064 【深淵の一撃】魔力偏重社会の盲点を突け!魔族マロンと魔抜けのショータ、運命の最下層決戦
■迷宮の最深部、魔族の威圧
迷宮『猫の穴』、地下100階。そこは、空気そのものが魔力によって変質した、重苦しい閉鎖空間だった。
扉を開けた瞬間、俺たちの身体は言いようのない重圧に晒された。それは単なる気圧ではない。魂を直接圧迫するような、濃密な魔族の波動だ。
最奥の玉座に、奴はいた。魔族マロン。
その佇まいは、これまで俺たちが戦ってきたどの魔物とも次元が違っていた。190センチの長身、紫色の肌に刻まれた禍々しい文様。漆黒の蝙蝠のような翼を広げ、右手に握られた妖しい光を放つ杖。その姿は、この国の「常識」である魔力偏重というヒエラルキーの頂点に君臨する支配者のそれだった。
「エリ、ハルカ、ドラム……大丈夫か?」
振り返ると、三人は目に見えて怯えていた。ドラムのようなドラゴンでさえ、戦慄で鱗を逆立てている。
「マロンも魔力探知でこちらを探っているようじゃ……。これだけ魔力の質に差があると、私たちが近づいていることなど、奴にとっては暇潰しの余興に過ぎんじゃろうな」
エリが青ざめた顔で呟く。
一方で、俺とダルアは、その「濃密な魔力」というものを肌で感じることができない。俺たちは魔抜けだ。世界中の誰もが絶対視する「魔力」という概念が、俺たちには欠落している。
(……待てよ)
俺の中で、ある事実が閃光のように駆け抜けた。
『極炎の宴』を倒した時も、マロンの屋敷に侵入した時も、リッチと戦った時も。俺は常に敵の死角に潜り込めていた。それはただの運じゃない。
魔力偏重社会の住人は、強者であればあるほど「魔力」を信奉する。敵の強さを測る尺度は魔力、攻撃の手段も魔力。だからこそ、奴らは「魔力を持たない者」を眼中に置かない。
魔力がなければ探知できない。だから、俺という存在は、奴らにとって「いないのと同じ」なのだ。最強の魔族であるマロンでさえ、魔力を持たない俺の「気」など、探知の網から漏れ落ちるノイズに過ぎない。
(魔抜けは、この世界の盲点だ……!)
■宣戦布告と、最強の戦術
俺は皆を呼び寄せ、小声で戦術を告げた。
「俺がやる。リッチを倒した時と同じ戦法で行くぞ。皆は陽動と防御に徹してくれ。魔族の注意を一点に集め、俺が死角から……心臓を刺す」
「分かったにゃ!」
「承知したのじゃ。だが、無茶は……死んでもしないでほしいのじゃ」
俺は気配を消し、影のように床のシミへと溶け込む。エリがゆっくりと扉を開けた。
「ここまで来たことは褒めてやろう。ドラゴンの背に乗って来るとはな。速すぎて驚いたよ」
マロンは冷酷な笑みを浮かべ、俺たちを見下ろした。
ペロが一歩前に出る。その瞳には、父を殺された深い憎しみが宿っていた。
「アタシは『闇猫』の娘、ペロにゃ。……貴方が、父さんを殺したの?」
「ほう、闇猫の娘か。闇猫より魔力は高いようだが、俺には敵うまい。……その通り、父の村にゴブリンを差し向けたのは俺だ」
マロンはあざ笑うように肩をすくめた。
「許さないだと? あっはっは! 滑稽だな。お前に俺が殺せるとでも?」
エリが杖を構え、気力を振り絞る。
「お前は魔王軍の者じゃな。何の目的で迷宮を……!」
「貴様らはここで死ぬんだ。我々の計画を邪魔するゴミは、すべて排除する!」
マロンの杖が禍々しい光を帯びる。極大魔法の構築。一撃でこの部屋ごと全てを消滅させる、そんな威圧感が充満した。
「死ね!」
運命を分かつ瞬き。マロンが魔法を放とうと杖を突き出した――その刹那。世界が止まったように感じた。
「今だ!」
俺はマロンの背後、わずか一歩の距離にいた。
魔力探知など無意味。敵の意識は完全に目の前のペロたちに向けられている。俺は全神経を掌底に集中させた。『気』を練り上げ、一撃必殺の衝撃を込める。
ドォォン!!
鈍い音と共に、マロンの後頭部が強烈な衝撃で跳ね上がる。魔法の構築が強制的に崩壊し、紫色の肌をした巨体が、無防備にうつ伏せで倒れ込んだ。
「ぐっ……な、に……!?」
魔族の強固な肉体をもってしても、不意の一撃は脳を揺らす。奴が身体を動かそうともがく前に、俺は奴の背中に両手を押し当てた。
「終わりだ」
『最大出力・生命力吸収』。
マロンが構築した膨大な魔力、そしてその生命そのものが、まるで底なしの沼に吸い込まれるように俺の体内へ逆流し始める。
「ぎ、あぁぁぁぁッ!? 貴様、魔力も持たぬ……人間が……ッ!?」
マロンの身体が急速に痩せ細っていく。
奴が信奉していた力そのものが、俺という器に注ぎ込まれ、俺の血肉となる。
「……終わりだ、マロン」
俺は最後の生命力を、根こそぎ刈り取った。魔族の肉体が崩れ落ち、灰のように霧散する。
――レベルアップ。
静寂が戻った部屋で、俺は荒い息を吐きながら立ち上がった。傲慢な魔族の支配者は、そのプライドすらも俺のレベルアップの糧となって消えたのだ。
「……勝ったのかにゃ?」
ペロが信じられないものを見る目で俺を見る。
俺は小さく笑った。
「ああ。魔力偏重の世界だ。だが、魔力を持たない俺たちが、奴らの最も脆弱な『隙』だったのさ」
俺たちの冒険は、まだ終わらない。魔族を退け、迷宮の最深部に到達した今、真の復讐劇が幕を開ける。
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