067 【王都救済】響き渡る英雄の凱歌、そして隠された罪。魔抜けの主、王の誘いを断ちて安らぎへ
■王都の掃討戦、降り注ぐ死の舞踏
王都キャルベルの空は、絶望の灰から希望の曙光へと移ろいつつあった。
俺がリッチを葬り去った瞬間、アンデットの指揮系統は崩壊し、動きを止めた。そこに、俺の頼もしい仲間たちが降り立つ。
「リッチ以外のアンデット、全部倒していいにゃ?」
『闇猫』の系譜を継ぐペロが、影の中に爪を光らせて笑う。
「アンデットなど、私の射程内じゃよ。……さっさと終わらせて食事にするのじゃ」
エルフのエリが弓を構え、ハーピーのハルカが「お腹空いた!」と空中で回転しながら武器を振り回す。ダークエルフのダルアも、愛用の魔導銃を手に闘志を燃やしていた。
俺の肩から飛び降りたドラムは、小鳥のサイズに戻り、ダルアの肩にちょこんと止まった。だが、その瞳は獲物を狙う猛禽のごとく鋭い。
「行くぞ!」
一斉に散開する俺たち。それは掃討戦というよりは、一方的な「狩り」だった。
ペロは影から影へ神速の移動を繰り返し、リビングアーマーの背後に現れては一撃で魔石を抉り出す。エリの放つ矢は、デュラハーンの青白い核を寸分の狂いもなく射抜き、ハルカの風刃がスケルトンの群れを風の渦で塵へと変えていく。ダルアの銃弾は、逃げ惑う魔物の脳天を正確に撃ち抜いた。
王都を守っていた四猫たち――土猫、水猫、光猫、風猫、そして雷猫も、俺たちの圧倒的な戦果を目の当たりにし、驚愕しながらも掃討戦に合流した。
土猫の魔法で地面を隆起させてアンデットを粉砕し、水猫の超水流がデュラハーンを切り裂く。さらに光・風・雷の三猫が放つ複合魔法が、王都を覆っていた影を消し飛ばした。
その狂乱の戦場の中、俺は淡々と歩く。左手に宿る『迷宮核』を伸ばし、消えゆく魔物たちの死体や、放置された魔石をDPへと変換していく。魔物たちの怨念が、迷宮の糧となって俺の左手に吸い込まれていく。管理者となった俺にとって、戦場はそのまま資源の山だった。
■英雄の背中、王の呼びかけ
アンデットたちが一掃された時、王都には静寂と、どこか安堵した空気が流れていた。
ハルカが俺の元へ飛んできて、無邪気に笑う。
「ショータ、帰って食事にしようよ!」
「ああ、そうだな。戦いの後の飯は美味いぞ」
俺たちが集まると、雷猫ライガが穏やかな表情で歩み寄ってきた。
「ショータさん、王国を救ってくれて本当にありがとう。宿には最高の食事を用意させているよ」
「おっ、それは嬉しいな。お言葉に甘えさせてもらうよ」
俺たちは再び巨大化したドラムの背中に飛び乗る。その時だった。王都の統治者である国王ライルと、宰相ウィラが息を切らして俺たちの前に駆け寄ってきた。
「待て! 儂は猫の王国国王ライルだ! この度のスタンピードから国を救ってくれた助力……心から感謝する! その方たちの……」
国王の声が、王の威厳をもって響く。だが、俺はペロと視線を交わした。彼女の瞳には、かつてこの王家が彼女の父・シュガに対して行った仕打ちへの冷ややかな感情が宿っている。俺は首を小さく振り、帰還の意志を固める。
「……行くぞ、ドラム」
「承知!」
国王が言葉を紡ぐ最中、俺はドラムに合図を出した。
轟音と共に、ドラムが王都の空へと駆け上がる。
「おい、国王のお言葉の途中だぞ! どこへ行く!」
宰相のウィラが叫ぶ声も、ドラムの翼が巻き起こす突風にかき消された。俺たちは王宮の報償など、一顧だにせず去っていった。
■英雄の名、そして王宮の悔恨
王宮の屋上、去りゆく黒い龍の影を見つめながら、ライガが一人佇んでいた。そこへ、王国騎士隊隊長の土猫が歩み寄る。
「ライガ、あの者たちは知り合いか?」
「ああ、最近知り合った」
「黒猫が闇魔法を使っていたが……まさか」
ライガは静かに頷く。
「その通りだ。新しい『闇猫』だ。前闇猫シュガの娘だよ」
「シュガの……娘か」
土猫の顔から血の気が引く。
その時、国王ライルが宰相ウィラを呼び寄せた。
「ウィラよ。あの者たちを王宮に連れて参れ。この国を救った英雄だ。丁重な礼をしなければならん。対魔王軍への協力体制も築きたい」
「畏まりました」
国王は、土猫とライガの会話を聞きつけ、眉をひそめた。
「今、何と言った? あの黒猫がシュガの娘だと?」
「はい、陛下。……シュガの娘です」
土猫の言葉に、ライル王は深く、重い溜息をついた。
王の瞳に、かつて隠蔽したはずの罪が蘇る。王国の危機を回避するためという大義名分のもと、闇猫シュガを謀殺し、魔族マロンと炎猫ファイガの企みを黙認し、罪なき村を犠牲にしたあの忌まわしき過去。
「……シュガの娘か。なるほど、だから何も言わずに立ち去ったのだな」
ライル王は、遠く離れたドラムの影を見つめながら、拳を強く握りしめた。
「彼らは、この国の英雄であると同時に……我々が最も恐れ、そして償わねばならぬ存在なのかもしれん」
風が吹き抜け、王都を救った若者たちの背中を、悔恨の念が追いかける。
だが、そんなことは知る由もない俺たちは、美味い飯と安らぎを目指して、猫の安らぐ宿へと一直線に飛んでいた。英雄の称号よりも、今は熱々の料理の方が価値がある。それが俺たちの、そして俺のパーティの流儀なのだから。
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