007 『どん底からの着替え』~優しき商人の店で手に入れた冒険者の鎧。都市を目指す旅路の始まり~
雑貨屋を後にした俺の胸には、拭い去れない疑問と怒りが渦巻いていた。
なぜあの親父は、俺が『魔抜け』だと断言できたのか。
単なる蔑視か、それとも鑑定スキルの類か……。もし鑑定があるなら、俺のステータスや「気」の存在まで筒抜けということになる。鑑定阻害のアイテムは必須だ。転生特典のようなチート機能がない今、自分の身は自分の知識で守らなければならない。
まずは、見た目から変える。このボロボロの孤児院の服では、どこへ行っても足元を見られるだけだ。
俺は通りを歩き、良さそうな防具屋の扉を開いた。
カラン、と乾いた音がして、中から柔らかな笑みを浮かべた女性が出てくる。
「いらっしゃい。……あら、随分とお疲れね」
雑貨屋の親父とは大違いだ。俺は少しだけ警戒を解き、目的を告げた。
「すみません。一番安価な服を上下セットで探しているんですが、おいくらでしょうか」
「そうね……そうしたら、銅貨5枚でどうかしら」
妥当だ。いや、むしろ良心的かもしれない。俺は即座に提案した。
「すみません、手持ちの現金がなくて……。この魔石で払わせてくれませんか?」
そう言って、スライムの魔石をカウンターに置く。女性は目を見開いた。
「あら、いいのかしら。魔石で払うなんて、あなたの方が損するわよ。先に換金してきたら?」
「いえ。すぐにでもこの服を着替えたいんです。何とかお願いできませんか?」
俺の切実な視線に、彼女は少し考え込んだ後、ふわりと笑った。
「わかったわ。じゃあ、おまけにこの帽子もつけてあげる。しっかり着るのよ」
渡されたのは、丈夫な黒い布の服上下と、キャップタイプの帽子。黒は汚れが目立たない。今の俺には最高の選択だ。
即座に裏で着替えさせてもらう。鏡に映る自分は、先ほどまでの「スラムの捨て子」とは見違えるほど精悍に見えた。
「あの……実はスライムとゴブリンの魔石がまだいくつかあるんですが、買い取っていただけませんか?」
「あら、いいわよ。実は最近、この村では魔石が不足気味で困っていたの。特にゴブリンの魔石は助かるわ。少しなら高く買い取ってあげる」
結果、ゴブリンの魔石7個を銀貨5枚で売却できた。雑貨屋の親父とは大違いの適正価格だ。
さらに、手に入れた資金で、防具屋にある革の鎧と靴を譲り受けることにした。
「服の上にこれを着なさい。少しは冒険者らしく見えるわよ」
重ね着をしたことで、布服だけの時よりも格段に防御力が増した実感が湧く。
鏡の中の俺は、もはや怯える孤児ではない。この世界の住人として、ようやくスタートラインに立てた気がした。
防具屋を出て、次は魔道具屋へ向かう。
期待を込めて「鑑定防止」と「アイテムボックス」について尋ねたが、答えは残酷だった。
この村では取り扱っておらず、より大きな都市へ行かないと入手不可能だという。
(やはり、都市へ行く必要があるな)
アイテムボックスの性能も聞いた。時間停止機能はないが、タンス程度の容量があり、重量を軽減できる。これがあれば、拾った魔石や食料の運搬が劇的に楽になる。
最後に武器屋へ立ち寄り、解体用のナイフを購入した。さらに、錆びたナイフを磨き直す方法を教わり、砥石も購入する。
メンテナンスは道具の寿命を延ばす。前世の知識は、この世界でも生存の鉄則だ。
全て魔石払いで済ませ、腰にナイフを収める。
ポケットには、まだ魔石が残っている。
俺は村の出口へと向かった。
魔法は使えない。だが、準備は整った。
次なる目的地は都市だ。そこで鑑定防止を手に入れ、さらに力を蓄え、必ずあの孤児院と、俺を貶めた世界を見返してやる。
俺の足取りは、先ほどまでとは比べ物にならないほど力強く、軽やかだった。




