059 【王都蹂躙】王宮を喰らう魔獣の奔流と、影に潜む魔族の陰謀――ニャルマル商会の決戦
12/04誤字修正致しました。
(誤)スタンピート
(正)スタンピード
■地獄の王都、そして聖域への凱旋
王都キャルベルは、今や終わりのない悪夢の最中にあった。空は黒煙に覆われ、魔物の咆哮と人々の悲鳴が、ハーモニーを奏でるように混ざり合って響いている。
俺、ショータは、背後にダルアとドラムを従え、殺戮の道を突き進んでいた。
遠くで巨大な影が動く。サイクロプスだ。奴が鈍重な足取りで家屋を蹂躙し、石壁を紙細工のように粉砕している。この街の衛兵や冒険者では、あの巨躯を止めることは叶わないだろう。
「ショータ、あっちも凄いことになってるね……」
ダルアが震える声で呟く。その手には、先ほどエリから託されたばかりの『魔導銃』が握られていた。
「ああ。だが、今の俺たちには関係ない。今はニャルマル商会へ向かうことが最優先だ」
俺の視線の先には、異様な光景が広がっていた。
本来なら死体が山積するはずの商会周辺だが、そこだけがまるで別の結界で守られているかのように静まり返っていた。屋上で弓を構えるエリの姿が見える。彼女は流れるような動作で魔物を射抜き、俺と目が合うと、不敵にサムズアップを送ってきた。
「……さすがだな。外の防衛は完璧だ」
俺たちが近づくと、商会の影から黒い霧のようにペロが顕現した。
「ショータ、帰ってきてくれたにゃ!」
彼女は俺の懐に飛び込んできた。その首筋には、戦利品であろう魔石の袋が下げられている。
「よくやったな。魔石の回収も忘れないとは、さすがだ」
頭を撫でてやると、ペロは猫のように目を細めて喉を鳴らした。
「ハルカは?」
「店の裏側に回らせてるにゃ。あっちも掃除は完璧にゃ」
商会の入り口に立つと、エリが作った『ドラゴン型ガーゴイル』が威圧的なオーラを放ちながら門番をしていた。その横で、商会主のシャルさんが、心からの安堵を浮かべて俺たちを待っていた。
「お帰りにゃさい、ショータ様」
「ただ今。……中はどうなっている?」
シャルさんは俺と握手を交わすと、静かに、しかし力強く言った。
「この度は、貴方の仲間たちに助けられました。私達商会、そしてここに逃げ込んできた市民にとって、貴方たちは命の恩人ですにゃ」
商会の一階に足を踏み入れた瞬間、俺は息を呑んだ。
そこは、外の地獄とは別世界の「聖域」だった。避難してきた大勢の市民たちが、身を寄せ合いながら恐怖に耐えている。奴隷商の男、情報屋のモヤジー、商会の顧客たち……。
シャルさんは誇らしげに胸を張る。
「この商会は、エリさんとハルカさん、ペロさんが守ってくれています。王宮よりも安全な場所として、避難してきた人たちを全員受け入れましたにゃ」
「……少しは恩を返せたみたいだな」
「少しなんてとんでもない! 私の方が、返せないほどの恩を受けていますにゃ!」
■作戦会議、解き明かされる王都の闇
商会の二階、重厚な扉に守られた応接室。俺たちは即座に情報共有の場を設けた。
ソファには俺、シャルさん、そしていつの間にか部屋の隅に影のように佇んでいたモヤジーと、武装を解いたエリが座っていた。
「スタンピードの詳細を聞きたい。……モヤジー、お前の持っている全ての情報を出せ」
「へへっ、言われなくても準備はできているぜ」
モヤジーが不敵に笑う。
「……エリ、外はどうだ?」
「守りはペロとダルに交代させたのじゃ。ダルには渡した『銃』の試験運用も兼ねてな。それと、鑑定防止の魔道具もしっかりと機能している」
「さすがだ。……これで、俺たちの動きを誰にも探られない」
俺は深呼吸をして、核心に切り込んだ。
「今回のスタンピード、迷宮から発生したという認識でいいのか?」
モヤジーが地図を広げる。
「ああ、間違いない。迷宮の最深部を起点に、最初にサイクロプスが出現。それを合図に迷宮を囲む石壁が破壊された。だが……おかしいんだよ」
「おかしい? 何がだ」
「普通、スタンピードが起きるには魔物の総数が異常増殖していなきゃならない。だが、ショータたちが迷宮を掃除したおかげで、魔物の数は激減していたはずだ。発生する理屈がないんだよ」
「……だよな。地下百階まで攻略し、三十一階以降は根こそぎ狩り尽くした。魔物がこれほど短期間で湧くはずがない」
エリが腕を組んで頷く。
「迷宮の主が、外的な干渉を受けている……と見るのが妥当じゃろうな」
「そうか。やはりか」
俺は昨晩の出来事を語り始めた。
「昨日、魔族マロンの屋敷に侵入したが、もぬけの殻だった。そして今日、王宮からも姿を消している。……このスタンピード、マロンとダンジョンマスターが手を組んだ結果だとすれば、全て繋がる」
部屋の空気が重くなる。
モヤジーが震える手でタバコを吹かす。
「魔族がダンジョンマスターを操り、王都そのものを喰らおうとしている……。とんでもない陰謀だぜ。ショータ、あんたの存在が邪魔だったのかもしれねぇな」
「俺たちを消すための動乱か。……マロンはどこだ?」
モヤジーはニヤリと笑った。
「そっちは俺に任せてくれ。マロンの逃走経路、隠れ家、全て洗い出してみせる。あんたたちは、その『邪魔な障害』を叩き潰す準備をしておきな」
■銃火と影の覚醒
会議を終え、俺は屋上へと向かった。
そこには、ダルアがいた。彼女の手には、先ほどエリが精魂込めて仕上げた『魔導銃』が握られている。彼女は、戦士の目をしていた。奴隷時代の怯えた瞳はもうどこにもない。
「ショータ……私、少しは役に立てるかな?」
「ああ。お前ならできる」
俺は彼女の横に立ち、遠くで燃え盛る王都を見つめた。
マロンという魔族、そして王国の裏切り。全てを白日の下に晒す時が来る。俺たち『魔抜け』の復讐劇は、まだ序章に過ぎない。
「スタンピードで暴れる魔物は、俺たちの経験値だ。全部食らい尽くして、レベルを上げろ。マロンを叩き潰す時、それが最強の武器になる」
「うん!」
ダルアが銃を構える。その姿は凛々しく、頼もしかった。
俺は空を見上げる。王宮の上空に、不吉な魔力の渦が広がっている。魔族の宴は、まだ終わらない。俺たちが終わらせるまで。
「さあ、次の狩りの時間だ。皆、準備はいいか?」
屋上の影から、ペロが。
裏口から、ハルカが。
そして傍らには、ドラムとダルア。
最強のパーティが、ここにある。
俺たちは静かに、しかし確実に、王都の闇を浄化するために動き出した。
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