006 『差別という名の壁』〜魔石の価値と、俺に向けられた「魔抜け」の烙印。社会の洗礼に拳を握る。〜
ゴヘーさんに教えられた通りに村のメインストリートと思しき場所へ向かうと、そこには十数軒の建物が立ち並んでいた。
各ギルドの支部、宿屋、雑貨屋……。小さな村にしては、必要な機能が揃っている。
「まずは情報の整理と、当面の資金確保だな」
目的は二つ。食事にありつくことと、この村から町へのルートを確認すること。
魔石を売れば当座の金にはなるだろう。俺は、一番客入りが良さそうな雑貨屋の扉を押し開いた。
「いらっしゃいませぇー」
カラン、とベルが鳴る。店の奥から愛想の良い声を響かせて親父が出てきたが、俺の姿を認めた瞬間、その表情から笑みが消え去った。
ジロジロと、まるでゴミでも見るかのような冷ややかな視線。
「……なんだ、子供か。冷やかしなら帰れよ」
露骨な拒絶。だが、前世で幾多の理不尽な客先を回ってきた俺だ。これくらいの無礼には動じない。俺は淡々と用件を切り出した。
「スライムとゴブリンは、いくらですか」
まずは相場を把握する。俺は店内に並ぶ商品に値札が貼られているのを確認した。
親父は鼻で笑うと、面倒くさそうに口を開いた。
「相場なんてあってないようなもんだが……スライムは銀貨1枚、ゴブリンは銀貨1枚と銅貨2枚だ」
売値を聞いて、俺は心の中で計算を始める。
(なるほど。この物価なら、買い取りは売値の半分から七割が妥当だろう)
俺はポケットから、ゴブリンとスライムの魔石を半数ほど掴み出し、カウンターに置いた。
「これならどうだ?」
親父は一瞬、目を丸くして魔石の山を見つめた。しかし、次の瞬間には呆れたような、軽蔑を滲ませた表情に変わる。
「……銅貨1枚だ」
「は?」
耳を疑った。売値の十分の一にも満たない。
あまりの安値に、俺は思わず吹き出しそうになった。
「断る。帰るよ」
俺が即座にカウンターから魔石を回収して背を向けると、親父が不機嫌そうに声を張り上げた。
「ちょっと待て!」
交渉の余地があるのか? と思い、振り返る。だが、返ってきたのは金の話ではなかった。
「おい、小僧。それはどこから盗んできた?」
「……あぁ?」
泥棒扱い。俺は思わず眉間に皺を寄せる。
俺の剣幕に怯む様子もなく、親父はニヤリと卑しい笑みを浮かべた。
「ガキがこんな魔石を都合よく持ってるわけがねぇ。……銅貨1枚で引き取ってやる。さっさと置いていけ。さもなきゃ警備兵を呼ぶぞ」
胸の中で、冷たい怒りが炎のように燃え上がる。
不当な買い叩き、根拠のない盗難の疑い、そしてその傲慢な態度。前世のブラック企業で散々見てきた、立場の弱い人間を搾取する構造そのものだ。
「……二度言わせない。売らないと言ったんだ」
俺は店を出ようと歩を進める。しかし、親父の放った一言が、俺の背中を鋭く突き刺した。
「おい……お前、さては『魔抜け』だな?」
歩みが止まる。親父の声は、店内に響き渡るほど大きかった。
「魔抜けが魔物を倒せるはずがねぇ! どこかの死体から漁ったんだろうが! 銅貨2枚にしてやる、感謝して置いていけ!」
その言葉に、村の中にいた他の客たちも一斉にこちらを振り返る。
蔑みの視線、好奇の目。
孤児院での記憶がフラッシュバックする。あの時と同じ。魔法が使えないというだけで、人間としての尊厳すら認められない世界。
(……ああ、そうか。ここでは、どれだけ正論を言っても、力とラベルがなきゃゴミ扱いか)
拳が震える。殴りたい。この無知で傲慢な親父の顔面を、俺の拳で粉砕したいという衝動が湧き上がる。
だが、ここで暴れても状況が悪化するだけだ。
俺は言葉を発さず、ただ静かに店を出た。
背中で親父が何か嘲笑っているが、無視する。
「……覚えておけよ」
俺は独りごちた。
今はまだ力がない。だが、俺は前世の知識と、この『気』の力を制御して、必ずこの世界の価値観を根本からひっくり返してみせる。




