076 【伝説の魔神、その名はパズズ】規格外の英雄と小人の国、予期せぬ巨大都市の全貌
■魔神の膝と、英雄の規格外
風の大精霊を蹂躙し、魔族の洗脳により凶行を繰り返していた魔神パズズ。今、その巨躯は、俺たちの前で静かに膝をついていた。かつての狂暴な眼光は消え失せ、主であるエリの契約精霊として、静寂の中にただ控えている。
「……信じられないぜ」
影から這い出てきたモヤジーが、呆然とパズズを見上げている。
「魔族に洗脳されたとはいえ、こいつは伝説級の災厄だぞ。しかも……それを契約精霊にしちまうなんて。ショータさん、あんた一体何者なんだ? 規格外にも程がある」
「危なかったよ。一歩間違えれば俺たちが食われていた」
俺は小さく息を吐き出す。
「パズズの強さは本物だったにゃ……」
ペロが影から出てきて、俺の隣でしっぽを揺らす。まだ興奮が収まらないのか、その瞳には戦闘の残滓が揺らめいている。
「でも、ショータさん。パズズの存在はかなりマズイんじゃないか?」
モヤジーが腕を組み、シリアスな表情で問いかける。
「人を殺しまくった精霊を従属させているとバレたら、王家や教会が黙っちゃいないぜ。……英雄どころか、魔族の協力者扱いだ」
「……そうか。パズズは『正体不明の魔物』として恐れられていた。誰もその姿を見たことがないのなら、俺たちが犯人だと特定される筋合いはないはずだ。……そうだろう?」
俺の問いに、モヤジーは「それはそうだが……」と言い淀む。
「精霊に対してお咎めなしってのも、腑に落ちない。……法で裁ける相手じゃねえしな」
「人族の法で精霊を裁くなど、土台無理な話じゃよ」
パズズの隣からエリが進み出て、静かに告げた。彼女の右手は、パズズとの契約によって見事に再生を果たしていた。
「……なるほどな」
モヤジーは納得したのか、あるいは諦めたのか、ふうと溜息をついた。
「よし、今後のことは小人国へ向かいながら考えよう」
「先ずはモヤジーを小人国へ送ること。それが最優先だにゃ」
ペロの提案に全員が頷く。
「当初の目的だった『エリの契約精霊GET』も完了したし、次のステップに進む好機だよ!」
ダルアがドラムに抱きつきながら嬉しそうに言う。彼女の呑気さは、緊張した戦場の空気を一瞬で和ませてくれる。
「ちょっと待ってくれ。精霊たちがまだ小人国や妖精国を狙っているはずだ。魔族の影も気になる」
モヤジーの指摘は的確だ。このまま放置すれば、また新たな悲劇が生まれる。
「精霊たちの暴走、何とかして止める必要があるね」
「取り敢えず、飯にしようか。空腹じゃ戦もできん」
ハルカがアイテムバッグから手際よく調理器具を取り出した。火の粉が舞い、香ばしい匂いが森に漂う。
「パズズ、精霊たちはまだ精霊の泉にいるのか?」
「……泉ニ、殆ド全員待機中ダ」
パズズの声は低く、どこか遠い響きがあった。
「それなら、一度泉に行く必要があるな。パズズ、お前が直接、精霊たちに命令して解散させろ」
「承知シタ」
「『殆ど』と言ったな? 他の連中はどうなっているんだ?」
「何体カハ、泉ヲ出テ、獲物ヲ探シテイル者モイル……」
「自由気ままな精霊らしいわね。まあいい、残りは後で対処しよう」
■精霊の帰還と、鉄壁の門
食後、俺たちはパズズと別れた。体長3メートルもの魔神をそのまま連れて歩くわけにはいかないからだ。
「精霊の腕輪」という契約者の特権を使い、パズズをエリの精霊として収納する。必要になれば、エリの手を介していつでも召喚できる。これで当面の隠密性は確保できた。
風のように消えたパズズを見送り、俺たちはドラムに乗って小人国を目指した。
小人国の境界が見えてきたところでドラムを降りる。小鳥サイズになったドラムは、ダルアの肩へと飛び乗り、得意げに胸を張る。モヤジーが俺の肩にひょいと乗り移り、俺たちは徒歩で都市へと向かった。
「へえ、小人国か。どんなに小さな家が並んでいるのかと思ったら……」
目の前に広がる光景に、俺は思わず足を止めた。
都市を囲むのは、人間が住む都市と全く遜色ない、あるいはそれ以上の威容を誇る巨大な石壁。
鉄製の重厚な門が、俺たちの背丈の倍以上の高さで鎮座している。
「モヤジー、小人の国だから、もっとこう……ミニチュアのような国を想像してたよ」
俺の言葉に、モヤジーはニヤリと笑った。
「小人しか住めないような小さな都市じゃ、交易ができねえだろうが。この都市は人族も多く住む交易の要所なのさ。小人たちが作る最高の工芸品を求めて、世界中から商人が集まるんだよ」
「なるほど。だから門もこんなに巨大なんだね」
巨大な門の前に立つと、俺たちは豆粒のように小さく感じられた。
門番の二人が、長い槍を構えて俺たちを凝視している。
「ようこそ、小人国へ。……おい、あんたたち、面見ない顔だが、商売人か? それとも冒険者か?」
門番の声が重く響く。ここからが、俺たちの新しい旅の始まりだ。
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