008 『Cランクの蹂躙』〜俺を狙った強盗団、気功の餌食となる。悪徳雑貨屋への鉄槌は、ここから始まる。〜
宿屋の看板を探しながら歩いていると、不自然に道が狭まったところで、前方の路地から影が差し込んだ。
冒険者風の男たちが3人。彼らのまとっている空気には、明らかな敵意が混じっている。
「おい、魔抜け。ツラ貸せ」
裏通りへ引きずり込まれる。彼らにとって、この裏道は「処理場」なのだろう。
かつての俺なら、ここで無様に転び、覚えのない罪に涙を流しながら許しを請うていたはずだ。
(……反吐が出るな、かつての自分は)
あんな惨めな過去は、今日この日で完全に葬り去る。
後ろから、男が俺の背中を強引に突き飛ばした。
だが、俺の体はビクともしない。足の裏に流し込んだ『気』が、大地に根を張ったかのように重心を固定している。
「……何の用だ?」
振り返った俺に、男たちは唖然とした表情を浮かべた。
Cランク冒険者? その肩書きが何だというんだ。俺の『気』は、魔力という外付けの強化とは別次元の、生命そのものの力だ。
「……おい、動かねえぞこいつ。変な魔道具でも持ってんのか?」
前の男が、ニタリと下卑た笑みを浮かべて詰め寄ってくる。
「大人しく魔石を出せ。命だけは取らないでやる。……ま、抵抗するならその限りじゃねぇがな」
(ははぁ、なるほど。雑貨屋の親父の仕業か)
点と点が繋がる。あの親父、魔石の価値を知った上で、強盗を差し向けて奪い返す算段か。典型的な小者のやり口だ。
「おい、聞いてんのかよ!」
男が俺の腹に、魔力で強化されたパンチを叩き込んできた。
グッ、という鈍い音がする。……だが、痛くも痒くもない。
パンチの衝撃を『気』の膜で受け流し、逆に男の拳を硬い壁にぶつけたかのように跳ね返した。
「ぐわぁっ!? な、なんだその硬さは……っ!」
男は右手を抱えて悶絶している。
「大人しくしてろ!」
横から別の男が俺の腕を掴んできた。
「俺たちはCランクだ! お前に勝ち目なんてあるわけねぇだろ! 諦めろ!」
男たちの焦燥が痛いほど伝わってくる。魔力による身体強化をしているはずなのに、なぜか俺という「バグ」が処理できない。彼らの焦りは、俺にとっては最高のスパイスだ。
前の男が、左拳で顔面を狙ってくる。
俺は防御もせず、ただ淡々と、奴らの腹に流れる『気』の回路を逆探知する。
「お前ら、魔物でもないくせに、随分と野蛮だな」
俺は両手を伸ばし、男たちの肩を掴んだ。
――発動。生命力吸収。
「えっ、あ、体が……力が……!?」
男たちの表情から血の気が引いていく。
俺は容赦なく、彼らの体内にある魔力と生命力を吸い上げた。膝から力が抜け、3人ともガクガクと崩れ落ちる。
俺は最初の男の腹を、軽く蹴り飛ばした。
吹っ飛んだ男が壁に激突し、苦悶の声を上げて動かなくなる。
次の男は、一本背負いで地面に叩きつける。衝撃で意識が飛んだようだ。
最後に、背後にいた男が震えながらこちらを見上げている。
「い、命だけは……! 俺はただ、言われた通りに……!」
「雑貨屋の依頼だな?」
俺は冷徹に言い放つ。
男は青ざめ、頷くことしかできない。
すべてを吐かせればいい。彼らが犯した悪事の証拠、そして雑貨屋の親父がこれまでに行ってきた強盗の全貌を。
「……ふん、ゴミ掃除のついでに、元締めも潰してやるか」
路地裏の薄暗い影の中で、俺は獲物を見つけた猛獣のような笑みを浮かべた。




