060 【雷光の咆哮】燃える宿を死守せよ!死神の進撃と魔物の殲滅戦
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(誤)スタンピート
(正)スタンピード
■王都を揺るがす蹂躙の刻
ニャルマル商会の二階応接室。窓の外では、王都キャルベルの断末魔のような悲鳴が絶え間なく聞こえてくる。重厚なカーテンの隙間から見える空は、魔物の火炎と破壊の煙で澱んでいた。
俺、シャルさん、エリ、そして情報屋のモヤジーの四人で、張り詰めた空気の中で情報をすり合わせる。
「……で、戦況はどうなっている?」
モヤジーが地図を叩くようにして答えた。
「地獄絵図だぜ。王宮にはサイクロプスとトロルの大群が殺到中。それを騎士隊隊長の『土猫』が死に物狂いで迎撃しているが、防衛線は崩壊寸前だ。さらに王宮内部にはアンデットを率いたリッチが侵攻中。国王陛下である『光猫』と宰相の『風猫』が近衛隊を率いて防いでいるが、ジリ貧だな」
「街中は?」
「ギルドマスターの『水猫』が冒険者と衛兵隊を指揮して踏ん張っているが……低級魔物が多すぎて、手が足りていない」
俺は腕を組む。
「『猫が安らぐ宿』は大丈夫か?」
その問いには、シャルさんが頼もしく答えた。
「ええ、あそこにはニャルマル商会や王宮に匹敵する戦力が集まっていますにゃ。物理的な防御も堅い。おそらく大丈夫ですにゃ」
「……そうか。なら安心だな。俺はこの国の腐敗には興味がないが、お世話になった場所と人たちだけは守る」
すると、モヤジーが苦笑いしながら口を挟む。
「俺の店も気にかけてくれよ。ちなみに……『猫が安らぐ宿』は、シャルの兄さんが経営しているんだ。通称『雷猫』……噂に聞く強者だぜ」
「えっ、シャルさんの兄が『雷猫』?」
シャルさんが少し照れたように微笑む。
「そうですにゃ。事情があって表には出られないため、行方不明という扱いにしていますにゃ。ですが、彼の実力は本物ですにゃ」
その時だった。
シャルさんの腕に巻かれた腕輪型通信魔道具が、短くけたたましい音を立てた。シャルさんが魔力を通すと、焦燥しきった男の声が響く。
『シャル! 頼む、助けてくれ……! 正直、舐めていた。トロルとデュラハーンの群れが宿に……! ショータさんがいるなら、こっちに来てもらえるよう頼んでくれ!』
「兄さん!? 分かった、今すぐに!」
俺は通信魔道具に手を伸ばした。
「初めまして、ショータです。『雷猫』さんですね」
『おお! ショータさんか! シャルから実力は聞いている。宿がトロルとデュラハーンの群れに襲われているんだ。俺一人じゃ防ぎきれない……!』
「了解しました。すぐに向かいます」
『報酬は約束するからどうか……! え、いいのか!?』
「トロルとデュラハーンの死骸を貰う。それで十分だ」
『それは悪いよ……!』
「いつもお世話になっていますから。すぐに着きます」
俺は通信を切り、隣にいたエリを振り返った。
「エリ、ここの守りはハルカと二人で頼む。俺とペロ、ダルで宿へ向かう」
「了解したのじゃ。……主様、やりすぎない程度にな」
「善処するよ」
■死神の進撃とレベルアップ
俺はペロとダル、そして俺の肩からダルの頭へと移ったドラムを連れ、戦場と化した街を駆けた。
行く手を遮る魔物たちは、俺たちの前ではただの経験値でしかない。襲い来るゴブリンには『指弾』を、大型のコボルトには『牙弾』を。俺が放つ弾丸は、一切の無駄なく魔物の眉間を撃ち抜く。
「凄いよ、ショータ……! 私も負けない!」
ダルアが訓練した『気』を足に込めて追走する。以前よりも格段に速い。
横を走るペロが、瞬く間に倒した魔物から魔石を抜き取り、死骸を影の空間へと飲み込んでいく。このコンビネーションはもはや芸術の域だ。
「……レベルアップの音が止まらないにゃ!」
「本当だね! 足が勝手に動くよ!」
俺たちは王都の路地裏を風のように駆け抜けた。途中、魔物の大群が立ち塞がったが、俺が指弾を連射して道を切り開き、後ろの二人が回収する。まるでベルトコンベア式に魔物を処理していく作業のようだった。
やがて、『猫が安らぐ宿』が見えてきた。
「見えたぞ!」
宿の門は既に破壊され、庭へと突き出した塀の内側から、トロルの上半身が覗いていた。その周囲には、青白い電光が飛び交っている。あれが『雷猫』の力か。だが、圧倒的な物量に押され、防戦一方だった。
「行くぞ!」
俺は塀の外から高く跳躍し、空中で重心を入れ替える。
落下地点は、トロルの後頭部。重力を乗せた踵落としが、トロルの頭蓋を粉砕する。着地と同時に、倒れたトロルの胸に掌を当てた。
『生命力吸収』。
肉体が急速に萎み、トロルは干物となって活動を停止する。間髪入れず、アイテムバッグへ収納。
「一匹処理!」
「ニャ、了解にゃ!」
ペロが影から飛び出し、闇の槍でデュラハーンの魔石部分を正確に貫く。その手にはすでに魔石があり、本体は影に消えていた。
■悲劇と……ドラムの食欲
戦場は一瞬で俺たちの支配下に置かれた。トロルとデュラハーンの混成部隊だったが、連携が取れていない。俺が前線で粉砕し、ペロが回収し、その隙をダルアが狙う。
「ふんっ!」
ダルアが魔導銃を乱射する。トロルは銃弾を受けて硬直し、動きを止める。だが、回復力の高いトロルは、その程度の損傷では死なない。彼女の役割は、魔物の行動を制限し、俺に託すことだ。その時、一匹のデュラハーンがダルアの背後に迫った。
「ダル、避けろ!」
「……え?」
その瞬間、ダルの頭上で待機していたドラムが、小鳥の姿からドラゴンの姿へと一瞬だけ変身した。
「グルァァァッ!」
極太の火炎放射――ブレスが放たれた。
轟音と共に、トロルとデュラハーン、そして彼らが立っていた地面ごと、ドラムの炎が焼き払った。
……静寂が訪れる。
「…………」
俺とダルは、呆然と燃え尽きた灰の山を見つめた。
素材も、魔石も、何も残っていない。ただ、真っ黒な炭があるだけだ。
「……ドラム」
「……グル?」
ドラムが小首を傾げる。
俺は頭を抱えた。
「素材が……素材が全部消えたぞ……」
「ショータ……ドラムが悪気はないみたいだよ……」
ダルアが苦笑いしながら、焦げ付いたブレスの跡を眺める。
確かに強力だ。しかし、これでは稼げない。俺はため息を吐きながら、まだ生き残っているトロルの方へ向かった。
「次からはちゃんと手加減しろよ、ドラム」
「グルゥ……(しょんぼり)」
俺たちの守るべき『安らぐ宿』の前で、少しばかりドタバタとした、しかし確実な掃討戦が続いていた。
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