068 【英雄の食卓と傲慢なる使者】王宮の傲慢を砕け!魔抜けの主が放つ宣戦布告
12/04誤字修正致しました。
(誤)スタンピート
(正)スタンピード
■安らぎの食卓、異界の香気
スタンピードの余韻が残る王都の空。俺たちはドラムの背から降り立ち、再び『猫が安らぐ宿』の中庭に降り立った。戦場の喧騒を脱ぎ捨てた俺たちを、執事のダルクとメイドのメルが恭しく出迎える。
「ショータ様、そして皆様。……おかえりなさいませ。この度は、王国の危機を救っていただき、本当に……本当にありがとうございます」
ダルクの瞳には深い敬意が浮かんでいた。俺は軽く頷き、短く返す。
「ただいま。……食事ができる部屋へ頼めるか?」
「もちろんでございます。最高の温もりと料理をご用意してお待ちしております」
ドラムは小鳥サイズに戻り、ふわふわと浮きながら俺の背後についてくる。
宿の食堂に入ると、そこにはすでに湯気を上げる料理が並べられていた。ニャルマル商会との提携によって生み出される料理は、王宮の晩餐にも引けを取らない。だが、俺たちの目を釘付けにしたのは、その中央に置かれた一皿だった。
「えっ……カレーライス?」
俺は思わず声を上げた。ダルアがニカッと笑い、得意気に胸を張る。
「まだ『なんちゃって』だけどね! どう?」
「米……! しかも大量だ。」
「東の果ての国から大量輸入したの。アイテムバッグにたんまりあるから、いつでも炊けるよ!」
ダルアの言葉に、俺とペロは顔を見合わせた。日本で当たり前のように食べていたあの味。
醤油と味噌も、かつての勇者がこの世界に残した「遺産」として、宿に保管されていたらしい。
王都の喧騒を忘れ、俺たちは無言でスプーンを口に運んだ。スパイシーな香りが鼻を抜け、米の甘みが口いっぱいに広がる。戦いの緊張が、懐かしい味と共に溶けていくようだった。
「……美味い。最高だ」
「うん、生き返るにゃ!」
異世界で食べる日本の味。これ以上の幸福があるだろうか。
俺たちは束の間の平和を噛みしめていた。――そこに、無遠慮なノック音が響くまでは。
■傲慢なる来訪者
「失礼します、ショータ様」
執事のダルクが、食堂の扉越しに深刻な面持ちで声をかけてきた。
「王国の衛兵隊が押しかけてきました。『ショータとペロを今すぐ引き渡せ』と。……いかがいたしましょうか」
俺は一口だけ水を飲み、箸を置いた。
「……宿に迷惑をかけるわけにはいかない。食事が済んだら会うと伝えろ。……それと、他の仲間も応接室に呼んでおいてくれ」
「承知いたしました」
食後、俺たちは応接室へ向かった。
扉を開けると、そこには最悪の光景が広がっていた。狐のような釣り目をした衛兵隊小隊長・ホクシンと、その背後に控える五人の兵士。彼らは室内の調度品を品定めするように見回し、俺たちが入ってくるや否や、吐き捨てるように言った。
「遅い! 国王陛下の使者を待たせるとは、無礼にも程があるぞ!」
その言葉に、俺の眉間がピクリと動く。こいつら、自分たちが何様だと思っている。恩人の家に土足で踏み込み、食事の時間を邪魔してこの言い草だ。俺はあえて冷めた声で返した。
「……こちらの都合も考えずに押し掛けてきて、遅いだの無礼だのと言われる筋合いはない。そもそも、本当に国王の使者なのか?」
「なんだと? ……魔抜けの分際で、ちょっとスタンピードを処理したからって英雄気取りか? これが証拠だ、見ろ!」
ホクシンはテーブルに国王の証書を叩きつけるように置いた。威圧するような視線を向けられるが、俺は笑みを消してその証書を手に取る。内容を確認し、ペロに回す。ペロも確認し、ダルクに見せる。
ダルクが深々と頭を下げた。
「間違いございません。国王直々の書状です」
「どうだ、頭が高いぞ! 伏して控えよ!」
ホクシンは勝ち誇ったように鼻を鳴らした。
「国王陛下が貴様らへの謁見を許可された。今すぐ着替えて、王宮へ来い!」
用件を伝えると、ホクシンは背を向けて出ていこうとする。
俺はその背中に向かって、静かだが、応接室全体を震わせるほどの大声を放った。
「断る。国王にそう伝えておけ」
その瞬間、ホクシンの足が止まった。彼はゆっくりと振り返る。その目は、獲物をなぶり殺しにしたいという剥き出しの殺意で満ちていた。
■英雄の制裁、戦慄の報い
「……馬鹿者! 魔抜けごときが陛下にお目通り出来るだけでも畏れ多いことだ。断れるはずがあるまい!」
ホクシンが剣の柄に手をかける。
「腕尽くで引っ捕らえても良いのだぞ。……おい、やれ!」
衛兵たちが一斉に抜剣し、俺たちを取り囲もうとする。だが、その動きが完了するよりも早く、俺の指先から「気」の弾丸が放たれた。
パァァァン!
「ぐあぁっ!?」
ホクシンの背後にいた衛兵の膝が、正確に撃ち抜かれる。
勢いよく転倒する衛兵。その隣で、ペロが影から這い出た闇の槍を、別の衛兵の両脚に突き刺す。
「ひ、卑怯な……!」
「喧嘩を売ったのはお前たちだろ」
俺は冷徹に告げた。
エリの矢が、ハルカの風刃が、ダルアの銃弾が、まるで示し合わせたかのように、残りの衛兵たちの脚を正確に、かつ「生きてはいるが歩けない」状態にまで破壊していく。五人の衛兵は全員、両脚を血に染め、地面を転がりながら痛みで呻き声を上げた。
「き、貴様ら……王国に歯向かうのか! ただで済むと思うなよ! 捕まえて、磔にしてやる……!」
ホクシンは剣を構えようとするが、その手が震えている。俺は一歩、また一歩と距離を詰めた。
「……お前たちの売った喧嘩、買ったぞ」
俺は全身から「殺気」を解き放った。迷宮管理者として、幾多の魔物を葬ってきた俺の圧。それは、王宮の薄っぺらな権力者が耐えられる代物ではなかった。
「光猫、風猫、土猫、水猫……彼らを見逃してやろうと思っていたが、その気も失せた。闇猫シュガの仇、受けてやる。国王にそう伝えろッ!!」
ズォォォォン……!
応接室の空気が重く澱む。
ホクシンは恐怖のあまり顔色を失い、喉からヒュウという音が漏れた。その足元が、じわりと濡れていく。失禁だ。
「ひ、ひぃぃぃぃ……っ!!」
かつて王宮の犬として横暴の限りを尽くしていた男が、今、魔抜けの男の前で命乞いすらできずに震えている。
俺は彼を見下ろしたまま、冷たく言い放った。
「さっさと失せろ。二度と俺の視界に入るな」
いつも読んでいただきありがとうございます。
ブックマークをしていただいた方、
評価ポイントを登録していただいた方、
ありがとうございました!
まだ『ブックマークの登録』、
『評価の登録』をしていない方、
気が向いたら登録していただくと
励みになります。
評価の登録をしていただける方は
下段ポイント評価を選択後、
ポイントを選んで
「評価する」ボタンを
押してください。
宜しくお願い致します。




