071 【落日の王国を背に】旅路の果て、小人の国への道標と奇妙な情報屋の来訪
■王都の残照、そして新たなる旅路
猫の王国・王都キャルベル。俺たちは、滅びゆく王国の空に背を向けた。去り際、王宮の正門で待っていたのは、雷猫ライガと、宿の執事ダルク、メイドのメルだった。彼らは俺たちの前にひざまずき、ただ一言、懇願した。
「どうか……七猫の残る者たちだけは、見逃してやってくれ。スタンピードで壊滅した王都で、これ以上英雄を失っては、この国は本当に滅びてしまう」
その必死な土下座の光景は、王国の脆さを象徴しているようだった。
俺は小さく溜息をつき、頷いた。俺たちの目的は王国を滅ぼすことではなく、ただの冒険者としての道を歩むことだ。それに、彼らとの禍根は一時凍結したに過ぎない。
王都を離れた俺たちの次の目的地は、妖精の里。エリが新たな契約精霊を求める場所だ。実力主義のこの世界において、戦闘力の向上は絶対。エリは遠慮がちに「後回しでも……」と言っていたが、さらなる強敵に備えるため、これは不可欠な選択だ。
妖精の里へ向かうには、途中に位置する小人の国を経由する必要がある。そこが今回のルートだ。俺とダルは、巨大化した愛竜・ドラムの背に跨り、風を切る。
その後方を、
エリとハルカがドラゴン型ガーゴイルに乗って追走する。ちなみに、エリがこのガーゴイルに付けた名前は『ドラガ』。……直球すぎるというか、なんというか。センスについては突っ込まないでおくことにした。
「行くぞ!」
ドラムの咆哮と共に、大地が後ろへ流れる。
狩りなど二の次だ。俺たちのレベルは迷宮攻略を経て、すでに常人の域を遥かに凌駕している。探知に引っかかる魔物は、立ち止まるまでもない。俺の指弾が貫き、エリの矢が心臓を射抜き、ハルカの風刃が瞬時に肉を断つ。倒した魔物は、ペロが影移動で瞬時に回収し、俺の影へと収納していく。その間、ドラムとドラガは一瞬の減速すらせず、森の小径を最高速度で駆け抜けていった。
■森の焚き火、そして予期せぬ影
「そろそろ陽が落ちるな。今日はここまでにしようか」
森が開けた崖の下、適当な場所を見つけて足を止める。
周囲には結界を張り、ドラガを見張りとして配置。万全の体制だ。俺はアイテムバッグから、とっておきの折り畳み式アウトドアチェアを取り出した。これは以前、ダルと相談してエリに特注で作らせた傑作だ。肘掛け付きで、座り心地は最高。そして何より……。
「……ねえ、これやっぱり便利だね。ドリンクホルダーもちゃんとあるし」
ハルカが指差すのは、カップホルダー。
「あぁ。これに飲み物を入れるんだよ」
「でもショータ、この世界に『ペットボトル』なんてないよ? この穴、何に使うの?」
ハルカの素朴な疑問に、俺は苦笑する。
「……ロマンだよ、ロマン」
そんな他愛のない会話をしながら、ハルカが手際よく夕食の準備を始める。俺はダルと気功の訓練へ。エリは狩った魔物の素材から回復薬や解毒剤を精製し、ペロとドラムはアウトドアチェアに座ってのんびりと寛いでいた。魔力探知で周囲を監視するペロの耳が、ぴくりと動く。
「……誰か来るにゃ」
その言葉で、俺とダルの訓練がピタリと止まる。
気配探知を全開にする。確かに、南側の森から何者かが接近している。ダルの感知も、最初は鈍かったが、俺の指差す方向を集中したことで「あ! 分かった!」と反応した。
エリもハルカも、その正体が脅威ではないことを魔力探知で悟ったのか、武器を抜く様子もない。
「誰が来るか分かるか?」
俺が尋ねると、ダルが少し笑って答えた。
「うん、モヤジーさんだ!」
木々の揺れる音と共に、リスに跨った小人の情報屋・モヤジーが姿を現した。
「こんばんは!……ったく、あんたたち進むのが速すぎるぜ!」
モヤジーはリスから飛び降り、ひょいと地面に着地する。
「やあ、モヤジー。こんなところで何してるんだ?」
「決まってるだろ! シャルからあんたたちが小人の国へ向かってると聞いてな、追いついたのさ。同行させてくれよ」
モヤジーは人懐っこい笑みを浮かべる。
「俺も小人の国へ行く用事があるんだ。強者のパーティーと一緒なら道中も安心安全だしな。もちろん、護衛の報酬も払うぜ!」
俺とペロが同時に口を開く。
「同行していいよ、報酬は要らない。猫の王国では世話になったからね」
「小人の国を案内してにゃ!」
俺の申し出に対し、モヤジーはきっぱりと首を振る。
「いやいや、猫の王国の件はあくまで仕事だ。依頼には対価が必要だぜ、ショータさん」
「……わかった。じゃあ、小人の国の最新情報を教えてくれ。それが報酬代わりだ」
「案内と情報、これで手を打とうぜ!」
俺たちの間に、カチンと硬貨を弾くような音が鳴る。
こうして新たな仲間(一時的だが)を加え、俺たちの旅はさらに賑やかさを増していくことになった。
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