073 【傲慢の断罪】迷宮の主を舐めた三流冒険者、圧倒的殺気に戦慄し土下座で逃亡す
■迷宮の朝、そして旅路の疾走
迷宮の夜は、格別だった。昨夜、俺が『迷宮創造』で生み出したのは、ただの洞穴ではない。冷徹なまでの機能美と、安眠を約束する快適さが融合した「魔法の家」だ。
ふかふかのベッド、静寂に包まれた部屋。野営という言葉から連想される不快感など一切ない。目が覚めると、昨晩の疲れはどこへやら、魂まで洗われるような爽快な朝が待っていた。
朝食を終えると、俺は手際よく『迷宮回収』を実行した。かつて迷宮の深淵で培ったDPを消費し、空間を再構築する。家は光の粒子へと分解され、再び俺の左手の迷宮核へと収束していく。
「……さて、行くか」
俺たちは再びドラムの背に跨り、大空へと飛び立った。
モヤジーという優秀な道先案内人を得たことで、俺たちの旅は昨日とは比べ物にならない速度で進んでいく。地図など不要。小人の情報網を駆使し、最短かつ最適のルートを駆け抜ける。
眼下に見える魔物の群れも、もはや障害ではない。俺とエリ、ハルカが気配を探知し、接近する前に排除する。指弾、風刃、矢。それらが放たれるたびに、獲物は影へと還り、俺の影へと回収されていく。歩みを止めることすらしない、まさに「蹂躙」と呼ぶにふさわしい行軍だった。
◇◇
■陽だまりのナポリタンと「害虫」
太陽が天頂に達し、森が光で満たされる頃、俺たちは適度な広さの場所を見つけて足を止めた。
「休憩にしようか」
エリが手際よく結界を展開し、安全を確保する。ハルカが手早く調理を開始し、辺りには懐かしいトマトの香りが立ち込めた。
今日の昼食はナポリタン。ダルアから教わった日本の味だ。アウトドアテーブルに大皿を並べ、皆でフォークを手に取る。至福の時だ。
だが、平穏は長くは続かない。俺の気配探知が、森の奥から近づいてくる異質なノイズを捉えた。人間の、しかも下卑た欲望に満ちた気配だ。
「……誰か来るな」
「どれどれ? ……ああ、本当じゃ」
「五人だね。冒険者みたいだよ」
ペロやエリも同時に気づいたようで、それぞれ魔力探知を展開する。だが、ハルカはナポリタンをフォークで巻き取りながら、全く気にしていなかった。
「なになに? おかわり?」
このマイペースさが救われる。
ほどなくして、茂みをかき分けて五人の男が現れた。
冒険者パーティー『紫苑の刃』と名乗る彼らは、わざとらしく爽やかな笑顔を浮かべているが、その瞳の奥には、獲物を物色する卑しい光が宿っていた。
「こんにちは! 素晴らしい天気にナポリタン……いやぁ、実に美味しそうですね」
俺たちは完全に無視を決め込んだ。食事が済んでから相手をするつもりだ。しかし、彼らは食卓の周りをうろつき、無遠慮な視線を投げかけてくる。
「食事中すまないが……」
しびれを切らしたのか、エリに声をかけてきた。
「なんじゃ?」
「いやね、この辺りは最近、正体不明の凶悪な魔物が出るって噂でして。Cランクパーティーの我々『紫苑の刃』が、特別に護衛して差し上げましょうかと思って」
彼らは自信満々に冒険者証を見せつけた。
俺は思わず鼻で笑いそうになるのを堪え、隣で食事中のモヤジーに小声で尋ねた。
「モヤジー。正体不明の魔物? 何か聞いてるか?」
モヤジーはフォークを置き、丁寧に口元を拭ってから、呆れたような目つきで冒険者たちを一瞥した。
「ああ、噂ならあるぜ。冒険者パーティーが何組か犠牲になったとかな。……だがな、ショータさん。こいつらが言ってるような『護衛』なんて必要ないレベルだ」
その会話を聞きつけたリーダーらしき男が、態度を一変させる。
「……何ですか、その態度は。せっかく親切に護衛を申し出ているのに。女と子供と小人しかいないパーティーなんて、この森ではカモにされるのがオチですよ?」
冒険者リーダーの瞳から、仮面のような爽やかさが剥がれ落ちる。
「……疑うなら、こっちへ来なさい。安全を保証してやる」
俺はあえて、結界の内側を指差した。
男たちがニヤニヤと笑いながら近づいてくる。
「生意気なガキどもだ。もういい、やっちゃおうぜ」
「女は可愛いし、小人なんて奴隷として売れば金になる」
「脅せば大人しくなるさ。迷宮の素材とかアイテムバッグを持ってるだろうしな」
本性を現した彼らの悪意は、隠す気もさらさらないようだ。だが、彼らが俺たちの結界に触れた瞬間――。
ガィィィン!!
硬い金属音と共に、男たちは弾き飛ばされた。
「な、なんだ……!?」
彼らが結界を叩こうが、剣で切りつけようが、放つ魔法が直撃しようが、結界は微動だにしない。まるで、彼らが空気を叩いているような無力さが、そこにはあった。
俺は椅子から立ち上がり、ゆっくりと彼らの前に歩み寄った。
「どうした? 来れないのか? ……その程度の実力で、よくも英雄気取りで絡めるものだな」
「こ、こいつ……!」
男たちが憤慨し、怒号を飛ばす。だが、結界の外から吠えるだけの獣に何を恐れる必要がある?
ペロが溜息をついた。
「ショータ、冒険者というのは、本当にこのような者ばかりなかにゃ?」
「いや、中には真っ当な者もいると思うんだが……」
「世の中、ごろつきと夢見がちな馬鹿が多すぎるのさ」
モヤジーが吐き捨てるように言う。
いい加減、煩い。
俺は結界の境界線まで歩き、ふっと溜息を吐いた。
「……随分と無礼なことをしてくれたな。俺の仲間たちに、随分と甘い汁を吸おうとしたようだが」
俺は結界の外へ一歩踏み出した。その瞬間、俺の全身から解き放たれた『気』が、衝撃波となって空間を支配した。
ドォォォォォォンッ!!
リーダーの腹部に、軽く拳を叩き込む。殺す気はない。ただ、圧倒的な力量差を骨の髄まで刻み込むための一撃。男は木の葉のように吹き飛び、後方の木に叩きつけられた。
「ヒッ……!!」
残った四人が、尻餅をついて後ずさりする。俺の殺気は、彼らの戦意を根こそぎ粉砕していた。
「うるさい。……そのゴミを抱えて、今すぐ失せろ」
俺は倒れたリーダーを指差す。男たちは死に物狂いで仲間の身体を抱え上げると、二度と振り返ることなく、森の奥へと一目散に逃げ去った。
静寂が戻った森で、俺たちは再びナポリタンの続きを食べ始めた。
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