074 【戦慄のキメラ】最強の竜を裂いた未知の影。森に潜む悪夢との遭遇戦、開幕!
■狩る者、狩られる者
「……正体不明の魔物、か」
俺は唇を噛み締めた。あの下劣な冒険者たちが吐き捨てた言葉が、なぜか胸にひっかかっている。正体不明。それは冒険者にとって最も忌むべき言葉の一つだ。
ペロが俺の表情を読み取ったのか、小首を傾げて覗き込んでくる。
「ショータ、さっきの噂、気になるのかにゃ?」
「ああ。俺たちの進む先で、獲物が待っているかもしれないとなれば、無視はできないだろう?」
俺の言葉に、仲間たちが反応する。
「良いかも知れんのぅ。正体不明の魔物。もし希少な個体なら、極上の素材が採れるかもしれんのじゃ」
エリが理知的な瞳を輝かせ、弓を弄ぶ。戦闘狂のハルカも、よだれを拭いながら笑みを浮かべた。
「賛成! 強い魔物なら、食べた時の肉の味も最高かもね!」
ダルアもまた、愛用の銃を指でなぞりながら意気揚々だ。
「レベル上げにも最適だよねー。あたしたち、強くなったから力試しがしたいな」
全員、迷宮攻略を経て自信に満ち溢れている。だが、情報屋のモヤジーだけは、明らかに不吉な表情で顔をしかめていた。
「……あんたたち、止めたほうがいいぜ。噂レベルの話じゃない。現に、Bランクのパーティーさえ音信不通になっているんだ。……誰もその姿を見たことがない。出会った者は、例外なく皆殺しにされている」
「Bランクのパーティーを全滅させる……か」
俺は腕を組む。もしそれが本当なら、並の魔物ではない。だが、俺の横には最強のドラゴンがいる。
「ドラム、どう思う?」
「……我より強い魔物か。この森に潜んでいるとは考えにくいが、強いて言えば興味はあるな。……我の鱗を傷つけられる相手なら、暇つぶしにはなるだろう」
ドラムは欠伸を噛み殺しながら、傲岸不遜に言い放った。
よし。正体不明の魔物狩り、開始だ。
■網の目の探索、消えた気配
昼食の後片付けを終えた俺たちは、即座に戦闘態勢を整えた。迷宮攻略後の俺たちの能力は、すでに次元が違う。探知スキルを最大出力で展開する。
俺が前方の広範囲を気配探知で制圧し、ペロが右、エリが左、ハルカが背後の索敵を担う。そして万が一の死角を潰すため、ダルアが全方位を監視する網の目のような探索陣形だ。
俺とダルア、ペロ、モヤジーがドラムの背へ。エリとハルカはドラガに跨る。
「……魔物の反応はナシ。知った顔の魔物ばかりだにゃ」
「……うむ。この森に潜んでいる気配は、通常の魔物とは質が違うようじゃな」
俺たちは森の深部へと足を踏み入れた。その時、俺の気配探知が、森の静寂を切り裂くようなノイズを捉えた。
「――いた!」
俺は即座に声を上げた。
「前方右、約2キロ。普通の魔物とは一線を画す、禍々しくも濃厚な気配だ!」
「どれどれ……むむっ? これは……!」
エリが眉をひそめる。
「魔力が……ぼやけている。いや、魔力そのものを遮断しているのか? 厭な感じじゃ……」
「普通なら見逃すところだにゃ。あたしたちのレベルが跳ね上がっていなければ、完全にスルーしていたはずだ」
俺たちがその気配の正体を突き止めようと意識を集中した、その瞬間だった。
「――っ! 消えた!?」
「本当にゃ! 気配が消失した!」
背筋を氷柱で貫かれたかのような戦慄が俺を襲う。これは『隠れた』のではない。『狩る者』が姿を消したのだ。
「全員、最大級の警戒をッ!!」
俺の絶叫と同時に、俺は気配を完全に殺して影へと溶け込んだ。ペロも俺の影へ沈み、モヤジーも機敏に姿を隠す。
刹那――!
凄まじい突風が、ダルアの立ち位置を蹂躙した。
「ダルア!」
ドラムが即座に反応し、巨大化してダルアを庇う。
ズガガガガガガッ!!
硬い竜の鱗を、まるで紙でも切り裂くかのように鋭利な刃が通り抜ける。本来なら物理も魔法も弾くはずのドラムの鱗が、無残にも縦に裂けていた。
「なに……!?」
俺たちの目の前。そこに『それ』は立っていた。
誰も見たことのない、地獄のパズルを繋ぎ合わせたかのような異形。
雄ライオンの顔に、血走った狂気の眼光。鬣は毒々しく波打ち、そこから伸びる腕には獲物を引き裂くための凶刃が備わっている。全身は黄褐色の体毛で覆われ、痩せ型だが、筋肉は鋼のように引き締まっている。膝下からは鷲の脚。鋭い鉤爪が大地を抉る。
背中から生えるのは、四枚の巨大な鷲の翼。そして、毒針を揺らす蝎の尻尾と、蛇の男根。全長3メートルを超える巨躯が、獲物を狩るための流麗な猫背で、今まさに俺たちを値踏みしていた。
「ギギッ……ギググガァアアア!!」
不気味な鳴き声が、森の空気を震わせる。間違いなく、こいつが冒険者たちを食い殺してきた『正体不明の悪夢』だ。
俺たちは息を呑む。このキメラとの遭遇は、ただの狩りではない。生き残るか、喰われるか。死闘の幕開けだった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
ブックマークをしていただいた方、
評価ポイントを登録していただいた方、
ありがとうございました!
まだ『ブックマークの登録』、
『評価の登録』をしていない方、
気が向いたら登録していただくと
励みになります。
評価の登録をしていただける方は
下段ポイント評価を選択後、
ポイントを選んで
「評価する」ボタンを
押してください。
宜しくお願い致します。




