上げている。
「我ハ、魔神パズズだ! 雷撃ヲ止メヨ!」
パズズの怒号が嵐を切り裂いた。その声に呼応するように、雷鳴が一瞬だけ止む。雷雲が急速に収束し、空に浮かんでいた『影』がその姿を露わにした。
狒々の顔、狸の胴体、虎の手足、そして蛇の尻尾。古の伝承に語られる「鵺」そのものだ。空中に浮かびながら、雷を纏ったその姿は、神々しくも禍々しい。
「……鵺、か」
「ダルも知ってるよー! でも本物は迫力が全然違うね!」
鵺は無言でパズズを見つめている。かつて同じ魔王軍の術式によって召喚された仲間として、通じ合うものがあるのか。パズズが威厳を放ちながら諭すように語りかける。
「都市ヲ襲ワナイ事ニシタ。我ハ魔族ノ軛ヲ断チ切ッタ。……コノ者達ト契約シ、共ニ歩ム事ニシタノダ。鵺ヨ、オ主モ自由ダ。ソノ力、誰カノ言イナリニナルタメニ使ウナ」
鵺はパズズの言葉を咀嚼するように、静かに瞳を閉じた。そして、その悍ましい姿のまま、細く、高く、哀愁を帯びた声で答える。
「……我、行先ナシ。……同行、希望」
パズズが振り返り、俺を見る。その瞳に問うような光が宿る。俺は迷わず、力強く頷いた。
「ああ、歓迎するよ。……だが、一つ条件がある。俺たちの仲間になるなら、エリと契約してくれ。それでいいな?」
鵺は小さく鳴き、恭しく頭を垂れた。エリがその前に進み出る。彼女が契約の儀式を執り行うと、鵺の全身が柔らかな光に包まれた。
「契約、完了じゃ……! なんと力強い精霊……」
エリの表情が驚きに満ちている。契約した精霊のステータスを感じ取ったのだろう。
「ところで、鵺には名前はあるのかい?」
「種族名で呼ぶのも味気ないからな。名前を付けてやろうか」
エリが鵺に問いかけると、その獣は少し考え、掠れた声で答えた。
「我名……雷夜」
「ライヤ……いい響きだ。俺はショータ。これからよろしくな、ライヤ」
■新たな絆と、愛称の決定
契約が成立し、緊張が解けると、そこにはもう殺気立った獣の姿はなかった。改めて俺たちは自己紹介を済ませる。エリ、ペロ、ダルア、ドラム。それぞれがライヤに名乗りを上げ、その新たな仲間に歓迎の意を示す。
しかし、ふとパズズの方を見ると、彼は無言でそこに立っていた。
「そういえば、パズズの名前……お前自身には名前はないのか?」
「我ハ魔神パズズ。唯一無二ノ存在。故ニ、種族名ガ即チ名前デアル」
「成る程ねぇ。でも、仲間になったのに『パズズ』とだけ呼ぶのも堅苦しいな。……よし、愛称を付けよう」
腕を組んで考えること数秒。
「『バズ』でどうだ?」
「バズ……? なかなか呼びやすくて良いにゃ!」
「僕も賛成。親しみやすいよ」
「ダルも気に入ったなー! バズ、これからよろしくね!」
俺が提案すると、周囲の反応は上々だ。パズズ……いや、バズ本人も、どこか嬉しそうな、しかし隠しきれない照れを含んだ表情で頷いた。
「……バズ、か。悪くない」
これで、俺たちのパーティはさらに強力な戦力を手に入れた。
「バズ、ライヤ以外で、異世界から召喚された精霊はあと何柱いるんだ?」
「……二柱だ」
「その者たちも、もし意志があるならエリと契約させよう。魔王軍の尖兵として利用されるより、俺たちといた方がずっといいはずだ」
「おお! それが最善じゃな!」
「バズ、彼らはどこにいるか分かるか?」
「……おそらく、妖精の国周辺だ。あちらの精霊と接触している気配がある」
「決まりだな。宿を引き払ったばかりで何だが、このまま妖精の国へ向かおう」
俺の宣言に、全員が力強く頷く。
「承知シタ」
「分かったのじゃ!」
「行こうにゃ!」
「了解だよ!」
「ゴーゴーッ!」
ダルアが拳を突き上げる。その隣で、ドラムとライヤも頼もしげに頷いていた。
「よし。長距離移動になる。……バズ、ライヤ、お前たちは四つ足なら人を乗せて走れるか?」
「問題ナイ」
「無論ダ」
「じゃあ編成を決めよう。俺とダルアはドラムの背へ。エリはバズに、ハルカはライヤに乗ってくれ。その方が機動力が高まるはずだ」
「アタシはいつものようにショータの影に潜むにゃ」
ペロが笑って俺の影へと溶け込む。
「それじゃ、妖精の国へ向けて出発だ!」
俺たちは新たな仲間を加え、再び広大な森の中へとその身を投じた。目指すは妖精の国。そこには、まだ見ぬ異界の精霊と、さらなる試練が待っているはずだ。
俺たちの旅は、もう誰にも止められない。
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